親愛なる我が雨神へ
一時間ほどで書いた短編です。文章、内容共に荒削りだと思われます。暇つぶしにご覧下さると有難いですを
我が親愛なる友人、ドミへ
久し振りだね。
いや、実際君と私が顔を合わせている訳ではないのだが……、まぁそういう体で行こう。
初めて君と逢ってから、一体どの位の時が流れたのだろうか。我らが愛し子『人間』の単位で言うと、5文明位前だろうか?
…………あぁ、分かっているとも。文明は単位では無い、そう言いたいのだろう?
元々、違う世界の運命神と雨神だった私達は絶対に出会う筈のない関係だったよね。そう、運命神と雨神だなんて同じ世界であったとしても身分が違い過ぎるもから。
あのときの私は、なんというか……その…………傲慢だった。……黒歴史だ、本当に。
神界序列4位に胡座をかいた小娘だった。認めるよ。
そう、そんな私を初めて殴ったのが君だった。君は権力を自分の為にしか使えない奴が嫌いで、ついつい殴ってしまうような、そんな大馬鹿者だった。そう、果てしない大馬鹿者だ。私が君に殴られても変わらず傲慢なままだったら、どうするつもりだったんだい? 下手したら、私に存在ごと無かったことにされていたかもしれないんだ。君と私の力の差はそれだけ激しかったのだから。
君は本当に考えることをしない馬鹿だ。それは確かな事だ。だけど……君のおかげで私は自分を崇めてくれている信者や、他の神の事を考えられるようになった。それは、とても感謝しているんだ。本当に。
君、いま絶対に「そんな事は知っている」なんて、思っただろう。あぁ、そうさ。私は目が覚めてすぐに君に礼をしたいと申し出たからね。どうせ君は覚えていないだろうから聞いてやる、君はなんて言ったと思う? …………正解は「謝るくらいなら、友達になってくれ」だ。私はもう、呆れ果てたね。でも、礼をしたいと言い出したのはこちらだったから、仕方なく、君の友人になってやったんだよ。私は。
そうして私達は友人になった。そう、数百年に一度、お茶会をしたり出かけたりする、ごく普通の友人関係を築いた。
君は……そう、雨神だからなのか、水に触れるのが大好きだった。一度、私の世界で一番澄んだ川に連れて行ったことがあったね。あのときの君はまるで……まるで、人魚のようだった。
‥‥‥‥美しかったよ、とても。多くの世界で美しいものなど見慣れたはずの私が言うんだ、信じないとは言わせない。
君と過ごす日々は本当に魅力的で、自分が神で有ることさえ忘れてしまいそうなほど楽しくて………君の前では唯のエルエセルで居られたんだ。
只ね、一つだけ後悔があるんだ。悔やんでも悔やんでも悔やみきれない、そんな後悔が。
元々、私達は頻繁に連絡を取り合うような仲ではなかったから、気付くのが遅れたんだ。……まさか、あのときは思いもしなかった。
もう、君がこの世界、いや、私が感知できる全ての世界に存在しないなんて。
君を存在ごと消滅させた神に理由を聞いてみたんだ。……なんて言ったと思う?
君がその神の前を許可なく横切ったからだそうだ。あと、君のような黒髪が嫌いだったから。
そんな、そんなくだらない理由で、君は消されたんだと思うと、本当に本当に許せなくて、気づけなかった自分も許せなくて。
私と君は、親友だ。君が消えようと私が滅びようと変わらない。だけど…………本当は。
もっと君のことが知りたかった。
いつか約束した異世界一周旅行にも行きたかった。
また君と泳ぎに行きたかった。
君が作ってくれると約束したクルミのパイを、食べたかった。
…………君が消えた途端に、やりたいことが次々と浮かぶんだ。
あと、一つ。
親友で終わりたくなかった。
愛してたんだ……君を。
いや、今も愛してる。
君の唯一無二の親友、エルエセルより
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「エルエセル様、執務のお時間です」
エルエセルの寝室に、背中に純白の翼を広げた天使が現れた。
天使はエルエセルの手元に目を向ける。
「エルエセル様、お手紙ですか? 私がお出ししましょうか」
「いや、いいよ。出して届く物じゃないし。執務室で待っていてくれ」
「そうですか。では、お待ちしています」
天使は入ってきた扉をもう一度開け、部屋から出て行った。
セルエセルは手元の手紙を丁寧に折りたたみ、美しい装飾の施された封筒に入れる。
そして、神の力をもって、その手紙を、一片の欠片も残さず…………消滅させた。
運命神エルエセル 神界序列第4位
異世界『フーリシア』の運命神。高位の神々の中では珍しい人格者と言われ、どんな神にも敬意を持たれている。気性が荒いことで有名な、太陽神ゲルスをも跪かせたことのある、最強の神の一角。
雨神ドミ 神界序列第593位
異世界『アルデリス』の雨神。数少ない雨を司る神。だが、雨は司る対象として弱すぎるためほぼ精霊と同等の力しか持っていない。むしろ、神と名乗れるだけの力を持てた事が奇跡と言っても過言ではない。雷神ナイルに存在ごと消滅させられた。
雷神ナイル 神界序列第356位
異世界『ジズ』の雷神。雷神にしては大きな力を持てた神。他の神を見下すことで有名。運命神エルエセルの怒りを買い、不老不死の状態で人間に堕とされる。人間を見下していた彼にとっては存在を消滅させられるより惨い刑罰だろう。