第9話 ダンジョン最下層で、希望が見える
腹ごしらえをしたあと、キノコの群れへ向かった。肉とキノコじゃやっぱり、腹の満たされ具合が全然違う。キノコはカスカスふわふわしているせいで、栄養にならなそうだし。
今は肉を食べた方がいいだろう。傷や疲労の回復にも繋がるし。
「それで、なんでこっちに向かうんですか?」
隣を歩くミヤビが不思議そうに尋ねる。さっき聞いたところ、彼女はあまりダンジョンに詳しくないらしい。ギルドにも2ヶ月前に入ったばかりだとか。そんな短期間で第13層まで攻略できるなら、将来有望だ。しかも、荷物を背負って1人で攻略しているし。
「こっちが下の層に繋がる道なんだ。ダンジョンは右回りの螺旋状になってるから」
「なるほど……全然知りませんでした」
フムフムとミヤビが頷く。勤勉なところも、彼女の強さに加担しているのかもしれない。
「キノコの群れを越えたら、下の層に繋がってるんですね」
「そうそう。ここが深いっていう俺の予想が当たってたらね」
「でも一日中移動して疲れましたね。下の層に行ったあとどうするんですか? こっちの方が安全じゃないですか?」
「全く移動しない方がかえって危険な気がするな。単なる勘だけど。ここには肉とキノコしかないから、必要なビタミンとかが取れない。壊血病とかになったら怖いからさ」
ダンジョンの冒険者(特に一日中潜ってるやつら)がなりがちなので、1番怖いのが栄養不足である。野菜が取れないとなると、筋肉だって少なくなるし。
そのため今は安全層を真っ先に目指し、地上へ向かう方がいいと考えたのだ。
「ふーん。かいけつびょう……」
「ビタミン不足で起こる、血管が脆くなって出血しやすくなる病気だ。深い層まで攻略しようと躍起になって長い間潜り、戻ってきた冒険者がその病気になってた」
「整備士って案外、色々な人見るんですねぇ……冒険者にはそこまで情報回りませんよ? 私が関わってないだけかもしれないけど」
ミヤビがそこまで言ったとき、キノコの群れは現れた。掻き分けるようにして、奥へ奥へと向かう。
「冒険者は隠すんじゃないかな。下調べせずに病気になったとか、知り合いに言えないじゃん」
「アルフさん今豪速球投げましたね」
「いや、分かんないけどね」
グダグダと話しながらキノコ森を進んでいくと、ようやく終わりが見えてきた。
「ここを抜けたら下の層にいけるはず……なんですよね?」
恐る恐ると言ったふうに、ミヤビが呟く。
「あぁいや、そのはずだったんだけどなぁ」
目の前に広がる光景にバクバクと心臓を鳴らしながら頭をかくと、ミヤビに手を引かれた。さすが冒険者。早い。
「あれなんなんですか!? 全然下の層行けないじゃないですか!」
「知らないよ! ダンジョンの間の層だったら端はないはずなんだ。てことはここもしかして……」
「もしかして何ですか!?」
「最下層、かもしれない……」
「……は?」
ミヤビが少し速度を緩めた。キノコの群れから脱出したのだ。
「最下層って、それじゃ私たち、最下層のモンスターと戦ってたってことですか!」
「なんか言葉めちゃくちゃになってるけどそういうことだよ!」
「ダンジョン最下層のモンスター……」
ミヤビが手を離し、こめかみをグリグリと手で刺激した。
「だってそうじゃないとあんなの……いるわけないし」
「まぁ、そりゃそうですけど……」
ふぅ、と息をつく。キノコ森を抜けた先にいたのは――
「でかかった、ですよね……」
「うん。でかかった」
ダンジョンの通常の道より数倍でかい空間に鎮座した、体を丸めたドラゴンだったのだ。しかも真っ白で、神聖な雰囲気のある。
「気づかれて、なかったですよね……」
「気づかれてなかったな。気づかれてたとしても、俺たちに敵意はないのは気づいてただろう」
「なんかよく分かんないけどそうですよね。どっちにしろ狙われてはないですよね」
命からがら、洞窟まで逃げ込む。もしこの先強くなったら、あんなのと戦わなきゃいけないのかよ。オーラで圧倒された。戦う前から、負けている気がする。
「あれ、てことは……」
「今度はなんです?」
洞窟でハァ、ハァ、と膝に手をつき肩を揺らすミヤビが顔を上げた。かく言う俺も隣で転がっている。
「安全層、この上なんじゃない?」
「あっ……」
ミヤビが一瞬息を止めた。
「じゃあ案外、早く着きそうですね」
「だね。でもどうしよう……」
1番の近道は、モンスターを倒しながら上の層まで行くことだろう。各層には独特の魔力が流れているらしく、その層に住むモンスターは他の層に住めない。だから安全層まで追いかけてくることはないだろうけど……
「そっか……あんなにたくさんのモンスター、倒せますかねぇ……」
「それが問題だよね……」
クマ型やイヌ型を倒すのだけでも、罠を使ったりたまたまだったりで精一杯だった。もっといっぱいいるとなればどうなるか……
「トンネル、掘るか」
「はえ?」
「この洞窟からトンネル掘って、安全層の入り口に繋げよう。ダンジョンの土は横の衝撃に弱いからすぐ掘れるし、モンスターとも鉢合わせなくて済む。今までの整備士としての経験で、大体の方向も分かる。これしか、ないと思う」
言い切ると、ミヤビはキョトンとしながらも頷いた。
「まぁ今までアルフさんの指示に従って危険な目にあったことはないもんね。今から掘ろう!」
おおっ!! と2人で拳を突き上げる。いつから寝てないか覚えてないけど、肉のおかげで疲労もないし、体力は満タン。
ダンジョン最下層で、ようやく希望の光が見えてきた。
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