うわごと
「レオン、もしかすると・・」
ころあいを見計らい、ノアがきっかけを与えれば、ようやく落ち着きを取り戻した眼がのぞき、両手がゆっくりと顔を離れていった。
「・・・ああ、そうだ。こいつだ。 この、『スティング』を見逃すなんて、おれはどうかしてる・・・忘れるものか、 この顔に、この傷をつけた凶器だ! おれが三年近く探していた男は、とっくに骨になってて、しかも、二年以上おれの仕事場そばの湖の底にいたんだ! おれは、なんてまぬけなんだ・・・・」
この男が顔に傷を負い、職場に復帰してからも犯人を捜し続けていたのは皆が知るところだった。
それにいきなり、こんな終わり方がおとずれ、あまりのショックに首をふり自分を責めるレオンに、だれもが、かける言葉を迷ったときだった。
ザックがここ数日ですっかり聞きなれてしまった、ケンのにやけた声が部屋に響いた。
「まあ、いま気付いたんだからいいんじゃねえの? そんで、肝心なこと忘れてるだろ? 車にあったのは三人分の骨ってあるけど、おれは、あんたの病室に行ったとき、―― ベッドのあんたが、『四人組のクソガキどもが』って言ったのを確かに聞いたぜ。 それとも、あれって《うわごと》か?」




