長官
「いいか、ケイト・モンデルが絵描きだったのはわかってる。バーノルドの森にスケッチに行っていた?絵描きなら行くだろう?あそこは観光名所だぞ?しかも絵の売り先だと?そんなものとっくに調べて、問題がないから捜査が終わってるんだ。それを、またやり直ししたいだと? ドナ・ホーンは一人きりの姉と仲が悪かった?だからどうした。それで犯人が特定できるのか? サラ・クロフォードの恋人の証言?あんな薬漬けの男の言葉を信じろって?何度も警察に通ってる男だぞ。頭部のことだって、きっとそのときに情報を漏れ聞いて作った話しだ。 そのうえエミリー・フィンチはなんと、おとぎの国にご招待?こんなもの友達のいたずらだ。俳優志望の想像力たくましい女が何に感化されて、どんなことを恋人とやっていようが、事件に関係ないだろう! だいたいお前たち、エミリーの恋人が誰かわかってるのか?あの人は引退前まで文化省の」
「それこそ事件に関係ないだろ。それに、ナタリ・キットソンの教官の話が抜けてる」
きりのない文句を断ち切るようにレオンが指摘し、しばし、シェパードとにらみ合う。
耐え切れなくなったようにシェパードが視線をはずす。
「―― たしかに、この教官の行動は、怪しいところがあるが、今回これがわかったのは、たまたま向こうが動いてくれたおかげだろう?べつに、警備官が『掘り当て』をやったからってわけじゃない」
失笑がもれ、眉間のしわを深めたシェパードがさらになにかいいかけたとき、ノックが響いた。
悪態とともにドアを振り返り、会議中なのがわからんのか!と怒鳴った男が固まった。
「―― それはわかってるが、シェパード副長官。わたしが急に出ることになったので、頼みたいことがあるんだがね」
「ちょ、長官!その、今のはですね」
ドアからのぞきこんだのは、シェパードの上司にあたる男だった。




