苦難と初読者
俺の異世界初投稿作品「使えないスキル持ちだと虐げられて勇者パーティから追放されたけど実は俺のスキル(農園)はランクSスキルで無から食物を生成しお前らの食事の99%を作っていたんだけどな。冒険先でお腹が空いて泣きついて来てももう遅い。田舎に帰って可愛い幼馴染と家庭菜園しながら気ままに暮らすさ」のアクセス数はなんと俺を除いてたったの「1アクセス」だった。
そんな...なんでだ...。
同じ時間帯に投稿された初回投稿の作品も見てみたが軒並み100を超えるアクセス数となっている。俺の作品のみ突出してアクセスされていなかったのだ。
ブクマが付かないなんて慣れてる。こちとら前世では100万文字ブクマ0なんて余裕で達成しているからな。しかし自分を殺してここまでキャッチャーなタイトルを付けたにも関わらずこのアクセス数は予想外だったのだ。
「この世界のニーズに合ってないのか? いや、判断はまだ時期尚早だ」
会心1話目の自信から現実のギャップにショックを受けているのは事実だ。だがまだ投稿から1日しか経っていない、しかも1話目しか投稿していない。反応がなくて当たり前だ。欲深い自分に嫌気が差しながらも1アクセスしてくれた読者に感謝しつつ2話目を投稿する。
2話目はパーティから追放された主人公が幼馴染と再会するシーンだ。1話目は5000字程度だったが、今度は少し長く尺を取り、幼馴染との再会から故郷が食料難で困っているところへの農園スキル発動。故郷の危機を救い幼馴染に求愛されるまでをまとめて掲載した。
「1話目は見返す時のカタルシスを大事にする為に追放の過程を少し丁寧に書きすぎたからな、やっぱりヘイトがあると読者はついて来ないよな。反省反省」
1話のヘイト部分もマイルドに改稿し準備は万端。
「後は連続投稿だな。とりあえず6時間おきに1話ずつ、1日4話投稿で固定読者を掴みに行くぞ!」
意気込みも新たに俺はその日、主人公の活躍シーンを重点的に描いた計4話を投稿した。
......翌日。
「なん...だと...!?」
計4回の更新、ヘイトも極力薄くした構成にも関わらず、アクセス数はたったの15。
「まったく読まれていない......のか.....い、いやまだまだ、こんな少ない投稿数で測れるもんか!」
疑心暗鬼になりながらも、その日以降1日4話投稿を一ヶ月続けた。
そして一ヶ月後......
「投稿話数121話......文字数68万字......アクセス数885......ブクマは......0」
俺は愕然としていた。
試行錯誤し改稿を繰り返し、自分の中では精一杯やったつもりだった。しかし結果はこの有り様。惨敗と言っていい。
「くく......はははは」
思わず笑みが溢れる。
「環境が変わったら、読者が変わったら、自分の小説が受け入れて貰えると思ってるんだもんな。はは、ほんと笑えるわ」
もういい。異世界まで来て何を夢見ていたんだろう。折角異世界でもう一度生を受けたんだ。日々鍛錬に励み、本当の冒険者として小説のような冒険をすればいいじゃないか。もう諦めろよ......
「う、うぅ......」
やばい、なんだか涙まで出てきた。なんと女々しい男なんだ俺は。でも向き合わなきゃ、現実と。読んでくれた読者のために、この作品をしっかりと完結させて明日からは日々鍛錬だ...。
「さぁ、ちょっと急だけど最終話を......ってアレ?」
俺は最終話を投稿すべくパソッコを開いた。そこには見慣れた画面に見慣れない文字が......
1分前...感想...1件!!?
「ちょちょちょちょっとぉ!? 嘘でしょ!? うっわブクマまで、えっえっ嘘嘘嘘!?」
気が動転して呼吸も荒れる。
「どどどどどうせ誤字脱字の指摘でしょお〜!? ま、まあそれでも読んでくれてるからありがたいんだけどね!」
俺は震える手を押さえながら感想欄をクリックする。
《初めまして。1話目から楽しく拝見しています。結局最前線で餓死寸前の勇者パーティに危険をかえりみず食事を作りに行ってあげたり、ヒロインのメイメイをいつも影でサポートしてあげたり主人公のクロウがいい奴すぎてマジで泣けます。
(あ、ちなみに僕の推しは第3ヒロインのペムッチです)
涙あり笑いありたまにお色気ありで毎朝出勤前に見るのが楽しみです。連続投稿は大変だと思いますがお体に気をつけてこれからも頑張ってください。これからも楽しみにしてます》 魔王
「が、ガチのやつやんかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
やばい、やばい、やばい嬉しいぃぃぃぃぃ!! 嬉しさで天にも登りそうだ。前世も含めて初めてちゃんとした感想、しかも1話からだって!? じゃああのアクセス1ってこの人!? えーもうどうしようガチのファンじゃん、えーこれ辞められないヤツじゃん!!
先程とは別の意味で涙が止まらない。ありがとう、ありがとう。この感想だけで俺は今後なにぎあっても小説を書いていけるよ。
「はぁ〜〜こんな幸せでいいんだろうか。それにしても魔王さんかぁ。いったいどんな人なんだろ」