日常業務
警備官ザックががんばるはなしを書きたいと思ったのに、全体的に思く暗いはなしになってしまいました。でも、さいごまでザックはがんばっています。
残虐、残酷表現、場面多し。ご注意ください。
「・・・しらねえぞお・・・」
腕の時計に目を落としたジャン・クレイグは、ぼそりと口を動かした。
時間はかなりすぎている。
いっしょにいる仕事仲間の一人が、ジャンの肩をたたいてきたので、わかっている、という顔をしてみせた。
てもちぶさたな男たち数人がそろって身を乗り出し、今いる橋から身をのり出して下をのぞく。
河の水面からは20メートル以上ある橋だ。
石造りの古いそれは数年前見えない部分を鉄筋で補強されたばかりで、強度に問題はない。
河がゆきつくすぐむこうは海となっている。
逆の、流れをのぼった先には倉庫があり、そこに用がある中型以下の船だけが行き来できる幅の流れを、ジャンは見下ろす。
水面には、石橋の暗い影しか映っていないが、その黒い部分には、先ほどからずっと、数人の男たちが身をひそめているのだ。
橋の上からながめる数十メートルかわ上に、そのクルーザーはエンジンを止め、警察官に取り囲まれ静かにゆれていた。
四艘の海上保安課の船には警察官たちがぎっしりと乗り込み盾をたて、これ以上かわ下、つまり海にはいかないよう押さえ込もうとしている。
もちろん、かわ岸にはライフルを構えた別隊が静止している。
ジャンは同情的な息をついた。
取り囲んだ船には人質がとられている。
船の警察官たちは、かれこれ三十分近く人質解放の、説得を続けていた。
にらみあった犯人は、もちろん聞く耳などもっちゃいない。
人質とした男に拳銃をつきつけ、『早くどけ!おれは海に出たいんだ!』の一点張り。
どうやら海で仲間にひろってもらうつもりのようだが、「まあ、無理だろ」とは、ここにいる男たちにみんなの感想だ。
こんな『下っぱ』の薬の売人を助けにくるほどギャングは優しくないし、それよりもっと、この橋の下で待ち構える男たちが、優しくない。




