6 Ubi amor, ibi oculus.
夜になるとあの猫は律儀にも、話の続きを語りにやって来た。勿論来なかったら殺そうと思っていたが、これが進んでやってくるとは少々意外。
また0時を過ぎた時……私を殺すつもりか?いや……昨日をよくよく思い返してみれば、私がからかわなければ猫は牙を剥かなかったはず。
歯向かったところで返り討ちに出来る仕掛けはいくらでもあるが……今日は大人しく聞いてやろうか。そんな気分だ。
そうしたら、話し終えたとき……この猫はどんな顔になるだろう。
「悪魔は自分のために泣いてくれた少女を見捨てられなくて、人の姿に化けて彼女の前に現れる。少女はその手を取り、無事に村まで戻される」
「ち、生き延びたか……つまらん」
それでも正直者の私の口から、短い感想が漏れる。真面目な話を少しでも明るくしてやろうという私の心を酌むと良いぞ猫。
「そしてその瞬間、村中の桜の花が一斉に咲いたんだ」
そのまま無視されるのも何だか気に入らないな。別に放置されたのが寂しいわけではないが。
(桜の花?)
それは春の訪れ。それは喜ばしいこと。物語の住民達にとっても。
けれども、猫の表情は堅い。
「悪魔の身体は雪で出来ている。本当なら触れるだけで少女を殺せる呪いの手……でも少女は生き残った」
少女は生き残った。けれど悪魔は死んだのだ。
それは何故?この文脈では理解できない。猫の語りが拙いせいだ。
それでも……そうだな、声は嫌いではない。今日はいつものように喧しく吠える声ではない。穏やかな声だ。その穏やかさに少しずつ、眠りに誘われていく。
「悪魔は少女に恋をした。その温かさが逆に、悪魔の方を溶かしてしまった。だから村に春が来た」
その後少女は命の恩人が悪魔であったことを……自分がそれを殺めてしまった知り、深く嘆き悲しんだらしい。愚か者め、素直に救われた命を喜べばいいのに……失った命を嘆くなど愚の骨頂。
猫は言う。それでも冬は滅びない。毎年生まれ、毎年死んでいくのだと。
なるほど、タロックらしい輪廻の話か。
「少女は毎年冬が生まれるのを待ち……そしてその手で何度も殺す。悪魔は何度も忘れ、何度も恋に落ち……何度も彼女に殺されていく。人と悪魔は決して交わることのない存在……それでも彼らは互いを想い合っていた」
少女に恋し、何度も殺される悪魔。
悪魔を愛し、何度も殺める少女。それはせめて己の手でという独占欲か。
永遠の冬の世界では人間は生きられない。だから悪魔は少女を生かすために自らの死を肯定しなければならない。
人と悪魔の二人が辿り着ける世界など、何処にもないということだろう。
「けれど永遠の愛なんて、人にも悪魔にも作れなかった」
人同士でも作り出せないものが、違う種族で成り立つわけがないという気持ち。
人には不可能なことでも、人でなければ生み出せるのではないかという期待の裏切り。
その言葉に私は納得半分、残りは失望に似た何かを感じていた。
「ある年とうとう彼女を思い出せなかった悪魔。けれど少女ののばした手を取り彼女を殺してしまう。その悲しみに悪魔は山へと籠もり……物語は繰り返される。次の泣いてくれる子が現れるまで……現れて失われるまで」
「だから雪の降っている日は、どんなに辛いことがあっても泣いてはいけない。悪魔に勘違いされて好意を抱かれるから」
「いいではないか。それならすぐに冬が終わる。村人全て集めて泣けばいい」
「……馬鹿姫」
呆れたように微笑む猫。言葉は失礼そのものだが、妙な気安さを感じる笑みだった。
「馬鹿とは何だ馬鹿とは!」
「悪魔はとても美しい姿をしているんだって。だから人間なんかがそれを見てしまったた、絶対に悪魔を好きになってしまうんだ」
「なるほど、まるで妾のことのようじゃな」
私の半分本気の冗談に、その自信何処から湧いてくるんだとでも言いたげな微妙な顔の猫。
自分と同じ顔がここまで微妙な顔を出来るのだと思うと違う意味で自信が折れそうだ。
「短命になりたくなければ人は人と恋をしろ。これはそういう戒めか」
猫が言うには、この話は終わらない存在の永遠を嘆いているのだと。
「俺は悪魔が好きだったよ。春なんか嫌いだったから、このままずっと……白い雪が降り続けばいいのに。そう思った頃もあった。馬鹿だよな。それじゃあ作物も育たない……みんな飢えてしまうのに」
雪が好きだと猫は言う。何処か遠くを見るような悲しげな眼差しは……故郷を思い出しているのだろうか。いっそのこと村人全てが冬に魅入られ冬に殺されたなら……そんなあり得ないことを思いついたのだろう。
雪の運ぶ死は、優しく美しい死だから。そう小さく猫は呟いた。自身も雪に殺されたいと言わんばかりのその言葉。
私にはよくわからない。雪とはそこまで心引かれる……優しいモノなのか?
