悪役令嬢の父ですが、後悔してももう遅いようです。
『はぁ!? 何言ってんだこのクソバカ王子は? 私が、この私がどうしてそんな可愛いだけが取り柄の庶民の血を引く頭もよくない、魔法の才能もない異母妹に嫉妬しなくちゃならんのよ。ついでに言うならばテメェになんか恋したことなんぞ一ミクロもねぇわボケ!!』
場所はとある貴族が通う学園の卒業パーティ。豪華絢爛な会場では現在、この国の王子が一人の公爵令嬢に婚約破棄を申し出ている光景が広がっていた。
『だ・い・た・い! 私がその娘を階段から突き落としたなんてどこの小説かってのよ! 証言だけで断罪するくらいなら物的証拠を持ってこいってのよ!! あぁ~ムカつく!!』
王子がペラペラと婚約者の罪を述べている中、少女は淑女らしからぬ罵詈雑言をぶつけていた。どうせ、聞こえていないのだからと到底人が思いつかない汚い言葉で苛立ちを発散させて心を落ち着かせようとした。
だが、彼女の父親である公爵は顔を青くさせ手に持つグラスが小刻みに揺れていた。
公爵には昔から娘の心の声が聞こえていたからだ。何故そのような事が起こっているのかは分からないが、彼女の異母妹と妻を家に連れて行った時からこの声は聞こえていた。だが、娘から聞こえる罵詈雑言があまりにも酷すぎて気のせいだと自分に言い聞かせていた。
『はぁ、どうせこの場で何を言っても無駄なのでしょうねぇ。もういいわ、だったらこっちにも考えもありますし。どうせ、お父様も王子の意見に従うでしょう。明らかにそこの娘を昔から贔屓していたし』
娘の心の声に公爵はとうとう現実から目を逸らした代償が来たと思った。
そして、娘をないがしろにしてきた代償も。
『そうなると……しょうがないわね。もうこの国に尽くす義理もない訳ですし。隣国の誘いに乗るといたしましょう。ついでに国の情報も渡しましょう』
「何っ!!」
信じられない娘の言葉に公爵は思わず声を出してしまった。周りから奇異の視線が突き刺さる。
『えぇと、確か、あぁいたいた。うん、ちゃんと取り囲んでいるみたいね。これで今日でこの国も終わりね』
見れば、娘の視線は王子ではなく会場周辺に向けられていた。そして、公爵も気づく。もう、この場は隣国の兵士に取り囲まれていることに。
『それじゃ、合図しますわよ。3、2、1……さようなら』
一体、どこで間違えてしまったのか。答えは悲鳴と共に掻き消されてしまった。