3話「ようやく止まった涙」
「落ち着いたか」
窓際で、ベッドに腰掛けて。
そんな風にしてじっとしていた私に声をかけてくるのは国王だ。
「……はい」
つい感情的になってしまって、それで、しばらくこうして二人でじっとしていた。
もちろん、特別なことなんて何もない。
当たり前のことだがお互い何をするでもなく時だけが過ぎた。
「……すみませんでした、当たり散らしてしまって」
「いや、気にするな。こちらこそ貴女の心を考えず余計なことを言ってしまい申し訳なかった」
「いえ……」
「許してくれとは言わないが、それでも謝罪しよう……すまなかった」
銀色の長い髪が特徴的な若き国王。
彼は名をバルブシーズといった。
外国人の名前としても少々珍しいもののように思うが、でもまぁ、名前なんて無数にあるものだから知らないものもあって普通なのだろう。
「実は、少し話をしたいと思ってな」
彼は立ったまま窓の外へと視線をやっている。
遠いところをぼんやりと見つめているかのような目つきだった。
「話、ですか?」
「貴女について聞きたい。どこから来たのか、元の世界ではどういうことをしていたのか」
バルブシーズはどうやら私に興味を持っているらしい。
……まぁ厳密には『私に』ではなくて『聖女である私に』なのだろうが。
「日本という国から来ました」
「聞いたことがないな、そのような国は」
バルブシーズは顔の向きをこちらへ移した。
彼の透き通るような青い瞳が私をじっと捉えている。
空のような、海のような、世界そのものの始まりの色とも言えるような色をした瞳――壮大で、とても美しい。
「そうですか……」
「そちらもこの国のことは知らなかったのであろう?」
「はい、知りませんでした」
少し間があって。
「それで、仕事などは何かしていたのか?」
彼は話を進めてゆく。
「高校生でした」
「……コウコウセイ?」
「高校、というのが、勉強を教えてもらう施設でして。そこに生徒として通っていたのです」
「勉強をしていたのか」
「はい」
「それは……女性だというのに珍しいことをしていたのだな」
「日本では女性も勉強をするんです、ある程度は」
話をしているうちに段々涙が止まってきた。
ここにいることに慣れたくはない。
だってそれは向こうの世界と距離が離れていっているということだから。
ただ、一人ぼっちでいるよりかは誰かと一緒にいる方が自然と心が落ち着いてくるもの――それもまた確かなことだ。
「それは興味深い世界だな」
「そうですか?」
「またよければ色々聞かせてほしい」
言うべきでないと思いつつも。
「……楽しいですか? 私のことなんて聞いて」
つい少量の毒を吐いてしまう。
卑怯だな、私。
彼が優しいと知っていてこんなことを言うなんて。
だが。
「ああ……! 実に興味深い、楽しいぞ……!」
想定外に明るく返されて、戸惑い。
「楽しくないわけがないだろう! 未知の世界の話、ロマンに満ちている!」
「そ、そうですか……」
「貴女はそれが普通と思っているから面白く感じないのだ、恐らく」
「そういうものでしょうか……」
「ああ! きっとな! これからも色々聞きたいと思っている」