第22話 ルルの魔法
中間地点で現れたモンスター。俺の目の前にズシン、と立っている。
初めて見る姿かたちだ。
強いて言えば……
「爬虫類に近い、か」
剣を引き抜き、構えた。トカゲが何十倍にも大きくなったような形。鱗がある。でも見た感じ骨格は鳥に近いのか……?
爬虫類特有のギョロリとした瞳と目が合う。俺じゃ大した戦力にならないだろうけど、ミヤビのサポートくらいはできるようになりたい。
「心臓の位置はたぶん真ん中だ!」
「了解です!」
前で攻撃を仕掛けるミヤビに伝える。ドロップアイテムはできるだけ集めたい。厄介な能力を持っていたら急所はまた別だろうけど。
「ルル、後援頼めるか!」
「はは、はぃぃ……」
俺の指示にルルは1歩下がった。手を絡み合わせている。もしかしたら、魔法を発動しようとしているのかもしれない。
モンスターはしばらく固まったあと、ギィィぃぃぃぃ、と雄叫びを上げた。あまりの圧に層全体が揺れる。
口は大きくて、人間なんて一飲みだろう。ギザギザした歯に噛み付かれたら体は木っ端微塵になるに違いない。
「ミヤビ、口から距離を取りつつ攻撃しろ! 噛みつかれたら終わりだぞ!」
最下層のクマのモンスターを可愛いと思うほど、強さも桁違いだった。なんでこんなに差があるんだろう。最下層には、ドラゴンのモンスターがいるからだろうか。
「はい!」
ミヤビが後ろにステップを踏む。爬虫類型のモンスターは口でまた捕らえようとした。それをミヤビが避ける。幸い、手足を使ったりはしないみたいだ。短いもんな。
「ルル、魔法って今使えるか?」
ミヤビはかなり押されている。このまま続けても勝てる見込みがない。ルルの魔法があれば、形勢逆転できるかもしれない。
「つ、使えます……」
ルルはフンフンと頷いた。それから、手に力を込める。なかなかに強そうな感じだ。
「ミヤビ、ルルに魔法を撃ってもらう! 一瞬どいてもらえるか!」
「了解!」
ミヤビが退いた瞬間、
「ふ、ファイアー、ボール!」
ルルの強烈な魔法が炸裂――
……しなかった。
小さな火の玉が浮かび上がり、それがポソッと爬虫類型の鱗に当たって砕ける。かすり傷にさえならなくて。
「あ、あれ……」
本人は震えたままキョトン、と首を傾げている。その間に爬虫類型はルルに近づいており、急いで彼女ごと避けた。
「ルル、大丈夫か?」
「すすすすすすす、すい、すいません! あの、あの、あ、あの、ちゃんと撃てるはずだったしその……すみません、大丈夫です……」
シュンと肩を落として項垂れるルルを支えつつ、攻撃を避ける。避ける。避ける。
ルルはどうにか一緒に動いてくれているが、危ないことに変わりはない。ミヤビは爬虫類型に相変わらず攻撃を繰り出していた。だけど、致命傷にはならない。それどころかミヤビにかすり傷が増え続けている。
未だ肩を落としたままのルルは気持ちに引っ張られやすいタイプなのかもしれない。それだとちょっと厄介だ。
ともかく、今の状態だと確実に負ける。
「なぁ、ルル。普段ってもうちょっと強い魔法使えるのか? 怒ってるとかじゃなくてその……前魔法見せてもらったとき、もうちょっと威力強そうだったからさ」
「私も……もっとすごい魔法が撃てると思ってました」
「そっかそっか」
壁際に寄りルルの頭をかき混ぜた。リラックスさせなきゃ。ルルは怯えた分だけ、焦る傾向にある気がする。
「前みたいな魔法撃ったら疲れちゃうとかないか?」
「それは……ないと思います」
「うんうん」
何回も頷けば、ルルは息を吐いた。その息がもう震えている。
「とりあえず今日は魔法使うのやめとく?」
「それはあまりにも……ご迷惑が」
「大丈夫大丈夫。迷惑なんかじゃないから」
ルルも子供っぽいような気がしていたが、まだ24歳なんだもんな。俺の半分以下しか生きてない。そりゃ怖いだろう。
「迷惑じゃないから、大丈夫。撃ちたくなかったら撃ちたくない?」
「撃ちたくない……わけじゃないです」
いまいち要領を得ないルルの言葉に首を傾げる。もしかしたら本当に威力が弱いのか?
つぶさに観察していると、ふとルルの視線がミヤビへと向いた。怯えたその瞳を見て、気づく。
「人に当たるのが怖い?」
「えっ、」
「威力が強すぎちゃう?」
「え、えぇっと……」
俺の言葉に一気にたじろぐ姿を見て、確信する。
この子は怯えている。もちろんモンスターに対してもだが、それ以上に人間に自分の魔法が当たることに対して。異常なほどに。
ルルの過去と関係があるかもしれない。
「大丈夫だよ。ミヤビも俺もそんなヤワじゃないから」
「で、でも……魔法の強さには、人体の構造的には耐えられなっ……」
「ハハッ。大丈夫大丈夫。俺は弱いかもしれないけど、ミヤビなんか俺の何十倍も強いじゃん」
なっ、と目を合わせる。子供に言い聞かせるように。
ついでに後ろから抱えるようにしてルルの手を軽く支えた。震えが少し止まる。
お、俺は今17歳だから、合法なはずだ。大丈夫……だよな?
「もう1回息を吐いてみて」
肩より下のつむじが傾いた。ふぅ、と呼吸音が聞こえる。
「そのままさっきみたいに手を組んでみて。集中して、モンスターだけを見て。大丈夫。ミヤビは避けてくれるし、俺も危なかったら逃げる。みんなちゃんと逃げるから、大丈夫」
今度は無反応。ただルルは手を組み合わせた。
魔法を発動する気になってくれたんだろう。ボソボソと声が聞こえる。もしかしたら詠唱しているのかもしれない。魔法の発動条件に詠唱をがいると聞いたことがある。
「私に力をお貸しください……ファイアーボール!!」
最後の一文だけはっきり聞こえた。ルルの手からさっきとは桁違いの、眩い炎の光が発せられる。
こちらを伺っていたミヤビがスルッと避け、俺は振動に耐えながらルルの肩を支えた。
「……上手く、いったな」
モンスターの体が焦げ落ち、ヒラヒラと地面に落ちる。数少ないドロップ率を引き当てたのか、アイテムも落ちていた。
ルルは緊張と疲れからか地面にへたりと座り込んだ。大丈夫か? と声をかけると、大丈夫です、とはっきり答える。
ミヤビとホッと息を吐いた。
一時はどうなることかと思ったが、まだ生存の可能性は残っている。
――このままいけば、きっと。
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