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⑤学校を辞めるカイエを姉は理詰めでは説得できなかった

「ところが結局カイエは卒業パーティの花形にはなれなかったのよ。実家のある辺りの大火のせいで」

「確かそれで最終学年を残して退学なさったと」

「そうなのよ」


 ふう、とお姉様は心底悔しそうなため息をついた。


「あの時、私は本気で引き留めたのよ。お父様に頼めば、元々何かと調査の際には向こうの町の商家は協力をしてくれたのよ。材木商などと言えば川と深く縁がある訳だし。だったらそこの娘で私の親友、休暇には連れてきたこともあった娘の一人を援助するくらい大したことではないと! お父様を説得する材料は幾らでもあったのよ。うちにはそのくらいの余裕はあるし、お父様自身、基本的に学問ばかの人情に厚い人だから、説得すれば大丈夫だって確信もあったわ。だけどカイエ自身がどうしても受け容れてくれなかったのよ」

「お姉様のお得意の説得も、そこでは駄目だったのかしら?」

「マルミュット、一番説得がし辛い人種というのはどういうものか解る?」


 お姉様はまた酷く皮肉げに笑った。


「理詰めでは全く説得できない、ともかく感情が先に立つひとよ。マルミュット貴女に対しては理詰めで私が説得すれば納得するでしょう?」

「ええ。きちんとした説明と裏付けである資料が提示されるなら」

「ところが彼女はそうじゃなかったわけよ。私がどれだけ言葉を尽くそうと、うちにはこれこれだけの余裕がある、貴女のご両親にうちのお父様は感謝している、その他もろもろ」

「でも駄目だった? どうして?」

「そうしたくない、それだけだったわ」


 苛々した表情。

 普段目にすることのないそれだった。


「小さな頃から、ご両親に『自分で何とかできそうなことなら人に借りを作るな』と言われて育ってきたんですって。私に何も言わずに学校の方から紹介できる就職先をさっさと見つけてきてしまったわ。――そう、私に何も言わずに!」


 たん! とお姉様はテーブルを叩いた。


「まあね、解ってたんでしょうね。私がこれでもかとばかりに説得してくるだろうことは。商家の娘だったら、より自分にとって有益な方を選ばないの? ちゃんと卒業した方が職に就くにしても良いところがあるじゃない、と言っても駄目だったわ。そういうところは本当に強情。そして私は、大好きなあのひとの言うそんな感情にはどうしても勝てなかったのよ。だからもう、ただ百貨大店でできるだけ買い物をするしかない、と思うしかなかったわ」

「いやでもお姉様、だったら今回は何故、カイエ様はあっさりお姉様の手助けを受け容れたの?」

「それは単純。あの時点で彼女も切羽詰まっていて、自分の力ではどうにもならなかったからよ」

「そうなの?」

「だってあのひと妊娠していたでしょう? しかも子守や娘にもそのうちお腹が大きくなって何が起こったのか解ってしまうじゃない。娘時代の一人で何とかなる、という状態とは違ったわ。もし子守が自分の給金のおおもとである北の地の伯父様にこっそり手紙でもしたためたら? 小さいとは言え娘はお腹の大きくなって体調の優れない母親に疑問を持ったら? そして何より、自分の体調が妊娠中に悪くなったら? 社宅住まいの中で、そういうご近所の奥方を見てきたか…… マリマリちゃんがお腹に居る時に、そういう話を聞いてきたのでしょうね。だから、あの時別れてもまだ何処かで探そうとするだろうオネストからの避難のために引っ越したけれど、あの時点でカイエには次策は無かったのよ」

「そうだったんですか……」

「実際あのひと、私が見つけた時にはもう観念した顔だったわ。もしかしたら私には見つけられると思っていたのかもしれないけど」

「まあ、お姉様なら見つけると経験則で知ってたのでは?」

「嫌ねえ、そこまで学校時代に露骨には見せていないわよ」

「でもカイエ様は理より情の方でしょう? そういうひとは、私達理詰めの頭でっかちの人間より勘がはたらくことがあるんですよ。無論それも、意識しないだけで記憶とか色々で理が存在するんでしょうが、当人の上には無意識に出てくるものですし」

「そうね、カイエにはそういうところがあるわ。まあ時間を戻すと、私はともかく学校を辞めて職に就いたカイエとは、ともかくできるだけ会える時に会う! を実行したのね」

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