第7話 仕掛けを作る
ミヤビとパーティを組むことを約束し、今度は食料の確保へと向かった。あのあと俺が残った肉を食べてみたところ特に変化はなく、ミヤビが干し肉を食べ、俺がモンスターの肉を食べることになった。キノコだけじゃ足りると思えないから。安全層までどれだけかかるか分からないから、キノコも採らなきゃいけないけど。
で、肉を安全に取るための方法として、仕掛けを作ることを提案した。その方が、怪しいキノコを食べるより安全だろう。やっと、整備士としての技術を生かせる。
「それでその、仕掛けっていうのはどうやって作るつもりなんですか?」
一通り話を聞いたあと、ミヤビはそれだけを尋ねた。
「ダンジョンの土って、縦からの衝撃には強いんだ。だからその性質を利用する」
犬型モンスターたちがいた場所の近く。まずはそこに簡易な仕掛けを作ってみる。
「正直上手くいくかは分からないけどね。まぁでも、整備士のときはたまに罠でモンスターを捕まえたから。とりあえず大きな縦穴をあける」
「穴……?」
「うん。なんかあったときのために俺、シャベルは持ってるから大丈夫だよ。それで、上に板を立てかける」
「シャベル……板はどうするんですか……?」
そう言われて気づいた。ここに板はない。そもそも気がないんだ。あるわけもない。
「キノコ、で代用しようか……」
キノコの柄で緑色だったのは外側だけで、内側は薄茶色だった。ロウソクがないと周りが見えないくらい暗いし、板とキノコの区別なんてつかないだろう。
ミヤビは微妙な顔してるけど。
「犬型なんでしょう? 匂いで分かるんじゃないですか?」
「それはそうかもしれないけど……上に肉置いといたら匂いで誤魔化せるよきっと」
「そういうもんですかね」
「そういうもんだよ」
言い切ると、ミヤビはムッとしていた顔を崩して、頷いた。
「確かに整備士さんの言うことですもんね」
キノコは本当に適当だけどね。
2人でキノコを取りに行って、何時間かかけて大きな穴を掘った。ミヤビは冒険者というだけあって、掘るのが早く、思ったよりも作業は早く終わった。
最後に底に短剣を刃が上を向くようにして突き刺しておく。ダンジョンの土は縦の衝撃に強いから、モンスターが落ちた衝撃で沈むことはないだろう。一応心臓の位置にくるようには計算した。アイテムを拾うことが目的だから。
「こんなもんだね」
「なるほど……この上にキノコを置いて、端に肉を置いておびき寄せるんですね」
「そうそう。まぁ、先にこっちに来るようにしないといけないけどね、モンスターを」
「あぁ。この辺いませんもんね」
ミヤビが周囲を見渡す。俺たちが罠を作ったのは、モンスターたちがうじゃうじゃいることろからは少し離れたところだった。
「肉の匂いだけで来ませんかね」
「それが1番楽なんだけどね」
おびき寄せるのが難しい。それにモンスターだらけの場所に乗り込んでいくなんて嫌だし。
でもそうでもしないと、今度は餓死の可能性が出てくる。俺は覚悟を決めた。ミヤビは隣でソワソワしているが、そこは年上の余裕というやつだ。
「俺、行ってくるわ」
一言断ってスタスタ歩き出す。
「はぁっ!? 貴方はなんでそう、勝手に自分の命を懸けるんですか!」
袖を掴んで引き止められる。
「しかも整備士で、あまりモンスターと戦った経験ないんでしょう! 私の方が逃げ方も学んでるし、貴方よりは死ぬ確率低いですよ! ここで無駄死にされては困ります!」
最後軽くディスられた気もするけど、ミヤビが行った方が生存率が上がるのは確かだ。
「じゃあ、お願いしてもいい?」
「いいですよ。逃げるだけなら」
ミヤビは頷くと、走って行った。さすが冒険者。早い早い。俺の10倍は足が速そうだ。
「パーティって、こんな感じなんだな……」
この作業を1人でやらなければならなかったのかと思うと、ミヤビのありがたみをしみじみと感じる。年下だし女性だけど、体力も俺よりありそうだし。言ってて悲しいけど。
「さて、肉を置いとくか」
カバンから肉を取り出して、置いておく。まぁ、ミヤビを追いかけて来ちゃったなら、肉は役に立たないかもしれないけど。
そのままぼんやりと、だけど警戒しつつ待つと、ドスドスという大きな足音が聞こえてきた。
ミヤビと……モンスターが帰ってきたらしい。
「アルフさ〜ん!」
手を振るミヤビの後ろ、そこにいるモンスターに目を凝らせば……
「犬型のモンスターってこの子ですか〜!」
あの犬型よりも大きな……
「全っ然違う!!! 逃げるよ全力で!」
クマみたいなやつだった。