のるな
「きみたちがもたもたしているせいで、『バーノルドの森事件』発生から、十二年も経ってしまった。その間犠牲になったのは何人だ?」
男の指がまっすぐにバートを指す。
ただ見つめ返す男に「バート、きみに聞いてるんだ。何人か言ってみろ」といくらか裏返った声で命じた。
「―― 五人だ」
「なんだって?聞こえないぞ。たしかきみはこの事件の最初から、捜査に加わっていたんじゃないか? 《子ども》に仕事をさせる警備会社の考えはとても理解できないし、なんの利益があるのかわからないが、もういいかげん、『片付けて』くれないか? お得意だろう?きみたちはそういう仕事が」
「っ、」 肩に力の入った新人を、ケンが「のるな」と、おさえる。
それを横目で笑った男がもう一度被害者の数を言ってみろ、とバートをさしたが、口をひらいたのはバートの横に座った白髪頭の口髭の男だった。
「おいおい、耳が遠いと大変だな、おれでも一度で聞こえたぜ、シェパード」自分の耳を引っ張ってみせ、みんなが低く笑う。
「黙ってろ、ノア。ここはどこだ?州警察署の本部だ。本来の主導権はどっちにある?もちろん、こちらだ!」
顔を染めて激高する男に、ノアがあきれたように教える。
「この前、クスリをばらまいてるギャングを一斉逮捕できたのは、そこのケンが協力してくれたおかげだぞ」
だがシェパードに感謝の気持ちはないようだった。
「何度でも言うがな、警備官が警察官に協力するのは『当然』なんだ。そんなもんにいちいち頭を下げてどうする?仕事なんだ。当然だろう?さあ、早く始めるぞ」
あんたが言うか?と若い警察官がつぶやいたのに、皆が低く笑い、それをにらむシェパードに、この場の年長者であるノアが「どうぞ、副長官」と促した。




