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第12話 その頃ギルドでは──

「そういや、あの書類はどうなった……?」

「あれはスペンサーが管理していて……」

「地質調査については?」

「それもスペンサーが……」

「そういえば、鉱石の研究って誰が……」

「それもスペンサーです」


 ギルド内では、慌ただしい日が続いていた。

 理由は簡単、アルフ・スペンサーが追放という形で2日前に退職したからだ。

 それだけでも書類作成などで忙しいのに、突然の追放だったから仕事の引き継ぎも何もできていない。

 ギルド長のヤニクは顔を顰めた。目の前の、アルフの仕事の引き継ぎ関連について任せたヴィクトルも困ったような顔をしている。


「ちなみにだけど、ダンジョンのあの深い穴の管轄って……」

「スペンサーです」


 ヤニクはため息をついた。

 この国では、女性を襲うことは殺人罪や外患誘致罪、国家反逆罪など重大な犯罪の次に重い罪だと言われている。

 だからこそ、ベルに言い寄っていることが分かったときにあの仕打ちだったのだが……


「あの、スペンサーの分、どうしましょう」


 いかんせん相手が悪かった。

 彼は唯一の"スキルなし"で馬鹿にされていたものの、ダンジョンについては誰よりも詳しかった。

 たとえば、『鉱物鑑定』のスキルを持っているやつは、鉱物担当としてもてはやされる。スキルを発動すれば、たとえ未知の鉱石でもそれが何であるかを分かってしまうからだ。


 しかしアルフは『スキルなし』だった。整備士に得になるようなスキルを何一つ持っていない。前代のギルド長がなんで雇ったのか分からないほど。

 

 今から考えてみると、アルフが『スキルなし』の穴を、努力で補っているようなやつだったからかもしれない。

 元から研究者気質だったのだろう。

 鉱石の名前だけじゃなくて、それぞれの特徴、関連性、生み出すことが可能なのかまでを考える。実際、どこまで調査していたのかは知らないけど。

 そんな研究を地質、モンスター、ドロップアイテムなどまで多岐にわたって行うのだ。果ては、それぞれの関係まで。


 彼は寡黙だったからギルドではほとんど喋らず、自分の仕事を黙々としていただけあって、仕事の詳細がよく分かっていない。書類も持っていったようなのだ。

 馬鹿にされていただけあって、大量の仕事を任されていたわけではないと思っていたのだが、他の職員から()()()()いたようだ。みんなに聞けば、彼がしたそうにしていた、からだと答えた。


「別にそのまま引き継いで仕事すればいいんじゃないですか? 貴方が困っていることは、スペンサーの()についてだけでしょう? それと、『スキルなし』の無能ゆえに他の職員と仕事の仕方が違っていたから」

「まぁ、そうなんだけどな。他人の仕事の上塗りの部分で何やってたかが全くわからんから、面倒なんだよ」

「きっと大したことはしてないでしょう」


 アルフには、他人の仕事の手直しをする癖があったようだ。誰かが整備したあとをいじっていたという噂も聞いたことがある。職員数人に調査に向かわせたが、彼が何をやっていたのかは分からなかった。危険はないだろうと判断して放置していたけど、こんな事件があったんだ。不安になってくる。


 彼と仲の良かったガルシアでさえ、彼の考えていたことの詳細は知らないという。それこそアルフが若い頃は、自分の立てた仮説を色んな人に言っていたらしいが、一笑に付されているうちに諦めたのだとかなんとか。ガルシアはその頃お互い顔も知らないような仲だったので、彼の頭の中の仮説については知らないらしい。


「変なことしないでおいてくれよ」


 ヤニクは呟いた。

 アルフはベテランだ。ただし、『スキルなし』の烙印を押された……

 成人式で、神からスキルを授からない者なんて、この国にはほとんどいない。神から見放されたやつなのだ、あいつは。

 だからきっと、ベルに少しでも優しくされて、勘違いしたんだろう。馬鹿なやつだ。


「まぁ、そうだな。そのまま各々仕事を続けよう」

 

 ヤニクは指示を出すと、自分のデスクへと向かった。アルフがダンジョンに危険トラップを仕掛けていないよう、祈りながら。









「おい、ルル。お前、もっと早く歩けよ」

「ご、ごめんなさい……!」


 その頃ダンジョン第5層では、数人の男と、小さな女の子が歩いていた。女の子はワイン色のローブを着ている。


「魔法使いのくせに役に立たないから、わざわざ荷物持ちにしてやってんだよ。給料の分働け!」

「ご、ごめんなさい〜……!」


 男が怒鳴るたび、少女はひっ、と声を上げ体を震わせる。1週間前男たちに雇われたのだが、雑な扱いを受け、怯えているのだ。


「おら! モンスター出てきたぞ。早くサポートしろ!」

「はっ、はひっ!!」


 少女はブンブンと首を縦に動かした。決して、少女のレベルが低すぎるわけではない。男たちの要求するレベルが高すぎるのだ。ついでに、男たちに怯えているから本来の力が出せない。

 故に、男たちからは無能と見なされ、荷物持ちにされているのだ。


 現れたオークを、1人の男が積極的に斬りに行く。オークの持つ斧を避け、間合いに入り、首を斬ろうとする。それを少女は後ろで見守った。


「あ、危ない……!」


 しかし男が剣を振り上げた瞬間、オークは手を挙げた。そのまま、男に向かって振り下ろす。男が剣を振り上げるが、時すでに遅し。オークは反対側の手も振り下ろした。


「ファイアー、ボール!」


 少女は手から生み出した火の玉をオークにぶつけた。けれど、そんなものではオークは怯まない。


「っえ……」


 続けざまに何度か打つも、オークは迷わず男の首をへし折った。


「お前何やってんだよ! サポートじゃねぇのかよ!」


 他数人の男が少女に詰め寄る。自分は怖いからと、戦わなかったくせに。


「ご、ごめんなさい……!」

「お前はそれしか言えねぇのか?」


 男の1人が逆上し、少女の肩を押した。しかも運悪く、後ろには巨大な穴。


「っ……」


 何も言えないまま、少女は落ちていった。深い深い、闇の中へ……

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