第20話 人がいるかもしれない
「ここが入り口か……」
ダンジョンの逆から3層目。どことなく邪悪な雰囲気のするその前に立った。自然と、荷物を持つ手に力が篭もる。
「緊張、しますね……」
「だ、大丈夫でしょうか……」
ミヤビとルルも緊張しているようだった。そりゃそうだ。上の方の層でさえ死者がいっぱい出るくらいなのだ。ここは最下層に限りなく近いかなり危険な層。上の層どころじゃない。
攻略して上に向かうのは無謀とも言えるだろう。
「たぶん大丈夫だ」
半ば自分に言い聞かせるように呟くと、ミヤビは頷いた。幸い俺には知識がある。現在のところ穴を掘ることくらいにしか役に立ってないけど。これからは使う場面も出てくるだろう。
「じゃあ、行こうか。危なくなったら安全層に逃げればいい」
1歩、踏み出した。今から魔境に足を踏み込む。情けなく手は震えるが、そんなこと他のパーティメンバーに伝わらないように。俺は最年長だし、 躊躇いなく怪しいキノコを食べるくらいには胆力はあるつもりだ。
カツカツとみんなの足音が反響する。まだモンスターは現れていない。もうちょっと真ん中の方まで行かないと見れないかもしれない。
「いませんねぇ」
「あぁ。にしても……」
ミヤビも同じことを考えていたようだ。ルルは黙っている。
俺は周りの景色に眉を顰めた。
「ここまで辿り着いた人がいるのか?」
「えっ、どういうことですか……?」
俺が足を止めるとミヤビとルルも歩みを止めた。
いやさぁ、と壁へと寄り、一部分を撫でた。
「ここ、おかしいんだよね」
「そこ、ですか……?」
ミヤビが不思議そう顔をする。
「うん。ここだけ土が新しい感じがする。おそらくここに穴があって埋めたか……もしくは穴を開けてから埋めたんだろう。整備士の仕事に似てるけど、同業の仕事じゃないな」
「分かるんですか?」
「まぁ、36年も整備士やってるから。今まで歩いた道にも何個かあったかも。パッと見ただけだけど……たぶんスキル使ってるな」
「スキル?」
首を傾げたミヤビに頷く。
「あぁ。スキルだ。たぶん土を生成するとかそういう系の。魔法使い系のスキルだろうな」
ついでに、土が固い。コンコン、と指で叩くと軽い音が鳴る。おそらく、土で埋めたあとに固めたんだろう。スキルを持ってなきゃ、そんな仕事はできない。それに、整備士の仕事より適当だ。慣れていない感じもする。
「スキル?」
「うん。限りなく最下層に近い層だ。材料もそろってない。スキルを使わないとこんなことできない」
「でも人影は……」
「確かに今までは見てない。もしかしたらもっと上の方にいるのかもしれない」
新たに出てきた可能性に一気に緊張が走る。
「あ、あの……」
なんとも言えない雰囲気に包まれたところで、ルルが声を上げた。一斉に振り返ると、ルルはビクッと縮こまった。まだ俺たちのことは怖いんだろう。
「あの、足跡が……」
「足跡?」
指されるままに前方を見る。確かに足跡がいくつもあった。
「……これは大変なことになりましたね」
ミヤビの声が妙に間延びして聞こえた。




