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第21話 殺人鬼の影

 もう一度壁を撫でると、ザリ、と変な感覚がした。ダンジョンの土はもっとサラサラしている。やっぱり誰かいるんだろうな。


「罠って可能性も無きにしも非ず……」


 もしかしたらこの"土の蓋"が仕掛けになっているのかもしれない。例えば、外せばモンスターが寄ってくるとか。


「ま、向こうからやってきてくれたら楽か」


 ブツブツ呟く俺の顔を不思議そうに見つめるミヤビの深い青色の瞳を見つめ返した。吸い込まれそうな瞳だ。青くて、チョウの鱗粉のようにキラキラ光っている。


「ごめん、モンスターが来ないかどうか見張ってくれないか? 今からこの蓋を外してみようと思う」

「できるんですか……? あとなんでモンスター?」


 首を傾げたミヤビから視線を外す。もう一度、壁を触った。


「蓋が仕掛けになってるかもしれない。どんな理由で穴を埋めたのか知らないけど、怪しいことは確かだ。外した瞬間にモンスターが突進してくる、なんてこともあるかもしれない。だから、できれば守ってほしい」


 もう一度ミヤビの目をしっかりと見ると、彼女は小さく頷いた。緊張したような面持ちのまま、剣を手にかける。


「見張っておくので、アルフさんは心置きなく調べてください!」

「あ、あの私も……本当に、よ、弱いし、ざざざざ雑魚ですけど、でも、荷物持ちくらいは役に立つと思うので……!」


 ミヤビには生暖かい目で見られている気がするし、ルルは自己否定に走るあまり何かが違う気がするけど、俺は頷いてシャベルに手をかけた。整備に使う道具はケチりたくなくて、高いものを買ったおかげで潰れそうにもない。ナイス1年前の自分。


 土の周りに沿って慎重にシャベルを突き刺す。垂直に刺すと、案外簡単に蓋は外れた。

 外れた蓋をどかせると中から出てきたのは……


「キャァァァァァ、えっ、えっ、えっ、なんでどういうこと!? はっ、えっ、なんで!? えっ!???」

「へぁ……」


 出てきた"モノ"にパニックなるミヤビとルル。ルルは腰が抜けたようでへなへなと座り込んだ。

 慌てて周りを警戒するが、モンスターは寄ってもこない。どうやらトリガーにはなっていなかったようだ。


「ほんとに、どういうことなんだ……?」


 こんにちはしたのは、()()だった。冒険者の。

 服を引っ掴んで近づいてみれば、ミヤビがさらに悲鳴を上げる。ルルはミヤビの足にしがみついていた。


「男だな……腐敗が進んでる感じからすると……死後10日ってとこか」


 俺は整備士の仕事のおかげで死体には慣れている。ダンジョンではよく人が死ぬ。

 だから、整備士が回収する必要があるのだ。ダンジョンで命を散らした彼らの、遺体を。


「頭部が陥没してる。鈍器で殴られたんだろう。たぶん何度も何度も。痛かったろーな。モンスターの口の中で一瞬で死ぬのとは違うもんな」


 頭部が広く潰れている。表情からしても、痛くてしょうがなかったんだろう。落ち着くために、口では冷静を保っているが、手が震えてきた。こんな死体は見たことがない。ゾッとするほどの表情をしている。


「たぶん鈍器はけっこう強いものだったと思う。なのにこれほど殴ってるってことは……力の弱い人だったんだろう。てことは女性? もしくは老人? 子供? でも子供って線はないな。たぶん子供が振り下ろせるようなもんじゃない」


 たぶん……女性だろう。老人がわざわざ若い男の冒険者を殺す理由が見つからない。そもそも老人の冒険者がほとんどいないし。


「なんで殺したのかは分からないけど……手馴れてやがるな」


 一撃で仕留められていないとは言え、死体の処理まで完璧だ。


「こりゃあ厄介だ」


 口調まで若干変わってきていたことに気づいて、深呼吸した。俺が動揺してどうすんだ。ミヤビもルルの俺の2分の1くらいしか生きていないし、もっと怖いだろう。


「殺人鬼かもしれないなぁ」


 まるで他人事のように呟きながら、死体をもう一度穴に埋めた。黙祷する。ミヤビはいつの間にか隣にしゃがみこんで手を合わせていた。ルルも近づいてこないがキュッと目を瞑っている。せめて成仏して、あっちで幸せに暮らしてくれ。


「あの、これからどうするんですか?」

「どうするって?」


 ようやく口を開いたミヤビに聞き返すと真っ青な顔色のままフラフラと立ち上がった。


「殺人鬼がいるかもしれないんでしょう? これから、ほんとに攻略するんですか? 地上まで……向かうんですか?」


 声が震えている。俺も立ち上がって、ポンポンとミヤビの頭を撫でた。


「だいじょーぶだ。いざという時は2人とも俺が守るし。なっ」


 コク、と頷いた。


「あと地上に出なかったらそれはそれで死ぬしな。ダンジョンの中じゃ衛生的にも良くないし……水洗いしかできないし、衣服にも限りがある。ドロップアイテムでどうにかなるかもしれないけど……」


 もう一度コク、と頷いたミヤビの頭を撫でる。それからルルに近づいてゆっくりと立たせた。どうにか立ち上がったルルの肩をポンと叩く。


「ルルのこともちゃんとサポートするから。俺はルルはモンスターが倒せるだけの力があると思ってる。協力してもらって大丈夫か?」


 涙を浮かべてブンブンと頭を振るルルに苦笑しつつ、俺はまた歩き始めた。なんにしろ、攻略は続けなきゃいけない。殺人鬼をとっ捕まえて殺してやるくらいの気概でいかないと。

 ちょっと遅れて着いてきた2人の様子を確認しつつ、どんどん歩いていく。おそらく中間地点と思われるところまで来ると――ついにモンスターが現れた。

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