初めての
「― おや?彼が?」
射撃場から一番最初に出てきた男が、ザックをみて太い首をかたむけた。
肌が浅黒く眼も口も大きいアングロサクソン系がどこかで入っているとわかる、大柄な男だった。
「A班のニコラス・デイルズだ。ニコルでとおってる。よろしくな」
大きく厚みのある手が、しっかりと握手してくる。
その間に他の男たちも出てきて、外で待ち構えた見物人たちと冗談を交し合う。小銭の音があちこちでひびき、テーブルに置かれたいくつもの灰皿が満杯になってゆく。
次に同じ班員として紹介されたのは、ルイ・アヌエルだった。
よくはわからないが、どこかの訛りがはいったゆっくりとしたしゃべり方をする男で、この場にそぐわない愚鈍そうな印象をうけた。
「あと、副班長っていうの?ジャンは、電話かけにいってる。マメな男だから」そう言ってからウィルは、二つのレーンでいれかわり射撃をしていた男たちをしめし、彼らは勤務あけのM班員だと説明した。
小銭が詰まれた灰皿を囲み、飲み物片手に応援し談笑していた私服の男たちは、強硬隊以外の内勤者たちで、まだこれから仕事だよ、と笑って次々と引き上げていく。
ようやく、目当ての男がドアから出てきた。
黒い髪は手入れされないように伸び目元までかかるが、顔の右側の傷跡を隠そうというものではないようだ。
その隙間から覗く眼とあった。
――― やべえ・・言葉がでない・・
ザックは、今までの人生の中で味わったこともない状態におちいった。
あまりの緊張と興奮で、何を言ったらいいのかもわからない。
昨日まで何回も想像していた、記念すべき初対面の瞬間だっていうのに!
この男に憧れて、訓練生のときから強硬A班以外は行かねえ、と決め、今日まで過ごしてきたのだ。
その男が今、紹介されてもいないのに、まっすぐにザックへ歩み寄り、緊張のあまり自己紹介しようとした声を途中で失ってしまったのも笑うことなく、顔をみた。
「おれが班長のロバート・ソロだ。バートでいい。―― ザック・アシモフだな?」
「 ――― 」うなずくしかできない。
みあった濃い茶色の眼は、なにかに怒っているようだ。
「怖がってるよ?バートもう少し微笑んで」
「微笑んだら微笑んだで、怖いだろ?」
新人の緊張をやわらげようと、ウィルが提案し、ケンが返す言葉に他の男たちが笑う。
「顔はいまさら変えられねえからな。―― 慣れてくれ」
にこりともせず、顔の右側に傷あとを持つA班の《チーフ》が、ザックにくだした、記念すべき最初の令だった。