「雪か……それが祖国を苦しませる病魔だということは知っておったが。それはあの美しい桜の季節を拒んでまで求めるような美しいものなのか?」
私の言葉に、猫の口がぽかんと間抜けに開けられた。
「雪、見たことないのか?確かこのセネトレアだって降るはず……」
「今は七月……妾が嫁いだのは二月…………ギリギリ降りそうで降らなかった」
「なんだ、それじゃあもうすぐだ。あと四ヶ月……半年もない。11月にでもなれば雪は降る」
その言葉に私は吹き出さずにはいられなかった。この猫は私に雪を見せたいらしい。その言葉は……私を少なくともあと四ヶ月は殺したくないと言っているようなものだ。
「ふ……それまで生き延びる自信があるのか、猫よ?」
「は……あんたこそそれまで俺に殺されない自信あるんだな?」
からかってみると、売り言葉に買い言葉。本当に威勢だけはいい猫だ。
「自慢ではないが私は恋人も愛人も愛玩奴隷も、一ヶ月の壁を越えたことがないので有名でな。ちなみに最短記録は三分じゃ」
「……って奴隷王は五ヶ月続いてなかった?」
「あれは仕事で殆ど国から出ていたからな、寿命が少しばかり延びただけじゃ」
(猫の予想する)私が殺した人数と、私の結婚期間に違和感を感じたらしい猫。
「……結婚してた頃から愛人作ったり奴隷買ったりしてたの?」
「問題はない。互いの浮気の許可。それも婚姻条件に入れたからのぅ」
「…………」
私の言葉に猫が絶対零度の冷ややかな眼差しで応える。
「だって狡いではないか!男だけ後宮が認められて女は許されぬなど納得いかん!女だから、女だから……そんな理由で男達は妾の行動をいちいち縛り付けてくる。だからそんな者は要らぬのだ」
「妾は妾……それだけじゃ」
私は猫相手に何を語っているのか。下らない。
私は猫へ背を向けて、そのまま深く目を閉じる。
*
真っ暗だ。一面の闇。私はそこにひとり、浮いている。
「はて……ここは?」
声は出る。耳から聞こえる。ということはコレは夢ではないらしい。よくは見えないが両手の指を動かしてみるとその存在が確かめられた。
《汝、力を欲するか?》
私は力を持っている。これ以上何を望めと言うのか。
私は知っているのだ。いらないものばかりこの手に入り、本当に欲しいものは何一つ手に入らないこと。
「だってそんなもの……何処にもないじゃない」
《汝、犠牲の先の願いを肯定するか?》
犠牲?ああ、それなら肯定するわ。
みんな、みんな塵芥。私が求めるものを持っていない塵ばかり。だから私は誰も、何もいらないの。
みんなみんな馬鹿ばかり。ああ、どうしてそんなこともわからないの。気付かないの。どうしてそんなに愚かなの?
