ちょっと 息つぎ
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久しぶりに聞いた声がきゅうにくもる。
『なんだ?なにかあったのか?ザック?』
「・・・いや、べつに・・・、その・・」
『いや、ならいいんだ。良かった。おまえが問題ないなら、それでいい。なんだよ?電話してくるのが遅いんじゃないのか?』
「ごめん父さん、その、・・母さんは?どう?元気?」
『もう代われって?冷たい息子だな』
「そんなこと言ってねえじゃん。でも、・・・できれば、そうしてもらえる?」
明日の半休もなくなり、引き続き『掘り当て』にでることになった警察要請部強硬隊A班は、ミーティングあと最後に食堂で、ビルの特別ブレンドのコーヒーを片手に翌日の確認をして解散。
まだ自分のアパートメントも探していないザックは、宿直室である自分の部屋に戻ろうとして、出口近くに二台ほど据えられていた公衆電話がいやに目につき、なんとなく、家に電話をいれてみた。
よく考えたら、正式に警備官になってから、はじめてかけた電話だった。
こちらの声を確認してすぐの、父親の深読みな気遣いが、いやにくすぐったかった。
次に出た母親の、連絡を待ちわびたことへの大げさな苦情と、いちいち細かい心配のしかたが、恥ずかしくはあったが、もう、昔のように嫌ではなかった。
「―― うん、うん。わかったよ。今度な。あっ、・・ううん、違うよ・・・いや、でも、まだわかんねえし・・・。ああ、また。もお、やめてくれって!・・・違うよ。あー。ちょっと待って。―― なんだよこれ!ニコルまで!こんなに置いてくなよ!―― ちがうよ、その・・・みんなが横を通るときに、電話用にって小銭を置いていくんだよ。知らない人まで。・・いや、ただ単に、新人をからかってるんだよ。なんていうか、・・・・うん・・まあ、そうだけど・・・。ほんと、変わったやつが多いけど、居心地いいんだ。信じられる?小銭の次にはコーヒーまで勝手に届くんだぜ。―― ビル。その小銭から払うよ。え?・・・わかった。ありがと ―― おごるから、もうちょい親孝行しろってさ。 ほんと、変わった会社だよ。食堂の責任者まで、こんなおせっかいなんてさ。―― もう一度、父さんに代わってくれる?」




