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第3話 おじさん53歳、17歳まで若返る

 犬型モンスターの鋭い爪が肩にくい込んで痛い。

 だけど、ここで仕留めないともうチャンスがない。限界まで手に力を込める。

 幸い整備士の仕事のおかげで筋力はある。ぐぐぐっと剣を押し込むと、数秒後、モンスターは倒れた。


 一安心し、ふぅ、と息をつくとボトッと体の上に何か落ちた。


「……肉?」


 それは肉らしきもので、どうやらさっき犬型モンスターを倒したときのドロップアイテムみたいだった。ヌメヌメしていて若干気持ち悪い。しかも生温かいし。


「これは肉、だよなぁ……」


 赤黒いそれは筋繊維も見えるし、肉なんだろう。グロテスクだし、できるだけ食べたくはないがカバンに詰めた。


「腹減ったら、食うしかないか……」


 誰もいない空間に、俺の声が虚しく響いた。




 どうやら階段の方向にはかなりの数のモンスターがいるらしい。気配を感じる。

 まぁ、当分はさっきのやり方でどうにかなるだろう。それに、壁伝いに歩いているうちに、洞窟らしきものも見つけた。男が3人寝ても、十分スペースが余りそうなくらいには大きい。中を照らすかぎりモンスターが巣にしている様子はないし、いざというとき使えるだろう。もしかしたら、さっきの犬型が寝床にしていたのかもしれない。


 1時間ほど歩いたときだろうか。

 グギュルルル、と腹の音が鳴った。よく考えたら、呼び出された朝から何も食べていない。

 光が差し込まないから何時かは分からないけど、たぶん正午は過ぎているだろう。


「腹、減ったなぁ……」


 ぼんやりと呟く。不幸なことに食料は……さっきの肉しかない。正直食べたくない。でも、かなり体力も消耗してるし、何か口にしないといけないだろう。


「肉、焼いたら匂いでモンスター来ちゃうかな」


 来ないかもしれないが、来たときのことを考えると怖くてできない。俺はため息をつくと、一旦洞窟まで戻り、肉を齧った。大人の男の顔1つ分くらいあったのを4分の1サイズに切り分けたものだ。もし肉に毒みたいな成分が含まれていて、倒れてもいいようにだ。洞窟の中なら見つかりにくいだろうし。

 

 食感は鶏肉に近かった。だけど、とにかく獣臭い。吐きそうになるレベルで臭い。えずきながらも、どうにか飲み込む。


「うぇっ。なんか腐ってるみたいな味するし……体壊しそう」


 愚痴りながらも、完食した。

 肉を飲み込み、そして唾を飲み込んだ瞬間だった。


 体が何かに侵食されていく感覚がした。ぐえっと喉から汚い音がもれる。苦しくて苦しくて苦しくて、のたうち回っても、痛みで紛らわそうと壁に頭を打ち付けても苦しい。

 ハァハァ、と荒い息をつきながら、とりあえずその()()が過ぎるまで耐える。耐えないと、それこそ死んでしまう気がした。


「なんだ……これっ!?」


 数分経っただろうか。

 ようやく気持ち悪い感覚がなくなり、立ち上がる。それからロウソクを取ろうと手を見て、ギョッとした。


「若、がえってる……?」


 にわかに信じ難いことではある。

 だけど現実問題、肌はすべすべになってるし、それにこの国では18歳で成人したときに、手にタトゥーを彫るのだが、そのタトゥーがない。

 かといって、少年すぎる感覚もないというか、身長が縮んだような感覚もない。ただひたすらに体力が蘇り、あと何故か足の怪我が治り、ついでに思考というか活力というかがこう……若くなっただけである。

 しかも53歳までの記憶は残っているあたり、かなり都合の良い展開になっているようだ。


「つまり、17歳くらい?」


 俺は頭をかいた。最近寂しくなってきてた頭頂部に、見事に髪が戻っている。自分的にはそれが1番嬉しい。おそらくアイテムの影響だろう。


「いや、でも感覚だけじゃ分かんないよな」


 詳しく姿を見たわけじゃないし。どうしようかと考えていると、近くでポチョン、と音が聞こえた。水が水面に落ちる音だ。吸い寄せられるようにして、音がした方へと向かう。どうやら洞窟の奥にあるようだ。

 向かった先にあったのは、思った通り水たまりだった。ありがたい。ひとまず安全性は置いておくとして、生命線である水が確保できればかなり安心だ。

 でも今はそれよりも……


「この水たまりに写ってる俺は、どう見ても17歳だよな。髪型も、このときは伸ばし気味だったし……でも髪だけ白くなってるのか……」


 重たい前髪に触れる。今とは違ってストレートでサラサラ、ツヤツヤしていて、犬型のモンスターの影響か白くなっている。まぁ、それくらいなら問題ないだろう。


「あぁでもこれで、元の自分とは変わったし……」


 水面の俺は、クマが酷く、顔色も悪かった。そりゃ、あれだけの酷い目にあったんだ。精神的にも疲れた。

 それだけではなく、今までと違うのは、目がらんらんとした光を帯びていること。若返って、やる気みたいなのも戻ったのかもしれない。


「たぶんあいつらは、俺だって気づかないだろう……特にベル。あいつには……」


「絶対復讐してやる。いや? 復讐するのはダサい。あいつらが目玉と歯をひん剥いて悔しがるくらい成果を出して、楽しく生きてやろう」


 若返った俺の、新しい目標だった。

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