第10話 そして安全層へ
――暗闇に、一筋の光が差し込む
トンネルを掘ることを決意してからどれくらい経っただろう。
ミヤビと俺はトンネルを掘り終えた。長い作業だった。まずはトンネルの方向を計算することから始まり、できあがった図面に合わせてひたすら掘り続ける。地道な作業だったが、ついにやり終えた。
「いよっしゃー!」
「終わったー!!」
叫んだミヤビの目元には濃いクマが住んでいた。ちなみに同じように叫んだ俺の目の下にも生息している。
トンネルは地質的にも掘りやすかったが、とにかく距離が長い。サックサック掘れても、時間がかかった。その上俺たちはろくすっぽ寝ていない。
交代で見張りつつ寝たことには寝たけど、やっぱりいつモンスターに襲われるか不安で仕方ないし……そんな風にしてれば疲れは取れない。
というわけで、肉で疲労回復しつつも精神的にゴリゴリに疲れた俺たちは叫んだ。最終的には意味のない言葉まで。
「これで安全層行けるー! あるか分かんないけど〜!」
「これでなかったら泣けるな〜!」
伝説とはいえ、あると信じてここまでやってきた。なかったら本気で号泣できる自信がある。
それに安全層に野菜があるってことは、たぶん光があるんだよな? 今までロウソク以外の光を見てないから、早く太陽の光を浴びたい。あと体も洗いたい。
洞窟の中の水たまりには、体を洗えるほど水がなかった。ミヤビも俺も、そうとう臭いと思う。慣れてきたけど。もし安全層に水があるなら、水浴びもしたい。
「アルフさん。せーの、っでいくよ」
「あぁ」
「忘れ物ないよね?」
「おぉ。書き置きもしといたし」
これから穴から落ちた冒険者のために、書き置きをしておいた。洞窟の場所と、それからトンネルのこと。モンスターに襲われずに移動する方法。
それらをキノコの近くの岩に刻んでおいたのだ。
今までも落下事故はあったのだろうが……彼らのその後のことは考えたくない。
「せーのっでいくからね」
「おおっ。じゃあ、」
「「せーのっ!!」」
掛け声とともに、2人でシャベルを振り下ろす。俺は整備士時代の荷物を全部持ってきていた。もちろんシャベルも。後で取りに行けそうな雰囲気もなかったから、リュックにパンパンに詰め込んで出てきたのだ。
ガシャン、と派手な音がして、目の前の壁が崩れる。計算通り、安全層の入り口の階段の直前に繋がっていた。安全層からの明かりなのだろうか。最下層に比べてほんの少し明るい。
「ひやぁぁぁぁぁ」
「うぉっしゃァァァァァァ」
もはや正気を失った俺とミヤビは、抱き合って叫んだ。人間って、しばらく人間らしい生活しないだけでこんなになるんだな。
「アルフさん! 走ろう!」
「あぁ! 安全層まで!」
手を取り合って、階段を駆け上がる。ゼェゼェ、と息が上がるくらいまで登ると、ついに安全層の姿が見えた。
「アルフさん! 光が……!」
「あぁ! 安全層はあったんだな……!」
ミヤビが言った通り、果たして安全層はあった。
光に満ち溢れている。果実もあれば川がせせらぐ音も聞こえる。しかもモンスターの気配もない。人間の気配もない。
「……俺一生ここで暮らそうかな」
「ここで暮らすのも楽しそうですけど、でもやっぱり光が不自然ですよ」
ミヤビが手をかざして呟いた。確かに、魔力によって生み出されたのであろう光は妙に白くて不自然だ。天井の端の方で何かが光っていて、そこから明るさが生み出されているんだろう。
「確かにな。陽の光は浴びたい」
「……でもその前に水浴びしたいですね」
頷けば、ミヤビが服をスンスンと匂いながら呟いた。
「そうだな。久しぶりに体洗いたい」
「ここの川けっこう長いみたいですから、離れたところで洗いましょう。そしたら体も見えないし。この層、螺旋状になってなくて助かりましたね」
「……あぁ、そうだな」
ミヤビとそこそこ長い時間を過ごしてきたが、娘、という感覚に代わりはなかった。つまり、裸を見たいとかそういう気持ちもないけど……ここまでキッパリ言われるとちょっとだけ落ち込まないでもない。
「じゃあ、行きましょう!」
でもミヤビがピカピカの笑顔をしているから、万事OK。この癒される笑顔を見れたのが、安全層に来て1番良かったことかもしれない。




