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ダメ人と魔法のランプ

作者: 川坊主

 呼吸がすべて溜息になって抜けていく。

 足取りが重すぎて歩くのも億劫おっくうだ。

 俺の心とは裏腹にどこまでも澄んだ青空からの眩しい日差しにイライラが募る。

 何でこんなことになってしまったんだ……。

 俺は、どこにでもいる普通の会社員だった。

 それが気付いたら借金まみれ……。

 携帯ゲームで欲しいキャラが実装されたので課金しまくった。

 キャラは出てこず、借金だけが残った。

 どうにか返そうとやりくりしたがどうにもならず、保険の解約・会社の退職金でどうにか返しきれた。

 今になって自己破産をすればよかったとも思うが後の祭りだ。

 手元に残ったのは417円。

 お先真っ暗としか言いようがない。


 とぼとぼ歩いていると、古びた日本家屋が目に飛び込んできた。

 こんな所にこんな建物あったか?

 いつもなら素通りするが、なんとなく気になったので足を止めてながめてみる。

 扉の上に『夢現堂』と書かれた古びた看板がかかっている。

 何の店だ?

 雰囲気的には骨董品屋だが……。

 骨董品屋か。

 骨董品屋なら掘り出し物があるかもしれない。

 少ない元手で大きな利益……。

 途端にこの店が魅力的に見えてきた。

 とりあえず中に入ってみる。

 中は意外と広く、薄暗い店内には様々な品物が置いてある。

 掛け軸、壺、皿等々。

 一見して骨董品とわかる品々。

 掘り出し物はないかと見て回る。

 骨董品の事はわからないが、レア度の高い高価な物であれば一目でわかるはずだ!

 携帯ゲームでもレア度が高いものは一目でわかるのだから、間違いないはずだ。

 「何かお探しですか?」

 キョロキョロしていると突然声をかけられた。

 やましいことはないのだが、オドオドしながら声のした方を見る。

 そこには中学生くらいの可愛い女の子がハタキ片手に立っていた。

 「こ、ここの人?」

 骨董品屋には場違いな見た目だったため、思わずどもってしまった。

 「はい!ここはお爺ちゃんのお店なんですが、今は出かけているので代りに店番をしています!」

 少女は両手を腰に当てて笑顔で胸を張る。

 「何をお探しだったんですか?」

 首を傾げ、クリッとした大きな目を俺に向けてくる。

 「いや、何か良い物ないかと思って……。」

 「そうですか!この店は、夢と現実の間にあるお店。今のあなたに必要な物が必ず見つかりますよ!」

 急に宗教みたいなことを言い始めた。

 さっさと出た方がいいかもしれない。

 出入口に向かおうとすると

 「そちらの商品にするんですか?」

と少女が俺の右手を指差す。

 いつの間にか俺は右手に古びた金属製のランプを握っていた。

 「あっ!それはとても良い物ですよ!本当に困っている人の前にしか出てこないので、この商品を手にできる方は非常に少ないんですよ!」

 理解しがたい文言が多いのが気になる……。

 いつの間にか手にしていたこともあり、商品について質問する。

 「このランプは、昔話に出てくる魔法のランプと思ってください!表面を擦ると1回だけ願いを叶えてくれるんですよ!」

 とんでもない説明がサラッとされた……。

 願いを叶えるだあ?

 昔話の魔法のランプみたいなものねえ……。

 精霊が出てきて願いを叶えてくれるのか?

 信じられない話だが、このランプが妙に気にかかるのも事実だ。

 魔法のランプじゃなくても、高価な物かもしれない。

 「これ、いくら?」

 「今のあなたですと400円です!」

 俺の財布の中を見たのか?

 と聞きたくなるくらい所持金ギリギリの額を提示された。

 まあ、本物でも偽物でも400円くらい簡単に取り戻せるだろう。

 俺は400円を取り出すと少女に手渡した。

 店を出ると少女が

 「ありがとうございました!」

と大きな声でお礼を言ってきた。

 返事をしようと後ろを振り返るが、そこに建物はなく、原っぱがあるだけだった……。

 先程買ったランプは右手でしっかりと握っているし、財布の中にも17円しか入っていない。

 ……このランプは本当に魔法のランプかもしれない。

 俺は急いで家に帰った。


 家に着くと部屋の真ん中にランプを置く。

 このランプが本物であれば、何を願おう。

 美味いモノを腹いっぱい食いたい。

 一生遊んで暮らしたい。

 色々願いが浮かんでくる。

 とりあえず願い事の回数を増やすことにするか。

 俺は深呼吸をする。

 どんな精霊が出てくるのだろうか。

 どうせなら、美人でスタイル抜群な女が出てきてほしいものだ。

 俺はそんなことを考えながら、ランプを擦った。

 すると、目を開けていられないほどの眩い光が辺りを包む。

 恐る恐る目を開けてみると、光は消え、そこには想像した通りの美女が立っていた。

 「ほ、本当に出た……。」

 俺は呆然と現れた美女を眺めていたが、気を取り直して願い事を口にする。

 「か、叶える願い事を100個にしてくれ。」

 美女は俺の方を見るとゆっくりと首を横に振る。

 「で、できないのか?じゃあ3個にしてくれ。」

 それでも美女は首を横に振る。

 叶える願い事は増やせないのか。

 「なら、金だ!一生遊んで暮らせるくらいの金をくれ!」

 美女は俺を見つめると

 「願いはすでに叶えた。」

 初めて口を開いた。

 「どこにも金は出てきてないぞ?口座が増えてるのか?」

 美女はゴミを見るような目で俺を見ると

 「『すでに叶えた』と言ったはずだ。」

 冷たく言い放った。

 「意味がわからねえよ!叶える願いの数も増やさず、金も寄こさないでどんな願いを叶えたって言うんだよ!」

 ヒートアップする俺とは対照的に美女は静かに言った。

 「美人でスタイル抜群な女の精霊に出てきてほしい。」

 「へ?」

 間の抜けた声が漏れてしまった。

 「お前の願いを叶えてこうして精霊を出した。願いを叶えるのはそれで終わりだ。」

 目の前が暗くなっていく。

 確かに、考えてみれば『擦れば願いが叶う』としか言われていない……。

 勝手に精霊が出てきて願いを叶えてくれると思ってしまった。

 思ってしまったが、こんなことってあるか?

 願いが叶うと思ったのにその期待が無残にも砕かれた……。

 絶望で涙と乾いた笑いがあふれてくる。

 徐々に消えていく美女の

 「姿形はどうあれ、このランプを擦る者のほとんどが同じ願い事をするのは謎だ……。」

という独り言が乾いた笑い声と混ざって辺りに空しく響いた。

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