得意分野
異世界ジャンルがない。これは俺にとって死活問題だった。なにせ小説投稿のほとんどが異世界ジャンルで、それ以外は経験値が圧倒的に不足しているからだ。
「くっ......これじゃあ俺強ぇも、ステータスオープンも、悪役令嬢も、追放見返しも、使う事ができないじゃないか」
がっくりと肩を落とす。俺が小説で蓄積したノウハウは異世界ジャンルに集約されていると言っても過言ではない。
中世ヨーロッパ風、この言葉だけで読者はなんとなく街並みがイメージできるから細かく書く必要がない。通貨もそうだ、金貨3枚銀貨10枚とか書いておけば具体的な相場を考えなくても何となく読者が想像して高い安いを判断してくれる。ステータスオープンは分かりやすい可視化で強さを表すのにこれだけ適した表現もない、何より楽だ。
それらが全て封じられるのだ。異世界小説ライフは前途多難という他ない。俺は思わず天を仰ぐ。
窓から見えるから青い空には竜騎士団お抱えのドラゴンが今日も町の警備を担い空から巡回している。
「...いや、待てよ」
違う、そうだ、ここは剣と魔法の世界。そもそも俺の得意とするジャンルは...!
俺は急いでサイトの総合ランキングを見渡す。
「この世界の圧倒的1番人気は...!」
総合順位20位までを占めるそのジャンルは「冒険者」だった。そこに書いてある内容は冒険者達の手記、実際の行動記録を元にした冒険譚だった。
「書ける...これなら書けるぞ」