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ちょっと待ってお姉様、親友と浮気した旦那とそのまま続けるおつもり?  作者: 江戸川ばた散歩
第一章 とりあえず浮気相手のところへ行ってみた
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④カイエの最初の結婚

「お義兄様の従弟の方ですね。確か見初められたとか」

「みたいね」


 亡夫に対してはずいぶんと冷ややかな口調だった。


「結婚式から二ヶ月ほどした頃かしら。トリールから呼び出しがあって。あのひとの新居にお邪魔かしら、と遠慮していたのだけど、是非に、ということで呼び出されたのが、新居ではなく、貴女の自宅だったのは覚えてる?」

「いえ、その時はまだ寮だったし」

「でしょうね。で、私何だろうと思って出かけたら、それがグレヤードとのお見合いだったというわけ。オネスト様はにこやかに、自分の従弟が披露宴で見た私に一目惚れだったということで。トリールの友人だからとということで信用ができる、とか何とかでぜひ結婚を、ということだったの」

「その時のお姉様は?」

「大喜び。それはそうよね。だってその時点ではまだトリールはオネスト様との新婚時代で、毎日楽しそうにぱたぱたと慣れない家事をしていた時期だったでしょうし。確か旅行にも少しでかけたのではなくって?」

「ええ、近場ですが。そうですね、この湖くらいの距離のところですけど、景色の良い温泉地で」


 帝都ではお父様が若かった時代辺りからお湯に浸かる風呂が好まれる様になってきた。

 それまでの時代はせいぜい身体を綺麗にするにしても、水、もしくは湯を沸かして身体を拭くのが普通。

 北の地の場合は蒸し風呂が昔からあった。

 その全身を温めるという方法が「心地よい」という報告で伝わってきた辺りで、水源が割と豊かな帝都では水道の整備と共に湯に浸かるという方法に代わったらしい。

 これが南の方になると風呂場というところ自体が大きな社交場になっているとか学友から聞いたことがあるが…… まあそれはいい。

 そんな熱い湯がこんこんと湧き出てくる場所というものはやはり珍重された。

 しかも大概は山地かそれに近い場所であったことから、風光明媚ということも付け加え、なおかつ短い距離の私設鉄道の宣伝場所としても有効だった。

 要するに簡単に行きやすい旅行地だったのだ。


「それで旅行の時に子供ができたら…… とか思ってもいたみたいだけど、トリールはどうしたことか、数年経っても子供ができなくて」

「お姉様もそれは気に病んでましたけど」

「私の方はといえば、お見合いした時に両親が居ないこと、今は売り子をしていることとかちゃんと言ったのに、グレヤードが関係ない、私がいいということで割とさくさく話がまとまって」

「本当に一目惚れだったんですね」

「ええ、それは認めるのだけど」


 彼女は少しだけ困った顔をした。


「惚れやすいってことは飽きやすいってことでもあるのよね」

「飽きやすい?」

「ええ。私はそれほどなら、と思って結婚したの。それに、オネスト様の従弟だだったら、という気持ちもあったわ」

「そうなんですか」

「私もまだ子供だったのよ。貴女とトリールがまるで性格が違うんだから、従弟なんていったら全くの別人だというのに。でもその時の私は、やっぱりあまりにも関わってきたお客の男達とかと比べすぎていたのね。好きでいてくれる人ならいいんじゃないかって思ったの。で、少し離れた鉱山に赴任するというから、披露宴もそこそこですぐに引っ越し」


 このお義兄様の従弟のグレヤードという人は、正直お義兄様に比べると頭のほうはそう良くなかったらしい。

 なので中等学校からその上、ということにはならず、直接職に就くに有利な工業学校に通わされていたということだ。

 それでも、鉱山の方ではそこまで出ていれば技術管理側の社員として雇われることとなる。


「向こうは向こうで何かと忙しいらしくって、私、慌てて職場を辞めて、荷物をまとめて付いていったの。それで新婚生活を始めたと思ったら、もうあっさり子供ができちゃって。それこそ本当にすぐだったのよ」


 それが今遊びに出ているというマリマリちゃんらしい。


「でも両親が居る訳でもない私は、そんな時どうしていいのか解らなくて、……まあ、社宅住まいだったから、周囲の女の人達も心配してくれたけど…… 体調の変化が酷くて、結婚したばかりの夫の相手がまるでできなくなったのね。彼が好きな酒の匂いがすればむかむかしたし。そうすると次第に帰りがどんどん遅くなっていって」


 嗚呼それは、と私は何とも言えない気持ちになった。

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