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第4話 シールの体系

 酒場フォンドレーザの地下には、何もない広い空洞がある。あれだけ騒がしかった上のホールは静まり返り、地下空洞は大勢の人々の声で響き渡っている。


「ただの喧嘩とはいえ、店内で死人でも出されちゃ困るからね。だから一応ルールは設けてるから」


 そう言いいながらレインに近づいてきたのはミーナだ。


「もう聞いてるかもしれないけど、模擬戦シールを貼ってもらうことになってるの。まさかR(レア)シールなんて持ってないよね」


 そう言って親指サイズのシールをレインの体に放り投げる。シールは体に当たった瞬間、ピカッと少し光った。そして光はすぐに収まり、シールもそれと共に姿を消した。

 だがそれもそのはず、シールは既に彼の右腕に貼られているのだから。


 この世界で一般に言われるシールは、普通の物質で作られるシールとは仕組みから造りまで全然違う。まずシールは親指サイズの円形の薄い物質で、100gほどの重さがある。その重さ故、投げても紙のようにひらひらすることなく飛んでいく。

 さらに体のどこかに当たると、自動的に利き腕の手の部分から、何も貼られていない部分に順番に貼られていく。つまり、シールを貼るには、ただ貼りたい対象に向かって投げ飛ばすだけで十分なのだ。


『模擬戦シール:レアリティN:属性シール

 人ならば誰にも貼ることができる、人ならば誰でも剥がすことができる。属性練習生を追加する。練習生は他の練習生、またはその所有物によって、致命傷の可能性がある攻撃を受ける時に、10m以上離れた何もない空間にテレポートする。レアリティR以上のシールに対しては効果がない』


 右腕に貼られたこのシールは、どうやら酒場での決闘では貼ることが義務付けられているらしい。


「こんなシールがあるなんて知らなかったぜ。しかもN(ノーマル)シールって金かかってるな~。それも能力を見たかんじ、いい値段してそうだし」

「やっぱりシールについては知識があるのね。あなたの言う通りよ。これ一つで18万、ガルファンスの分も合わせて36万チケもかかってる」

「なんかそりゃあ申し訳ねえなあ。喧嘩なら外で自由にやってもいいんだけどな」

「そんな気を使わなくていいわよ。このシールは貸し出してるだけだから後で戻ってくるし、賭けで結構儲けさせてもらったからね。ガルファンスに挑発する奴なんて最近は久しくなかったから、今日はガッポリ入ってきたわ。全くもう、アタシはお兄さんの漢気にメロメロよ♡」


 そう言いながら、ミーナはレインの体に近づいて、手を伸ばし始めた。


「ちょ、待て!お前一体何を?」

「んも~、お兄さんったら勘違いが早いんだから。利き腕を見せてもらうわ、お兄さんどうせ右利きでしょ?」


 ミーナの手は、レインが来ていた長袖のシャツをめくりあげた。それはレインにとって一番困ることだ。何故なら、腕を見られると貼ってあるシールの情報が丸裸にされてしまうからだ。

 ガルファンスとの喧嘩は、当然ながら素の状態での拳の殴り合いを意味するのではない。この世界における喧嘩とは、それすなわち強化シールを使ったバトルのことだ。


 シールには大きな区分として5つに分けられる。シール名、レアリティの横に表示されるあれだ。その欄には必ず陣営シール、属性シール、強化シール、保有シール、虚構シールのどれかが書かれている。

 メタ的な話だが、ここまでに登場してきたのは陣営シール、属性シール、強化シールだけだ。


 陣営シールとは、貼ったものに陣営、家族、グループといった集団の一員に入れて役割を与えるものだ。今のところ登場したのは、家族シール、労働者シールだけだ。陣営シールは効能が何もないシールもあるが、集団に入ることで別のシールの効能を得る役割がある。


 属性シールは、貼ったものに属性というものを追加するシールだ。この属性にはさまざまな種類があり、貼っただけですごい効果を得るものもあれば、シール単体では何も効果がないシールもある。


 強化シールは名前の通り、貼ったものにメリットとなる効能を追加するものだ。特徴の一つに、これに属するすべてのシールは、誰にでも剥がせるというのがある。また強化シールは最も種類の多いシールと言われる。喧嘩から戦争まで、世界の全ての争いは、このシールを使いこなして行われている。


 村にいるときには、レインの右腕に9枚のシールが貼ってある。しかし今のレインには、その倍くらいのシールが貼られてある。無論、追加で貼られたのはすべて強化シールだ。


 シールには、名前からその効果まで全て円陣の中に書かれている。争いにおいて情報は最も重要な要素だ。貼っているシールが分かれば、相手の戦法も自ずと見えてくる。

 だから、レインは袖に隠された右腕のシールを見せることは絶対にない。


「ちょっと待て!喧嘩するとなったら、この行為の意味は分かってるよなあ?ガルファンスにばれたらどうするんだ?」

「そんなの分かってるってば!安心して、ガルファンスから見えないようにしてあるから大丈夫よ!それより、本当にRシールが貼ってないのか確認したいの!」


 シールにはレアリティという種類わけもある。その名の通り、シールの貴重さを表していて、C(コモン)N(ノーマル)R(レア)SR(スーパーレア)UR(ウルトラレア)EX(エクストラ)の6段階がある。

 ローンチ村や外縁部で使われているシールはせいぜいN程度で、数百万するRからそれ以上のレアリティのシールは滅多に見受けられない。だがそれでもRシール程度なら、絶対に入手不可能というレベルではない。

 模擬戦シールの効果は、R以上には適用されない。だから念入りに確認するのだろう。


「あ~、やっぱりそんなシールなんて……ん?何このシール?」


 ミーナは一つのシールに目が止まった。


「ああ、これか。まあそうだな、このシールは流石に危険か。……このシールは剥がしておいて、ロイドにでも預かってもらうとするか」


 シールを剥がして袖を戻すと、レインは静かにロイドのもとへと向かっていった。

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