《汝、幸福を求めるか?》
「幸福?何……それ」
*
最初に求婚されたのは何時のことだっただろう。まだ十にも満たない頃だ。あの異母弟が殺される以前から、私には求婚者の群れが出来ていた様に思う。
「刹那様……私は貴女様をっ」
「刹那姫……某は貴女ほど美しい方を終ぞ見たことはありません!」
「私は貴女を愛しております、一目貴女を見た瞬間から一秒たりとも貴女を忘れたことなどないのです」
「いいえこの者よりも私がっ!」
「この国で拙者が最も貴女をお慕いしておりますぞっ」
「う〜ん……そうね、それじゃあ貴方達全員、自分の首と胴体を切り離して明日またここへいらっしゃい?そこでもう一度同じ事を言えたら、愛してあげる」
幼い私が妖しく笑んだ。
翌日、何も言えない首がいくつも私の寝所の前に並べられていた。あれには爆笑したものだ。普通に考えばわかるでしょう、私が貴方達を振ったこと。
幼少時からそんな日々が続いた私の中では、人の命の価値観が大分揺らいでいた。
あ、何だ……こんなものなんだ。こんなにあっさり死ぬんだ。あっけないなぁ。
それでも心に響く死もあった。
それは異母弟の死、母様の死。
異母弟は、父様に殺された。何にも悪いことをしていないのに。生まれてきたこと自体が悪いことだったとでも言うのだろうか?
幼い私の中で弟は、ちょっとした悲劇のヒーローだったのだ。可哀想に。それでも何だかとても胸が高鳴った。可哀想と思えば思うほど。
彼自身については顔も知らない。知らないからいくらでも想像できた。空想で補った。それがよかったのかもしれない。何も知らないから欠点なんか知らない。どんどん理想を詰め込んで私は彼に憧れた。
そして母様の死。
後追い自殺?馬鹿だなぁと思った。
何にも知らないで、可哀想にとも思った。
それでもその程度を越えた馬鹿さがいいなと思った。愛する人のために、ここまでできるんだ。死ねるんだ。そうか……これが、愛ってものなんだ。愛とは無償のモノ。見返りも求めず、尽くして尽くして……そうして死ぬの。
あはは、私はごめんだわ。そんなの反吐が出る。
でも、悪くないわ。私がそうするんじゃなくて、誰かが私にそうしてくれるのは。最初はそう思った。でも……飽きてしまったの。
(男は糞だな……そう思ったのはその頃か)
成長する度にその思いは増していった。
私の顔、私の身体……みんな私の外側しか見ていない。
無償の愛?は……?どんなに見栄えの良い言葉を吐いたところであれでしょう?結局みんな同じ。単に私を抱きたいだけじゃない。劣情の愛よね、それ。私の心なんか要らないの。だって見えていないんでしょ?見えなくても構わないんでしょう?
私さえいればいい。私が何を考えていても、誰を想っていても構わない。唯私を所有したい。自分のモノだと言い張りたい。それだけ。
自分の存在感のなさ、それを私で補いたいんでしょう?何も変われないから、私を隣に置くことで自分の力を実感したいんでしょう?それが虚像とも気付かずに。
だから傍に置きたいんでしょう?私を誰よりも自分の近くに。
笑わせるな。そんなの愛じゃない、せいぜい埃が関の山。
私は私。誰のモノでもない、誰かのモノになるつもりもない。どうしても私が欲しいなら、そっちが私のモノになればいいじゃない。そんな我が儘。それさえ私の前では叶ってしまう。
私を抱きたい?それが叶うなら金も命も必要ない?
