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 あれから一週間。紬ちゃんの様子は快調に向かっていた。そして久しぶりの祈りを今日する。


「すっごく緊張します……!」

「そんなに緊張しなくて大丈夫。今日までたくさんのお話を世界樹としたでしょう」

「はい……」

「世界樹への祈り、その一はなんだったかしら?」

「……後ろ向きなことは考えないことです」

「それじゃあ世界樹への祈り、その二」

「楽しいことを考え、世界の美しさを想像することです」

「最後に世界樹への祈りに最も大切なのは?」

「世界樹との対話を楽しむこと、風や水面の音を聞き穏やかであることです」


 私は紬ちゃんの答えを聞いて微笑む。そして紬ちゃんの冷たくなっている手を包み「紬ちゃんが安心できるかわからないけれど、しばらく紬ちゃんの祈りには私も一緒にいるわ」と伝える。


「本当ですか!?」

「ええ」

「祈りの場中央まで一緒に来てくれますか?」

「そのつもりよ」

「……」


 ばっと腕を広げて私に飛びつく紬ちゃん。私は驚いて体勢を崩したけど、横にいてくれたアルトが紬ちゃんごと支えてくれた。


「ごめんなさい! セシルさんが一緒に祈りの場中央に来てくれると思ったら嬉しさが爆発しました!」

「大丈夫よ。でも危ないから突然飛びつくのはなしよ」

「はい! 本当にごめんなさい! それからアルトさんありがとうございます!」

「いいよ。痛いところはないかい?」

「大丈夫です! あ、でもセシルさんは大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫よ。アルト。私からも、ありがとう」

「いいんだよ。君たちに怪我がなくてよかったよ」


 今ので乱れてしまった紬ちゃんの聖女の正装を直す。すると紬ちゃんはお礼を言ってくれて、恐る恐るといった感じで私に問いかけてきた。


「セシルさんは、その、今日は正装はしないんですよね……?」

「ええ。そうね」

「あの、その、正装って一人しか着られないんですか?」

「そんなことはないと思うけれど……」


 嫌な予感に、言葉の最後が声になったかならないかくらいで消えた。


 紬ちゃんは意を決したように、ずいっと私に近づいた。そして……。


「あのっ! セシルさんも正装にしてください!」

「……」


 予想通りの言葉に、つい苦い顔をしてしまう。


 ……持ってきていないわけではないけど、この国で着るのは抵抗がある。だけど私が着たことで紬ちゃんの精神が安定するなら、着るほうがいいのは間違いない。


 私は小さくため息を吐きそうになって、慌てて飲み込む。


「わかったわ。着替えてくるから少し待っててくれるかしら?」

「はい! いつまでも待ちます!」

「アルト。ごめんなさい。着替えてくる」

「うん。待ってるから慌てないようにね。怪我をすると危ないし」

「ありがとう」


 私は部屋へ戻って鞄を開ける。そこから綺麗に畳まれた青みががった白色の正装を取り出す。そしてドレスと着物が綺麗に融合したような服を着て、髪を整える。それも終わったら同色のベールを着けて用意は終わり。


 全身鏡の前で最終確認をして、変なところがなかったので二人の元へ急ぎつつ向かった。


 私の正装を見た紬ちゃんが悲鳴に似た声を出して「綺麗……好き……」と最後まで聞こえなかったけれど、少しの間顔を覆いながら何かを呟き続けていた。そしてその全てが聞こえていたのか紬ちゃんの横にいたアルトは頷き続けていた。



         ***



 祈りの場中央にて紬ちゃんが世界樹に祈りを捧げている。それを少し離れたところで見る私。そしてその私の元へやって来た世界樹の子供たち。


 世界樹の子供たちの姿は聖女だけが見えるわけではなくて、見える人見えない人がいる。妖精や精霊、幽霊と同じように考えてもらえると分かりやすいと思う。


 私はそういう存在が見えやすいという体質らしい。今日はたくさんいる。前は二人だったのに。


『セシル。あなたに伝言だよ』

『伝言伝言!』

『伝言だー!』

『誰からだと思う?』

『王様からだよ!』

「っ……!」

『お、う、さ、ま!』

『王様、セシルと一対一で話をしたいんだって』

『中央には入らないで、あそこの入り口から叫んできたのよ』

『笑っちゃったよね』

『ねー』

『ねー』


 国王が私と、話がしたい。あの日から、アルトとも扉越しでしか話をしていない国王が。


 紬ちゃんの祈りの邪魔にならないように、小さな声で返事をする。


「陛下はいつがいいと言っていたのかしら?」

『いつでも』

『セシルが会ってもいいと思ったとき!』

「それだとタイミングが合わなくて会えないわよね……」

『大丈夫!』

『王様、毎日ここに来てる!』

『夜! お月様が綺麗な時間!』

『場所はね、ここ!』

『セシルは祈りの場中央! 王様は入り口!』

『セシルと話さなければって言ってた!』

「そう。教えてくれてありがとう」

『どういたしまして!』

『いいよー!』

『いいんだよー!』


 わいわいきゃっきゃっと私の回りを飛び回る世界樹の子供たちは、陛下からの伝言を伝え終わったからかほとんどの子が紬ちゃんを覗きに行った。


『セシル。きっと変わるわ』

「……」

『もちろん、いい方向にね』

「そうだといいのだけど……」

『あなたがここにいてくれた十三年見てきたわたしたちが言うのよ』

『そうだよ。それにほら、前の王様だったらぼくたちに伝言なんて頼まないよ』


 二人の言葉に、小さく頷く。


 確かにそうだ。私の知っている国王は、祈りの場(ここ)に近づくことさえしなかった。ただ祈ればいいのだと、あの部屋で私を見下ろし告げるだけ。その国王がここへやって来て伝言を頼んだのだ。私も覚悟を決めて、一対一で国王と話すべきだろう。


「ありがとう。陛下に会ってみる」

『ええ。それがいいわ』

『王様が来る時間はだいたい十二時に近い時間だよ』

『一人では危ないから、途中までは世界樹の神子と一緒のほうがいいと思うわよ』

『そうだね。ぼくもそのほうがいいと思う』

「ええ。アルトに相談してみるわ」


 いくら私でも夜更けに一人でここまでくるのは怖いので、帰ったらアルトに相談しよう。


 そう思いながら、紬ちゃんの祈りの姿を見つめた。

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