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「モトコちゃん? どうしたの?」
絶好調な歌声が響く中、チアキくんが小首を傾げて私を見つめる。
急に黙り込んじゃったからね、私。不思議に思わせちゃったんだろうね。
そんなチアキくんの顔が遠い昔に置いてきた恋心を更に思い起こさせる。──というのも実はチアキくんってあの時の相手にちょっと似てるんだよね。
だから余計に趣味が明かしにくかったりするんだけど。
(うぅ……でも、ずっと引きずって立ってしょうがないんだよね……)
どのみち、いつかもう一度恋を……と思うなら乗り越えなければいけないトラウマだ。
そうだ、ちょうどいいじゃん! 相手が似た人なら尚更。
べ、別にチアキくんと良い感じになりたいからとかじゃなくて! チアキくん、見た目からしていい人そうだし、趣味を打ち明けて引かれたりしなかったら、もしかして過去の傷もカサブタくらいにはなってくれるかなって。そう思っただけなんだからね!
(ぽ、ポジティブになるのよモトコ! ど、どうせ一夜限りの相手なんだから……引かれたってどうってことないよ!)
一夜限りの相手だろうと落ち込むことには変わりないんだけど。そしてその言い方には語弊があるけど今はどうでもいい。
とにかくポジティブ。前向き思考になろうと自分を奮い立たせる。
「あの……私、実は……」
「うん」
口ごもる私をチアキくんはニコニコと待ってくれる。
優しいと思えるその笑顔に、私の胸に久しぶりの感覚が訪れた。胸キュン。
ああ、きっと大丈夫。彼なら引いたりしない。それに今の私は普段の数百倍可愛くなっている……筈だし! なんならギャップがあっていいねって思ってくれるかもしれない。
ああもうなんか意味分からないけど、とにかく私は勇気を振り絞った。
「私────アニメが好きなのっ!」
チアキくんと目を合わせながらの告白。相変わらずバックミュージックと化しているマルスwithマフユくんの歌声が騒がしいけど、聞こえたでしょうか。伝わったでしょうか、私の思いは。
私の告白を受けてチアキくんがポカーンと口を開ける。その口から出てくる言葉は果たして。
「…………アニメ?」
あっ、ダメだ。ダメですね、これ。
困惑気味なチアキくんの声。ぴくりと動いたチアキくんの眉間。
やっちまったわーAHAHA、なんて内なる私が額をぺちぺち叩いて笑ってるけど、いやいや笑えませんから。
即座に蘇るほろ苦い思い出。顔から表情が消えていってるような気がする。
こうなったら仕方ない。なんちゃって! と言って誤魔化すしかない。
「あっ、い、今のは冗だ────」
「アニメって、例えばマスオとか?」
「へっ?」
今すごく、物凄く予想外な単語がチアキくんの口から飛び出た気がするんだけど。
「マスオ知らない? マジック・スター・オンライン」
「めちゃめちゃ知ってる!!!!」
気のせいではなかった! ついつい力強く頷いてしまったよ!
するとチアキくんは私の肯定を受けて嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「よかったぁ。実は俺も好きなんだ、マスオ。アニメにハマったの久しぶりでさ、話せる人に会えて嬉しい!」
それがまた、素敵な笑顔だったんです。
後光が差してるんじゃないかってくらい眩しいの。まるで夏のお日様ようです。名前はチアキくんだけど。
私の胸もぽかぽかとあたたかくなって、きゅうんと疼く。ああ、何これ……こんなのモトコ……久しぶり……。