第17話 気遣いと安全層
草原を歩いているとついついどんな生物がいるか確認してしまうが、キリがないから自制して、どうにか壁までついた。確かにルルの言う通り、天然の洞窟も見える。
「なんか俺、落ちてから穴ばっか掘ってない?」
ルルたちの洞窟の近くにシャベルを突き刺しながらぽそりと呟く。
モンスターを倒すにときも穴掘ったし、層を攻略するためにもトンネル掘ったし、今も掘ろうとしてる。
「なんかもっと効率いいやり方もある気がするんだけどなぁ」
すっかり手に馴染んだシャベルを動かす。砂を崩すように掘れるものの、男1人寝るとなればそれなりの広さが必要になる。
ため息をつくが、なんだかんだ言っても道具も揃ってないし、今はこれで精一杯かもしれない。
1時間近くが経過し、洞窟は完成した。
「まぁ、寝れるだろ」
目の前にはちょうど成人男性1人分くらいの穴。
洞窟とはこれから長い付き合いになるだろう。だけど今は自分1人しかいないし、ずっとここで過ごすわけではない。
雑な仕事にはなってしまったが、満足な出来ではある。
「よし、これで心置きなく調べられる!」
まずは、砂の採集から。同じダンジョンとは言え、ここは安全層である。他と違う性質があるかもしれない。
根っからの研究者気質に自分でも苦笑しつつ、砂の様子を観察する。やっぱり、他の層との違いはないみたいだ。
もし地面の土と壁の土が一緒なのだったら、他の階層でも光のいらない植物は育てられるということになる。成功させることができたら、攻略もきっとしやすくなる。
「一体ここはどうなってるんだ……」
光が降り注ぎ、植物が育ち、川も流れる楽園のように美しい異質の階層。
他の層と成分が同じなら、どうしてこんなことになっているのか。
「まぁ、そもそもダンジョンが何なのか、いつできたのかさえもよく分からないからな」
神が作ったのか、自然にできたのか、それとも誰かが意図して作り上げたのか――
ダンジョンは謎が多い。冒険者やギルドという制度も確立したのは最近で、それまでは無闇矢鱈に攻略しているという印象があった。
そんなダンジョンのことだ。自分1人だけで分かるはずもない。
「そんなダンジョンの秘密を暴きたいっていうのはさすがにワガママか……ミヤビたちのこともあるし」
サラサラと手のひらから砂が落ちていく。
俺はその場から立ち上がって、草原へと向かった。そろそろ、肉とリンゴ以外を食べたい。
*
「……アルフさんもう行きました?」
「あ、あれ、ミヤビちゃん起きてたの……?」
アルフが去った気配がしてムクリと起き上がると、ルルが驚いたような声を出した。しーっと人差し指を口元に当てると、ルルは黙った。
「気づかれちゃまずいからさ」
「な、何か計画でもあったんですか……? 寝たフリするなんて」
オドオドした様子でルルが尋ねる。
「計画っていうか、なんていうかね、今は私たちが一緒に行かない方が良いかなって」
「で、でで、でも手伝いたいって……」
ルルの言葉に頷くと、不思議そうな顔をした。赤茶の眉が下げられる。
「だってたぶん私が手伝いにいっちゃったらさ、アルフさん存分に好きなことできないかなって思って……」
「好きなこと?」
「そう。アルフさん、研究熱心なんだよね。ダンジョンに関して。安全層のことも調べたがってたから、それの邪魔するわけにはいかないかなって」
「そう、なんですね……作業服を着てらっしゃったので、てっきり整備士の方だと思ってました」
ルルはフードの端をキュッと握っていた。困ったときや驚いたとき、怯えたときにローブをいじるのは癖らしい。
「うーん。整備士らしいんだけど、普通の整備士とちょっと違うっていうか……整備士兼研究者みたいな感じなんじゃないかな、ダンジョンの。だから、アルフさんすっごく詳しいんだよね、ダンジョンに関しては。それにダンジョンのこと話してるときすごく生き生きしてるから、邪魔したくないの。あとここに来れたのもアルフさんの知識のおかげだからさぁ。上の方の層で安全層のことも役に立つかもしれないし」
「そ、そんなに分かるなんて、な、仲良いんですね……」
オドオドした顔を崩さずルルは言う。ペタン、と女の子座りをしたままだ。
「仲良いっていうか、初めて出会ったの最下層なんだけどね。だから最近。でもアルフさんのおかげでここまで来れたし、表情は分かるようになった。さっきはワクワクした顔してた」
「顔が、ワクワク……」
全く分からなかったですぅ…………、とルルが腕を組む。
確かに表情にはあまり出ていなかった。彼は何かしら隠すのが上手い。きっと自分じゃなきゃ気づかない……とまでは思わないものの、気をつけていなかったら何も分からなかったはず。そもそもあんなにダンジョンに詳しいなら何らかの理由で有名になっててもおかしくないものの、噂を聞いたことさえないし。
もしかしたら自分があまり人と関わらなかったせいなだけで、有名なのかもしれないけど。それほど整備の腕は良いから。
「ミヤビさんは周りをよく見てるんですね」
「別にそんなことないと思うよ」
ルルの言う通り、人の顔色を伺ってしまう部分はある。環境のせいか、身についてしまった習性だ。ついでに、気を使って相手に合わせてしまうところも。
だけどこんな性格について後悔はしてないし、むしろ便利だなとも思うし。
「でも、わ、私分からなかったです。何も」
「予想だし、私もはっきりとは分かんないけどさ」
ゆっくり立ち上がり、伸び上がって、くぁぁ、と欠伸をする。無駄な話と辛気臭い話は苦手だ。
微妙な雰囲気を払拭するように、ルルに手を差し出した。キョトンとしたまま手を置くルルを優しく引っ張りあげる。
「ひゃっ」
「ルルさん。洞窟行こうよ。アルフさんもそのうち掘り終わるはずだし、なんだかんだ言って私も眠たいし」
ニカッと笑って見せると、ルルは控えみに微笑んだ。