ふぅん……そうなんだ。それじゃあ、やって見せてよ。
目の前で全財産焼き払いなさい。貴方の妻子すべての首をここに並べなさい。
出来たら一晩貴方を私のモノにしてあげる。瞬きひとつしなくなった家族に見つめられながら。そしたら最後、明日の朝は貴方の処刑。貴方の悲鳴はいい目覚ましになってくれるでしょう。
へぇ……出来ないんだ。貴方も口だけだったんだ。
そんな嘘付きはこの世界には要らないわ。私の視界にも。だから、ねぇ……殺してあげる。
所詮本気じゃないんでしょ?愛してるなんて腐った言葉、二度と言えなくしてあげる。
どれだけ本気?私のために、どこまで出来る?
そうね、私も貴方も別の人間。完全に理解し合う事なんて不可能。だから見せて、覚悟を見せて。そして私に証明してよ。狂って、堕ちて……ここまでおいで。そしたら貴方を愛してあげる。奈落の底で貴方だけをずっと好きでいてあげるから。
あ、ごめんね。貴方に飽きちゃった。だって貴方つまらないんだもの。薄っぺらいんだもの。まだ気付かないの?随分貴方は幸せね。
私は貴方を愛してなんかいないし、貴方も私を愛してなんかいないのよ?
それに気付かない貴方は要らないわ。
さぁ、首を刎ねなさい。
*
「くくく……あはははははは!そうだそうだ!そうだった……すっかり忘れていた」
目的が手段となり、手段が楽しすぎて目的を忘れていた。そのために私はここへ嫁いで来たのに。
「次の獲物はもう決めていたんだ。なぁ父上……一番の大嘘つきの首を刎ねるのを忘れていた!」
そのためのセネトレア、そのための王座。
そのための人形、手駒達。
母上は馬鹿だ。愚かだ。
それでも私は母上が大好きだった。だから私はあいつらが許せない。
母上は愛した人間二人に裏切られたのだ。無償の愛を注いでいた、二人の男に。
つい最近まで、私もその一人に騙されていた。だから、余計許せない。この手で殺してやる。その首、切り落としてやろう。
地に頭を垂れろ。跪け。そしてすべてを謝罪しろ。
勿論許さない。どうやったら長く苦しんで死ねるか……随分試した。だから効果的な処刑方法を私は誰より知っている。でも安心して、最後は必ず殺してあげるから。
メラメラと燃えさかる炎。その中に投げ込んであげる。計算はもうしてある。相応しい温度と時間、高さ。何日かけて燃やし尽くそうか?途中で消して水攻めにして……もう一度。
声は言った。力が欲しいかと。
「力?力はいくらあっても構わぬな……」
暗闇に光が差し込む。
私はそれに手をかざす。
歌が聞こえた。声が聞こえた。私はそれを受け入れた。
光に触れた右手が熱い……
黒を塗り替えるそのまぶしさに、私は思わず目を伏せる。そしてもう一度それを開いたとき……
「…………む?」
随分と変な夢を見た。夢の中とはいえ手が焦げるような痛みがしたが……何だったのだろう。そこまで考え私はまだ手が温かいことに気がついた。
「那由多?」
猫の手が私の手を掴んでいる。眠っているようだが随分震えている。
(悪夢でも見ているのか……)
そもそもコレにとっては私自身が悪夢のようなモノだろう。せめて離れてやろうと思うがこう掴まれていてはそれも叶わない。
「…………泣いているのか?」
私にはわからない。人の死とはそこまで悲しいことだろうか。
もし私は生まれ育ったあの王都が滅ぼされたとしても何も感じない。むしろよく陥落させたなと相手に拍手を送りたい。
母上の死だって、悲しくはない。腹立たしい、気に入らないだけだ。
他人の死によって涙など、流したことはない。私も人間だ。自分のためにしか泣けない。他人の不幸を自分のモノだと勘違いして背負い込み、涙するのは唯の偽善だろう。
これは何故復讐をする。それで失ったモノが戻ってくるのならそれは道理。けれどそれが叶わないのならそれは唯のエゴ。己の正義感だとかヒロイズムとか……そう言った欲求を埋めたいだけ。
(猫よ……お前はどうして泣くのだ?)
