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「え、ええ、あっ、え、ああ! マル、いや、アリ、アリスとわた、わたわたし!?」
二次元と三次元は全く違いますよね!
落ち着くなんてできる訳がなかった。動揺駄々漏れデス!
「ハハハ、どうしてそんなに吃ってるのモトコちゃん」
案の定笑われてしまった。恥ずかしい!
これがメッセージの文面なら最後に(笑)ってついてそうだよ。
「あ、あ、ご、ごめ……っ! ち、近かかったから、びっくりして!」
「二人の歌で聞こえないかなと思って。驚かせてごめんね」
「う、ううん! わ、私こそ過剰に反応しちゃって……! え、ええっと、ごめんなさい、何だっけ?」
「なんか初心な感じでいいね、モトコちゃん。────アリスちゃんって、たぶん日本の生まれじゃないよね? だからどうやって知り合ったのかなと思ってさ」
正真正銘初心なのもバレバレだった。当たり前デスヨネー。
ついでにマルスについても。まあ、日本人離れした容姿してるしね。日本人でもなく人間でもなく、彼は堕天使ですからね。そんなこと言えないけど。
「え、えーとね……」
とりあえず何て返そうかなと考えながら、先程の至近距離ショックに揺さぶられた胸を落ち着かせる。
だってまだ心臓がバクバクしてるんだもん。すごいんだね、イケメンの攻撃(?)って。
「あ、あの、マ……アリスとは、SNSを通じて知り合ってね」
とりあえず無難そうな設定にすることにした。どこかでマルスと話し合わせるよう言っておかねば、と思いつつ私はチアキくんにそれを話し始める。
────出会いはSNS。
チアキくんの予想通り、マルス──じゃなくてアリスは海外出身で、日本の文化にとても興味がある女の子だった。
ストリーム☆ハリケーンズにハマって、お金を貯めてライブのために来日して以降日本が大好きになったそうな。
「……それである日フォローされて、日本のことを教えて欲しいってメッセージが来たのがきっかけで」
「へぇ、そうだったんだ! なんかすごいね!」
ネットワーク文化が発達した現代ならではのお話にチアキくんも納得のご様子。ちょっぴり罪悪感……。
ちなみに日本語が上手いのは、パパが外国人でママが日本人だからってことで。二カ国語ペラペラってことにしました。
……もし話してみて! って言われてもマルスのことだし何とかするでしょう。例の天力とやらで。
「じゃあ、モトコちゃんもストハリが好きなの?」
「あっ、ううん。わ、私はそっちの趣味はなくて……」
「あははっ、そっちの趣味ってなんか意味深だね」
「あっあっ、そ、そそそっちって変な意味じゃなななくて! ……その」
もうダメダメですね、私。イケメンを前に挙動不審過ぎでしょう。
さっきよりちょっと距離は離れたけど、それでもまだ近いところにチアキくんの顔があるんだよ!?
爽やかスマイルが眩しくて直視できないしで、私はずっと縮こまりっぱなしだった。
それで趣味について変な口の滑らせ方をしてしまったワケだけど……さて、どうしよう。
(……これ、言っても、大丈夫……かな)
漫画やゲーム、アニメが好きなんだって。
しかし、私の脳裏に蘇るはあのほろ苦い恋のおもひでと書いてトラウマと読むアレ。
恋心がバリーンと弾けて散ったあの瞬間。
────アイツってオタクなんだろ? 女子でオタクとか、ちょっとないよな。
これがSNS上での文面なら、間違いなく嘲笑の意味が込められたwwwが付け加えられてそうな男の子たちの声。思い出したくないものを思い出して、心がきゅっと苦しくなる。
私はこの一件があって、臆病になってしまった。まあ元々積極的な方ではなかったけど。自分が地味でモテない部類に入ってるって自覚してたから、好きな人が出来ても見てるだけでよかったし。
でも、やっぱり私も普通のオンナノコなワケで。恋人というものに憧れはするんだよね。
だけど、私の趣味一つで”ない”って笑われちゃったらさ、分かっていたことでも傷ついてしまうんだ。
おかけで、同じ趣味の仲間が多い職場でも男性相手に自分の趣味を打ち明けるのは未だに躊躇ってしまうくらいでして……。