表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/24

第5話 ミヤビと出会い、キノコを食べる

 目の前でペタンと座るミヤビの一言に俺は我に返った。そうだよな。先に説明しなきゃ。

 まだ状況を掴めてないだろう。さっきは意識が朦朧としていたし。


「あぁ、えぇっと、俺もここに来たばっかで全然把握できてないんだけど、ここはダンジョンのかなり下の層みたいなんだ。人の痕跡がないし、未開だと思う」

「なるほど……確かに先ほどおっしゃってましたね」

「うん。それで、ここのモンスターを倒したら何かの肉をドロップするっぽいんだけど……それだけじゃ生きていけないからさ。野菜とかがないかと思って探してたらミヤビに出会って……あ、あと敬語辞めていいからね。たぶん歳変わんないから」

「分かりました。ちなみに私は14歳です。野菜、ですか。私、干し肉ならいくつか持ってるんですけどね」


 大人っぽい雰囲気と敬語からせめて16歳くらいだと思っていたが、どうやら14歳らしい。それでも、そんなに年齢は変わらないだろう。俺だって、17歳以下の可能性あるし。


「口調、変わんないんだね。干し肉助かるな。俺は17歳だ……あと、水もあるんだ。向こうの洞窟に湧いてるんだけど……」

「さっきもらいました。なんか……初対面の人にタメ口ってなかなかできなくて……」

「なるほど……それは俺も分かる。とか言いつつタメだけど」


 確かにミヤビの言いたいことは分かる。俺だって今、かなり緊張しながら喋ってるんだ。まぁ、年の差があるからまだ喋れるけど。同年代の女性がなんだかんだ言って1番怖い。


 コクン、とミヤビが頷き、それに合わせて、伸ばしっぱなしの髪が揺れた。

 さっきキャッチしたときは仰向けだったから分からなかったけど、前髪も長いし、邪魔そうだ。


「ちょっと反対向いて前に座って……髪、くくっていい?」


 紐を持っていたのを思い出して、手招きする。ミヤビは怪訝そうな顔をしたが、頷いて目の前に座った。なんだか娘みたいだ。気づいて微笑ましい気分になる。

 前髪ごと髪を集めて、後ろで一つくくりにする。

 だいぶスッキリしたし、綺麗な目もよく見えるようになった。


「あ、ありがとうございます。器用、なんですね」


 束になった髪を何度も触りながらミヤビは言った。慣れないのかもしれない。


「整備士……って分かるかな。俺、ずっと整備士してたから、手先だけは器用なんだ」

「そう、なんだ。私、髪くくったことなくて、今が初めてで。こんなに周りが見えやすいんだ。ありがとう」


 髪から手を離して、ミヤビは照れたように笑った。


「いやいや、全然。整備に使うものだったら何でも持ってるから、したいこととか使いたいものとかあったら言ってね」

「うん。分かりました」


 ミヤビが頷いたのを見て、俺は立ち上がった。今重要なのは食料の確保だ。


「そういえば、アルフさん」


 同じく立ち上がったミヤビに声をかけられ、振り返る。


「野菜に関してなんだけど、ダンジョンの安全層探したらいいんじゃないかな」

「安全層……?」


 聞き慣れない単語に目を瞬かせると、ミヤビは頷いた。


「最下層から1つ上の層に安全層っていうのがあって、そこには野菜やら果実やらが実っているらしいんです。伝説なので、信ぴょう性はないですけど。ここがダンジョンの下の方なら、上を目指すよりそっちの方が早いんじゃないかなって……」

「なるほど! ありがとう、ミヤビ。本当かどうかは分からないけど、そっちを目指そう」


 じゃあ、今までとは反対方向に行かなければいけないわけだ。それなら、水とあの肉をいくつか取るだけで足りるだろう。

 問題はその肉なんだけど。

 ……ていうか、ミヤビがあの肉食べていいんだろうか。俺が36歳も若返ったのに、本当に食べていいんだろうか。存在消えたりしないよな……?

 頭の中で急激にできあがった仮説に怖くなるが、この際どうしようもない。というか、肉だけは事情を話して、ミヤビに我慢してもらうしかない。

 ……いや、干し肉持ってるとか言ってたっけ。それ食べてもらうしかないか。


「ちなみにミヤビは第何層が限界だった……?」

「第13層ですね」

「けっこういけるんだな」


 戦闘は俺の本業じゃない。ミヤビに任せないとどうしようもないだろう。

 最下層まで何層あるか分からないあたり、ちゃんと戦えるかは分からないけど。


「ここでのモンスターってどれくらい強かったですか? アルフさん、1回倒したことあるんですよね……?」

「あぁ、うん。たまたまだけどね。俺の2倍くらいの大きさの犬型のモンスターで、電気を使うみたいだった。それは心臓を刺したら簡単に死んだけど……もっと強いのがいるかもしれない」

「なるほど……」


 ミヤビが手を顎にあてる。


「ここが第何層か分からないので私、戦えないかもしれませんけど、力にはなれると思います。いや、力になります! 助けていただいたので!」

「でも危ないことはできないしなぁ……」


 しばらく考えて思い出した。キノコの存在だ。あれが食べられれば、肉を食べなくてもいい。

 毒味したら死ぬかもしれないけど。


「ミヤビ。もし俺が死んだらさ、まっすぐ安全層目指すんだよ。変なもの食べたり、拾い食いしたりしたらダメだよ」

「何言ってるんですか?」


 肩に手を置く。ミヤビの訳が分からないと言いたいような顔に若干ハートブレイクしながら、小さく切ったキノコを口に含む。味は悪くない。さっきの肉に似ているような気もする。

 しばらく口で転がしても変化はなかった。即効性の毒ではないようだ。意を決して、飲み込む。


「あの……」

「あぁうん。あのでっかいキノコが食べられるかどうか、ちょっと気になってさ。毒かもしれないから。今食べてみたんだけど」

「食べたんですかっ!?」

「あ、うん。食べたんだけど、今んとこ何もないから、水取りに洞窟行こっか」


 どの道キノコは食に困ったときに食べるつもりだったし。この層は危険だらけで、常に死と隣り合わせだ。そもそも穴に突き落とされたときから死ぬ覚悟はできている。

 困惑した顔のミヤビをおいて、俺は歩き出した。小走りで、ミヤビがついてくる気配がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