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 あのあと女王様たちと一緒にお城へと戻り、あの国へ戻る荷造りをした。そしてその日は女王様はいつも以上に私のために時間をつくってくださって、たくさんお話をした。そのときにアルトから「僕はもうあの国の第二王子ではないから呼び捨てで呼んでほしい」と言われたのでそこから呼び捨てで呼んでいる。最初は少しくすぐったい気持ちになったけれど、呼ぶうちに馴染んで愛しさが増していった。


「……」


 次の日から四日かけて、この国へと戻ってきたわけだけど……。


「お久しぶりです! 聖女様!」

「よくお戻りくださいました!」

「あなた様がこの国にいてくださればもう安心です!」

「よかった! ああ、よかった!」


 など手のひら返しも良いところ、盛大に出迎えられた。


 虫酸と吐き気がする。女王様たちと一緒に過ごしてきた私は、作り笑いのしかたを忘れてしまった。だからただただ険しい顔をしていると思う。


「久しいな。聖女よ」

「陛下……お久しぶりです」

「よく戻ってきた。今日から聖女の務めをせよ」


 私が口を開こうとしたとき、すっと私の前に誰かが立った。それが誰なのかというのは私が一番わかっている。


 私の前に立ってくれた彼が国王に向かってはっきりと言ってくれた。


「陛下。彼女はこの国へ戻ってきたわけではありません。彼女は新たな聖女に聖女としての務めを教えるために来たのです」

「なんだと? それは真か? 聖女よ」


 低い、低い声で問いかけられる。


 今の私には、昔の私にはいなかった存在がいてくれる。その存在が私を強くしてくれる。恐れて、嫌悪するだけじゃない。ちゃんと自分の気持ちを言いなさい。あの人たちに笑顔で会えるように、あの人たちの元へ戻ったときに恥ずかしくないように。


「その通りです。私は彼女に聖女の務めを教えに戻りました。私がこの国で祈りを捧げることはもう二度とありません」

「……」

「彼女に会わせてください」

「偽の聖女ならば祈りの場にいる」

「場所をお教えくださりありがとうございます。それから彼女は偽物ではありませんよ。この国で祈りを捧げる聖女は心が、あなた方に殺されていく。だから聖女の力を遺憾なく発揮することができないのです」

「……」

「聖女もあなた方と同じただの人の子です。恐怖で抑えつけるのではなく、優しさと誠実さを。そうすれば私たち聖女は力を遺憾なく発揮することができます」


 国王の目をまっすぐ見つめ想いの全てをぶつける。


 変わるとは思っていない。それでも誰かが言わなければならない。昔の私は諦めた。でも今の私は違う。他人のせいにして自分では何もしなかった私じゃない。


 アルトがそばにいてくれる。

 女王様が私を大好きだと言ってくださった。

 魔族のみんなも優しく誠実に接してくれた。


 だから今の私は、はっきりと国王に向かって話せる。


「外の世界へ出て、私はそのことに気づきました。だからどうか今一度、聖女についてお考えいただければと思います」

「……」

「それでは私たちは彼女に会って参りますので、これで失礼致します」


 頭を下げ、アルトの腕を引く。去り際に見た国王は何かを考えているように見えた。それがいい方向ならいいのだけど。



         ***



 彼女がいる祈り場へと着いた私は、アルトに外で待っていてもらえるようお願いをして一人中へと入った。


「……!」


 泣いている声が聞こえた気がする。


 私は走って祈りの場中央を目指す。そして着くと同時に見える地面に伏せて声を殺し泣く少女。


「紬ちゃん!」

「っ……セシルさん」


 ぼろぼろと大粒の涙を溢し、前とは違いどこからどう見てもやつれてしまっている彼女。


 あまりの痛々しい姿に、私は近づきできるだけ優しく抱き締める。


「よく頑張りました」

「ふっ、う……」

「泣いていいの。大丈夫。私しかいないから」


 そう伝えると、声を出してわんわんと泣き始める紬ちゃん。体は震えているし、痩せてしまっている。


 こちらの都合で異世界から喚び出したのに、こんな風になるまで追い詰めるなんて……。


 私がいたあの三日間は、紬ちゃんへの対応がとてもよかったから安心していた。だけどやはり私と同じか……いいえ。きっと私よりひどい扱いを受けていたに違いない。


 それを思うと、胸の辺りがぎゅっと握られたように苦しくなる。


「セシルさ、ん……」

「なあに?」

「ごめっ、なさ……わた、しがいるから、ここから追い出されたって……ごめ、なさい」

「いいえ。謝るのは私。私がここから出ていくときにあなたも一緒に連れていくべきだった」

「セシルさんは、何も悪くないです。私がちゃんとやれないから……」


 あやすようにぽんぽんと背中を軽く叩き続けていると、落ち着いてきたらしい。


「セシルさん。ありがとうございます。それからごめんなさい。私のせいで服が……」

「大丈夫よ。だから気にしないで」

「でも……」

「少し見てて」


 私はそう言うと、紬ちゃんの涙で濡れたところを魔法で浮かす。そして涙を蝶の姿へと変化させる。元が涙だから水色を少し足した。


「わ、きれい……」


 紬ちゃんは蝶を見て笑ってくれた。それに安心する私。


 よかった。まだ紬ちゃんの心は完全に殺されていない。


「紬ちゃん」

「はい」

「私がここへ来た理由を話すわ」

「……はい」


 私は紬ちゃんにここへ来た理由を話した。そして紬ちゃんはそれに承諾してくれた。


 まず第一段階はクリア。ここからが大変だ。でもやらなければ。


 紬ちゃんが元の世界へ帰れるように。そして私が自由であるために。

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