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人によっては怖いとおもう描写があります。ご注意ください。
「モトコちゃんも喉乾いてない? さっきいない間に頼んでおいたんだけど、お茶で良かったかな?」
二人を見つめているから察してくれたみたい。チアキくんの手にはお茶の入ったグラスがあった。届けられてから時間が立っているせいで氷が少し溶け、グラスの側面に露が垂れている。
「あ、うん! ありがとう。実は私も喉からからで……」
ありがたく受け取ったグラスの中身はウーロン茶だった。
口に含んだ瞬間広がる独特な渋みと苦み。私も結構喉が渇いていたみたいで一口だけでなく二口、三口とお茶を喉に流し込む。
半分ほど飲んだところで不意に違和感を抱いた。
(あれ? これ……お酒?)
ちゃんと混ざっていなかったのか、遅れてやってきた味に私はグラスから口を離した。
口の中に広がっているのは間違いなくアルコールだ。度数が少し強いお酒を使っているのか、若干喉がひりつく感じがする。しかも味からしてお酒の濃度が高い気もする。
(さっき、お茶って……)
言ってたよね、とチアキくんを見ると不思議なことが起きていた。
チアキくんの顔がぼんやりしていたんだ。表情がじゃない、シルエットがぼんやりしているんだ。
なんだこれ? と思う頭も、だんだんとぼんやりしてくる。
あれ? 私酔ったのかな? あれ? あれ? でも、お茶なんだよね? あれ? お酒だっけ? あれれ? あれ……?
「モトコちゃん?」
くにゃくにゃのチアキくんが首を傾げている。でもそのシルエットもくにゃくにゃだから首を傾げているのかもよくわからない。
その声もなんだか遠い所から聞こえてきたみたいな感じ。気づいたら私は背中から倒れるようにソファに寝ころんでいた。
(あー、なんかふわふわする)
まるでもこもこのわたあめの上にいるような浮遊感。
「えへへ……」
そのふわふわ感がなんかたのしくなって、私は無意識にへらへらと笑い出す。
「……モトコ?」
あ、マルスの声がする。なんか心配してるような声だね。どうしたのかなぁ? 私はすっごく楽しいのに。マルスの歌、じょうずだからもっと聞かせてよ。もう歌わないのかなぁ。
あれ、なんかガタンッて音がした。誰かテーブルにでもぶつかっちゃったのかなぁ。マルスもマフユくんもおどりばっちりだもんね。でもほどほどにしなきゃあ……。
「……すご…………効い……」
「ハハハ! ごめ……リスちゃ……」
チアキくんもマフユくんもなんか楽しそう。何があったのかな? はしゃいでるみたい。
その様子を見てみたいけど、うーんおかしいなぁ。身体が動かない。意識はあるのに変な感じだった。
音楽流れてきた。誰か新しく曲を入れたみたい。激しいロックサウンドがガンガン響く。
「────おどれら、モトコになにしてくれとんじゃゴラァ!!」
わぁすごい。マルスのシャウト!
でもせっかくアリスってかわいい名前を名乗ったのに、地を出しちゃってだいじょうぶなのかと心配してしまう。声がめちゃくちゃ野太いんだけど。
「えっ!? アリ……ん、ちょっ!」
「ぅわっ! 力強……!?」
(ふふ。二人ともすっごく驚いてる)
ふわふわの中にいる私でも驚く二人の様子は簡単に想像できる。
そりゃ驚くよね。あんなにきれいな見た目なのに、ギャップすごいもん。
「残念、こちとら堕天使様じゃ、おおん!? ンなもん、アタシに効くワケねぇやろがコラァアアアアアアア!」
なるほど。この曲はオラオラなノリで歌うやつのようだ。ガンガン響くサウンドとすごく合っているような気がする。
「────っ!」
「ちょ────!?」
今までのノリとちょっと違うからもう少し聞いていたいのに、ふわふわの頭の中が真っ黒になっていく。
みんなの声も、ガンガン響くサウンドも遠くなる。
少しずつ、少しずつ視界も狭まって。ふわふわな浮遊感から、ゆっくり、ゆっくり、沈んでいく。
「モトコ……!」
切羽詰まったマルスの声と、沈んだはずなのにまたふわりと浮かび上がった感覚。
それを最後に、私は逞しさに包まれながら、落ちた。