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水面下で怪しげな企みが実行されているとは露知らず、コレーは年中咲き誇るあらゆる種類の花々達に身を寄せ微睡みに身を任せていた。
「………やだ、私ったら。眠ってたみたい………」
柔らかな花の絨毯から、眠気を帯びる体特有の熱を持て余しながら名残惜しそうに体を起こした。コレーの体をを優しく包んでいた花々は、相変わらず瑞々しさを保っている。
デメテルの園で育つ生き物達は皆強く、美しい。神々の加護の下、同じように永遠の時を約束されているのだ。コレーが横になっていた花々は折れ曲がった体をなんてことないように正し、あるべき姿を保ち続ける。
「ごめんなさいね、重たかったでしょう」
気恥ずかしそうに俯きながらコレーは花々へ詫びる。気にしないで、と慰めるように花々は揺れた。
コレーは無闇矢鱈に奪わない。不死の身であれど、痛みを感じる同じ命であるという考えだ。言葉を介さぬこうした花々でさえも、対等な存在と認めるのだ。食べ物は絶対に残さない。自らの腹を満たしてくれるものたちに感謝の心を忘れない。
純粋な、本当に美しく優しく心を持つ少女なのだ。
デメテルも、彼女の園の全ての生き物たちも、コレーをとても愛している。
「うーんこの美少女めが。犯してやろうか」
デメテルの園の遥か上空、ふわふわ漂いながらゼウスはコレーの様子を下衆な気持ちで視姦していた。
ーーーおっとあぶない、彼女はハデスに譲ってやるんだった。
本来の目的を忘れかけぬよう、ゼウスは気を取り直して精神の声を投げかけた。
<聞こえてる?ハデスおにいさま>
<例の場所にいる。お前も上にいるか>
いわゆるテレパシーのようなもので、神々がここのやり取りに好んで使う通信手段である。心中で特定の相手と繋がり言葉を交わし合うので、下にいつコレーに聞かれてしまう心配もないのだ。
<もう少し隠すなら上手くやれ>
ーーーげ、ばれてる、早っ。
ゼウスはヤベッ、と肩をすくめる。寧ろバレない方がおかしいのだが、ゼウスはヘルメスの奴下手打ったな、とひどい責任転嫁。ハデスが一目で事の顛末の把握に至った原因の道具の露呈であるが、それはヘルメスではなくゼウスの詰めの甘さによるものである。いざとなったらヘルメスのせいにしてしまえ、とこれまた血も涙もない考えに至るゼウスの心中にハデスが声掛ける。
<あくまで全責任はお前にある。ところで、被害状況を確認したい>
精神の声は内なる意志が半ば漏れがちであるのが残念なところだ。近くに浮かんでいた分厚い雲にだらしなくもたれ掛かりながらゼウスは不貞腐れた。
ハデスはやはり動じなかった。速やかに原状回復を試みるべく、冷徹にゼウスへ事実確認を要求した。
<ここと地上では被害の大きさは同じなのか?>
<あー、たしかこっからここまでーーーーー>
渋々と応じるゼウスの脳は、作戦復帰を図る妙案がまたもや浮かんだのであった。
<ーーーなあ、聞きたいんだけど>