第16話 まずは
「ひとまず、先に寝床の確保をしようと思う。生活の基盤を安定させないと、他の層には行けないし」
「ねね、寝床……」
「そういやさっき木を使ってなんか作るか、洞窟で寝るかとか言ってたね」
ルルが泣き止むのを待ったあと、これからのことについて相談することにした。3人に増えたし、意見を聞いてみたい。
「そうそう。どうしようかなと思って」
「私はなんでもいいと思うけどな。洞窟生活にも慣れたし……ルルさんは?」
「わわ、私ですか……」
ミヤビに問いかけられたルルは俯いた。手をコネコネしている。
「あの、洞窟は、ありますし……どっちでも……ミヤビさんとアルフさんが思う方で」
「あれ、洞窟あるの?」
「え、えぇ……さっき見ました」
てっきりここにはないと思っていた。尋ねるとルルはためらいがちに頷く。
「あるならそっちの方が早いし、洞窟に布かけるかぁ……」
そんな都合よく洞窟があるわけじゃないだろうし、掘ろうと思っていた、最初は。ダンジョンは掘りやすいし。
でも洞窟があるなら木で小屋を作るより早いし、布で入り口を隠したら光避けにもなるだろう。
「あ、でもさすがに俺が同じ洞窟で寝るわけにはいかないか」
女性2人と男性1人(精神年齢53歳)。この組み合わせで同じ部屋なのはさすがにやばいだろう。
「私は別に構わないけど」
「あの、別にするんだったら新しく掘るんですか……?」
「うーん、掘ろうかな。掘るのは楽だし」
トンネルを掘ったときも、距離が長すぎるから時間がかかっただけで、労力自体は大したことはなかった。
「べべ別に掘らなくていいんじゃ……」
「でもこれから増えるかもしれないし」
ここに来てから何日かで、ルルが来た。確かルルが穴に落ちてから3日くらいだと言っていたはず。
地上に辿り着くまでに一体何人がここに来るだろう。
……あれ、なんでルルは時間が分かったんだ。
「あれ、そういえば、ルルさんってなんでここに来てから何日経ったか分かったの……?」
ルルの話をふと思い出し、尋ねた。ダンジョンには日の光が差し込まない。だから、正確な時間も分からないはずなのだ。
「えっ、」
「だって、3日かかったって言ってたから。穴に落ちてから」
「とと、時計が」
「時計?」
「は、はい。時計を持ってて、それによると、3日らしく……ちなみに今はルルが穴に落ちてから4日目です。9月10日の……えぇっと、夜の8時です」
ルルは慌ただしくリュックから時計を取り出してそう言った。小型の時計で、確かに針は8を指している。穴に落とされてからずいぶん長い時間が経った気がしていたけど、実際はそんなにだったんだな。ろくに寝てなかったせいか。
でもそれにしても……
「時計、持ってたんですね」
時計は高級品だ。庶民が持てる代物ではないし、冒険者でもかなり名を上げたものしか持っていない。
成人式を迎えていない魔法使い。家を出て、ダンジョンで荷物持ちをし、貧乏だと見せかけて時計を持っている。あと若干情緒不安定気味。
ますますルルの謎が深まった。
「はい。持ってた方が役に立つことも多くて。盗られるのが怖くて、日頃は隠してるんですけど、その……あな、貴方たちは信用できる気がするので」
指で頬をかき、ふふっと笑う。ルルは涙を流してからフードを被っていなかった。
「そっか。ありがとう」
とりあえずニコリと笑って返しておく。いつか謎は解けるだろう。
「アルフさん。今日はどうするんです? 洞窟掘って寝ますか?」
2人でニコニコ笑っていたら、遠慮がちにミヤビが呟いた。半目になっている。ほっとして、眠気がきたのかもしれない。
「そうだね。8時だし、最近全然寝てなかったから、できれば寝たいな……穴は俺1人で掘るし、2人は寝ててよ」
「でも……」
ミヤビは申し訳なさそうにしているが、たぶん眠気が限界まで来ていて、手伝うなら早めに手伝いたかったのだろう。手伝いたいと思ってくれてるのはありがたいけど、今日は無理だろうな。半分船を漕いでいる。
それに俺も色々見たいし。
「ありがとう。また今度手伝ってよ。俺は今から洞窟掘ってくるから」
立ち上がり、川辺から歩き出す。
……まずは植物の種類から調べようかな。