「……っ、兄…さん」
これは多くのものを失った。父も母も兄弟も。それでも猫はその一人しか呼ばなかった。
詰まるところ、それは……その一人のための復讐なのだろう。
(兄……か)
兄なら私にも一人いた。それでも私は泣かなかったし、泣かないだろう。
むしろ笑うだろう。笑っただろう。
私より母上に愛されていたくせに。私より母上を愛していなかったくせに。
父は他の女を、母は父を、その目に追っていた。
手に入らないならと代用品。父は私を、母は兄を愛した。
だから私は父を、兄は母を愛した振りをして心の底では嫌っていた。
(那由多…………)
この少女にあの名前を付けたのは……何故だろう。
私も、代用品が欲しかったのか?
そう心に問い掛けてみると……そうかもしれない、そんな答えが返ってきた。
私だけを見て、私だけを追ってくる瞳。
それならば、これは相応しくない。
これは私を見ていない。そのたった一人のために泣き、たった一人のために私に牙を剥き、私を見ている。
せっかくとっておきの名前をあげたというのに、それがなんだか気に入らない。お前はその名を持つのにどうして私を見ないのか。
このまま手を握ってやっているのも癪だ。
「……てい」
開いている左手で猫の頭を強打してみた。
情けない声を上げて猫が目を開く。
「…………夢?」
「随分うなされておったぞ?」
繋いだ手を軽く振り、にたりと私が微笑むと……猫の顔が一気に青ざめる。しかし照れてもいるようで頬が赤い。それを同時進行とは何とも器用な……
「は、離せっ!」
「何を言う、其方が勝手に掴んできたのだろう?仇相手に何をしておる」
「ち、違う!これは……」
「違わないだろう、どうみても其方の手が妾の手を掴んでおろうが」
そう問いつめれば、猫が俯きながら小声で言い訳を口にする。
「…………なんか、凄い魘されてたから、いつもの癖で」
そう言えば猫には多くの兄弟がいたらしい。年下相手に子供扱いされるとは屈辱だが、これは私のためを思ってのことだったらしい。しかし……心当たりが皆無だ。
「笑っていたの勘違いではないのか?」
あの夢はうなされるようなモノではない。
あの夢を見る前に、私は他の夢でも見ていたのか?
「……妾は何か言っていたか?」
「別に、何も……」
「ほれみたことか!くくくく……やはり其方の見間違いじゃ!恥ずかしい奴め」
「っ……悪かったな!」
笑い転げる私に猫はそう言い捨て、勢いよく手を離す。
「………?これは……」
私の右手。今の今まで猫に掴まれていたその手の甲にはスペードに似た紋章。ひっくり返せば掌には2の文字。
「………那由多、優しい妾は怒らぬから正直に申してみぃ?」
手を繋いで隠していたのはこの落書きのせいだろう。こんな嫌がらせをしてくるとは……意外にこの猫は侮れない。鏡でも見に行かなければ……きっと顔にも落書きされているに違いない。
「うわぁっ!なんだよこれっ……」
どう料理してやろうかと企む私の目の前で、猫からあがる素っ頓狂な声。
「………あんたどうしてこんな嫌がらせするんだ!俺がのんきに寝てるのが気にくわないからって子供っぽすぎる!」
見れば猫の手にも似たような落書きがある。なるほど、そうやって自分も被害者ぶり、第三者の犯行と見せるわけか。
「甘いぞ猫!この寝室には二重三重の罠が仕掛けられて居る!部外者など絶対に入り込めん!そして妾が犯人ではないことを妾は知っている。すなわち犯人は其方以外に誰も……」
「これまさか……あの夢か?」
「話を聞け!」
私の華麗な推理を無視し、猫はしばらく考え込み……ちらりと私の右手へ視線を向けた。
「……あんたも見たのか?」
「見たとは何の話か?」
「声が聞こえて、歌が聞こえて……カードをこの手に取る夢だ」
猫の手にはダイヤの紋章。そしてナイトを表すJの文字が記してあった。




