残念な恋人
「おれさあ、あまりにナタリがバカだから、言ってやったんだ」
――― そんなに隠さなきゃならない男なのかよ?
――― 大事な人だもの。父さんたちになんて、知られたくないわ
――― ・・・それって、おれたちに紹介もなく、ある日駆け落ちするってこと?
「・・・そしたら、目をまん丸にして、すっげえ笑って言ったんだよ。」
――― 彼と駆け落ちなんて、ありえない!!いっしょにどこかへ逃避行?とんでもない!彼はどこにも行かないし、行けないわ
――― 腰抜けってことか。残念な恋人だな
――― 『恋人』?違うわよ。 彼とわたしは、そんな次元じゃないの
「すっげえ目で見返してきて・・・。あんときは、別人に見えた・・・」
「じゃあ、実際にそういう相手がいたのは確かなのか。その、無断外泊先がわかれば早いんだけど」
困ったように前髪を払う男を見上げた少年は目をすがめてみせた。
「・・・なあ、大学でナタリの相手がみあたらないって、ほんと?」
「ああ。きみの姉さんは、男性に対してとても、《冷淡》だった、ってみんなが言うんだ」
だろうね、と弟は肩をすくめて笑った。




