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「わ、私も嬉しい……」
引かれなくて。受け入れられて。ほっと安心したのと同志に出会えた嬉しさの半々だ。私は絞り出すように素直な思いを口にした。
ちょっとだけ恥ずかしい。けど、私の言葉を受けてチアキくんも少し照れくさそうに笑ってくれた。
はにかむチアキくんを見て胸のぽかぽかが甘く広がっていく。それに比例するように体温も上昇したみたいで少し暑い。
「ホント? そんなこと言うといっぱい語っちゃうよ?」
「大歓迎だよ! あの──最新話……観た?」
「うん! 観た観た! ねぇ、あの展開ヤバいと思わなかった!?」
「あのシーンだよね! 終盤の主人公と敵の────」
話し始めるともう止まらなかった。一度電源を入れたらオフにするまで走り続ける電車のおもちゃのように。
BGMだったマルスとマフユくんの歌声もだんだん聞こえなくなってきて、チアキくんの話しか耳に入らない。まるで二人だけの世界にいるみたい。
一曲歌い終えた二人がまたすぐに歌い出しても、私とチアキくんは互いの話にだけ耳を傾ける。
時間にしたらほんの十数分くらいのことなんだけれど、とても楽しい時間だった。人と趣味が合うってこんなにも嬉しくて楽しいことなんだ。
「ハハッ、俺たち気が合うね」
「フフッ、そうだね!」
嗚呼。なんだか世界が輝いて見えるよ。
天井でくるくると回り続けるミラーボールとカラフルな照明が私たちの世界に色どりを与えてくれている。
そしてそんな世界で笑い合う私とチアキくん。……あれ、もしかしてもしかしなくてもこれ良い雰囲気ってやつ?
そう思ったら、ぶわっと恥ずかしさが込み上げて来て身体がぽっぽっと熱くなった。わぁ、今絶対顔真っ赤だよ。
「あぁん、さいっこうに楽しいわ! でも、喉が渇いたわね」
そこへ数分ぶりにマルスの声が耳に届いてきて、私の意識はそっちに向かった。
どさりとソファに座り込むマルス。その額には少しばかり汗が滲んでいる。そりゃまああんなに歌って踊り続ければ喉も乾くし汗も流すよね。
続いてマフユくんもマルスの隣に座った。彼も同じく汗をかいているけど、マルスと違ってちょっと息切れ気味だ。お、お疲れ様です……。
「はぁはぁ……──ハハッ! もう、アリスちゃん全力過ぎ! 飲み物ならあるよ、お茶で良かった?」
「アラ! 気が利くじゃないマフユ! ありがたくちょうだいするわ」
マフユくんがマルスに差し出したのはテーブルの入り口側の端に置かれたグラス。トイレから戻って来たときは気づかなかったんだけど、いつの間に頼んだのかマルスに差し出された分と合わせてグラスは四つあった。
(そういえばフリードリンク付きで入ったんだっけ……)
ここに来たばかりのときはテンション下がってたから、飲み物のこととか全く気にしていなかった。
存在を思い出すと、さっきまで熱く語っていたせいもあって私の喉も急激に潤いを求め始める。
「────ぷはっ。ああ、生き返った感じぃ!」
グラスを受け取ったぐびぐびとお茶を飲むマルスを見ていると余計に。
(……ん?)
勢いよくお茶を飲み干したマルスを見てマフユくんがにやりと笑った気がした。
一瞬だったから気のせいかもしれないけど。なんかちょっとあくどい感じのする笑みに見えたっていうか。
「アハハッ! アリスちゃん、なんかオヤジみたいだよ!」
(……気のせいか)
どうやらマルスの飲みっぷりに感心しただけだったみたい。マルスを見て大いに笑っている。
そうだね、まるでビールを一気飲みした後のサラリーマンみたいだったもんね。
モトコ、納得……と二人の様子を眺めていたら、私の前にもグラスが差し出された。