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第14話 見た目は12歳、中身は24歳

 目の前の少女は、ここに住んでいるのかはたまた最下層から来たのか――


「俺は、アルフ・スペンサーです。第5層の穴から最下層に落ちて、ここ、安全層まで来ました。安全層まで来るよう書き置きを残した者です」

「私はミヤビです。アルフさんと一緒にここまで来ました」


 とりあえず自己紹介すると、ミヤビもそれに続く。少女はコクコクと何度も頷いた。


「わわわ私は、ルルです。ルル・メルシエ。書き置きを見て、ここに来ました。たたたたたたぶん、3日目です。穴に落ちてから」


 どうやら穴に落ちたらしい少女――ルルは、3本指を上げた。その調子に、ローブのフードがひらりと落ちる。

 1本の三つ編みにして肩に垂らされた赤っぽい薄い茶髪にローブと同じワインレッド――というより血赤の目。パッチリしたその目が印象的だ。突然開けた視界に瞬きしてから、慌ててフードを被り直す。怖がりなのだろうか。

 幼さからして、きっと12歳くらい。背も低いし。


「えっと……ルルも冒険者なの?」

「ああぁ、は、はい! 魔法使いで冒険者です……」


 ルルはつんつんと指を合わせながら頷いた。

 にしても、魔法使いか。確かにそれっぽい見た目はしてるけど。


「でも、若いのに凄いですね。ダンジョン攻略するなんて」


 隣でミヤビが呟く。53歳の俺からしたらミヤビも目の前の子もそんな変わらないんだけど。14歳でダンジョンに潜ってるのもなかなかだと思う。

 そもそも2人は若い、とかいうレベルなんだろうか。


「い、いえいえ。ルル、若くないですよ!」

「えっ、でも……」

「ミヤビちゃんは、14歳くらいでしょう? ルルは24歳だから、約10歳も年上ですよ。おばさんです」


 今度は2、4、と指を上げるルルを目の前にして、俺の思考は宇宙へと飛び立った。仕草からしてもせいぜい10代前半だと思った。

 いや、俺からしたら24歳も十分若いんだけど。自分の半分以下しか生きてないんだもんな。


「24歳……8歳くらいだと思ってたのに……」


 ミヤビも宇宙に飛び立っている……いや8歳は小さすぎだろ。

 どう頑張って見ても、24歳には見えないけど。


「20のときからダンジョンに潜り始めて、今年で5年目です」


 へへっと頬をかくルル。

 ……てことは、肉食べたらこの子も髪が白くなって17歳に若返るのか。でも手にタトゥーがないもんな。成人式を経験してないなら、若返らないのかもしれない。


「とは言っても、荷物持ちとして陰から手伝ってきただけなんですけど……色々あって家を出てきたので、冒険者として生きる基礎もなくて……ほら、成人式を迎えてないからタトゥーもないし」


 確かにルルの手にはタトゥーがない。それも含めて、12歳くらいだと思ったのだ。

 でもそれよりも……


「なのに魔法は使えるの?」


 『魔法使い』というのは希少な存在だ。スキルを預けられるだけの俺たちと違って、生まれながらにして『魔力』を与えられた彼らは、様々な魔法が使える。魔法のスキルが貰える者たちはいるものの、大抵たった1つの"型"の"魔法"だけだ。

 それに対し魔法使いは、魔力が尽きないかぎり最低でも1つの"属性"の魔法が使える。

 つまりは珍しく、ありがたがられ、ダンジョンでも活躍する存在。そんな存在がなぜ荷物持ち? しかもダンジョンで活躍するほどの基礎がなく、家まで出て成人式にも出ていないんだ?


 『魔法使い』は、成人式で発覚する場合が多い。『魔法使い』だと儀式でタトゥーを彫ったときに赤色に変色するからだ。


 なぜルルは成人式に出ていないのに、『魔法使い』だと分かった?


 そんなもろもろの意味を込めて尋ねれば、ルルはそっと手を合わせた。静かな空気が流れる。

 一気に、雰囲気が変わった。


「い、家を出たことと関係があるのでそれは顔も知らない()()()()()貴方たちには話せないですが……」


 圧倒的に神聖な雰囲気を醸し出し、厳かな口調で話しているのにプルプルと声も体も震わせれているのがもったいない。

 きっとこの雰囲気が彼女の性格そのものなのだろう。強いのに、怯える。


「魔法が使えるのは本当です」


 手を離せば、両手の間には紫色の光が浮かんでいた。

 確かに、見たこともない魔法だ。


「魔法が使えるのは分かった。発覚の原因とか、君が話したくない過去に関係があるのなら聞かないでおく」


 俺は頷いた。ミヤビは困り顔で立っている。

 ルルは、ほっとしたように手を下ろした。魔法が消える。


「ありがとうございます」


 ペタン、と頭を下げると、またフードが取れた。慌てて被り直す。もういっそ、外したままにしておけばいいのに。


「とりあえず、リンゴ食べようか……ルルさんも、何も食べてないんでしょう?」

「リ、リンゴ!? た、確かにここ3日ほどは……ほとんど何も」


 荷物持ちにあてがわれる給料は少ない。故に、手持ちの食料も少なかったりする。

 ルルは突然の提案に困惑したような顔をしていたが、俺は近くのリンゴへと手を伸ばした。



 久しぶりのビタミン。肉――しかも体に悪いかもしれない謎の肉――ばっかり食べてたから、いつもより美味しく感じる。

 川で軽く洗って汚れを落としたそれにかぶりつく。隣ではルルとミヤビも同じようにリンゴを食べていた。



 まぁでもそれにしても、これからどれだけの人がここに来るのだろうか。書き置きのおかげで、今後増えるだろう。

――そしてそのうち、一体どれだけの人を信用したらいいんだろう。


 ため息をつくと、天井を見上げた。不自然な光が輝いていた。

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