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3/12

エンゲルベルト家


 転生から多分一年が経った。

 とは言っても日数を数えていたわけではない。

 体感的にそれくらい経ったような気がするだけだ。


 ベッドで寝転がりながらそんなことを考える。



 この一年の間に俺は随分と成長した。

 体もしっかりしてきたし、聴覚や視覚もだいぶまともになってきた。


 そして何より嬉しいのが──ハイハイでの移動が可能になったことだ。


 移動ができるとは素晴らしい。スピードは徒歩より大幅に劣るが、バタバタからは大幅な進歩だ。

 初めてハイハイできた日には、感激のあまり思わずビャーっと泣いてしまったものだ。



 それに、言葉も結構理解できるようになってきた。

 本気を出すと決めたあの日から、俺は言語を理解することに全ての労力を費やした。


 言葉ってのは理解しようと思いながら聞いてみると、意外とすぐに覚えられるものらしい。


 英語を勉強したいのなら外人の愛人を作れ、というのもあながち嘘ではないのかもしれない。


 父親が眠る前によく絵本を読み聞かせてくれたのも功を奏したのだろう。

 リスニングでは、単語は覚えられても文字は覚えられないからな。


 文法的には日本語より英語の方が近いと思う。

 漢字みたいに文字自体に意味があるのではなく、文字を組み合わせた単語に意味がある……って感じだ。


 それほど複雑ではない。むしろ簡単だ。



 口が発達していないので会話はまだできないが、短い単語ならギリ言える。


「まーま」

「だーだー」

「おなか、おなか」


 こんな感じだ。

 まあ伝えたいことは大体伝わる。


 そしてこのお陰で、お漏らしの前兆を伝えることが可能になった。

 人類にとっては小さな一歩だが、俺にとっては自立した人間への大きな第一歩である。



 さて、ハイハイができるようになったことで俺の行動範囲は随分と広かった。

 流石に外には出れないが、家の中なら基本どこでも行ける。



 一巡したところ、部屋は全部で12個あるらしい。

 一階には居間や台所、食堂など。

 居間にはレンガ造りの暖炉が置かれていた。サンタさんが煙突から下ってくるタイプの奴だ。


 季節は秋……ていうか晩秋。

 そろそろ暖房が必要になる季節だ。

 今は何も焚かれていないが、そのうち薪がくべられるのだろう。



 次いで二階。

 二階には俺の部屋の他にもいくつか寝室があった。

 一つにはキングサイズのベッド。

 もう一つにはシングルサイズ。


 前者は多分両親のものだ。

 きっとここで俺はデキたのだろう。

 ギシギシアンアンしながら。

 うーむ、けしからん。



 そして後者が執事の部屋。

 彼はゴーズというらしい。

 いつもゴーズ、ゴーズと呼ばれている。

 部屋は執事らしく、きれいに整えられていた。


 執事の名前が分かっているのだから、当然両親の名前も判明している。



 父がリヒャルト。

 リヒャルト=エンゲルベルト。

 いつもはリーヒと呼ばれている。


 そして母がカーラ。

 カーラ=エンゲルベルト。



 名前の方は耳で聞いて覚えたが、姓の方はリーヒの書斎にあった書類を勝手に拝見させてもらい、判明した。


 書斎は二階にあるのだが、普段は鍵が閉まっていて入れない。

 だがあるとき、ドアが開いたままになっているのに気づいた。


 前々から興味は持っていた俺。


 もちろん見逃すわけもなく、わずかな隙間から中に滑り込んだ。

 小さい体はこういう時に役立つ。


 内装は重厚的だった。

 部屋の中央に取り付けられた重厚な机を囲むように、高さ一メートルほどの本棚がぐるりと置かれている。本棚は分厚い皮本で埋められていた。


 そして床には羊皮紙が落ちていて、そこに一家の名前が書かれていた。

 内容は難しすぎて理解できなかったが。



 ついでに、俺の本名はライムントというらしい。

 みんなライって呼ぶので、てっきりそれが本名だって思ってた。

 ライムント・エンゲルベルト。

 ドイツ系だろうか。

 なんていうか……かっこいい。



 さて、家を何周もして確認できたのは、やはりわが家はだいぶ裕福だということだ。

 でも大商人っていう感じではない。


 リーヒはいつも家にいるし、商人みたいにそろばんをはじくこともない。


 毎日誰かとの面会をこなしているが、それもせいぜい1日あたり2、3回。

 あと、月に1、2回馬車に乗ってどこかに行く。


 仕事は多分それくらいだ。


 商人にしては随分と暇を持て余しているように思う。ので、きっとここら一体の地主なのだろう。

 転生後のスタート地点としてはかなり理想的と言っていい。



 そうそう。

 リーヒは暇な時、いつも庭で剣技に励んでいる。


 窓によじ登ってたまにその光景を眺めるのだが、彼の剣さばきは美しい。

 素人目にもわかる。

 かっこいいとかではない。美しい。


 なんだろう、無駄な動きがないのかな。

 知識がないので分からないが、それでも彼の動きからは()()のようなものを感じる。


 そして早い。

 こちらの頭が処理し終わる前に、すでに違う動きに入っているのだ。

 一目でわかる。強い。


 何がすごいかって、そこにイケメンも重なってくることだ。


 かなり若いはずなのだが、キ○タクのようなダンディな男の雰囲気をすでに醸し出している。

 端的に言うと、エロい。

 カーラが惚れるのもわかる。



 もちろんキ○タクをオトしたカーラもすごい。

 スタイルもさることながら、顔もずば抜けていい。

 やはりエルフだからだろうか。


 これは俺の将来も明るいだろう。

 夢の中で「イケメンにしてくれ」と願ったのが叶えられたのだろうか。



 ちなみにカーラもかなり強い。

 たまにリーヒと手打ちしているのを見るが、父に勝らずとも劣らず、って感じだ。


 純粋な剣の技に限ったらリーヒが圧倒するだろうが、カーラはそこに魔法を組み合わせてる。

 そのコンボがうまい。

 足元を泥沼にしたり、水をかけたりしてできた一瞬のスキを的確につく。


 賢い戦い方だ。

 女性であるがゆえにどうしても生まれる体力の差をうまくカバーしている。



 対してリーヒは、ほとんど魔法を使わない。

 純粋な体力だけで対抗している。


 彼の運動能力は人並み外れているらしい。

 平気な顔をして3メートルくらいジャンプする。



 そんな感じで2人の実力は拮抗している。

 リーヒが勝つ日があれば、カーラが勝つ日もある。

 良きライバル、って感じだ。


 ライバル同士が結婚。

 いいシチュだな。

 その設定だけで3回抜ける。



 ……まぁ、やはり一年だけではあまりこの世界のことは知れない。もっと大きくなって、色々なことに挑戦してみたいものだ。


 では大きくなるにはどうすればいいか。先人の教えに従えばよい。そう、「寝る子は育つ」である。


 てなわけで、おやすみなさい。


 大きくなることを夢見て、俺はスヤァっと眠りについた。


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