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わんわん泣き喚くニンフたちからこってりと絞られたコレーは、随分と心配させてしまった負い目と無知ゆえの安易な行動を反省し、今後勝手にどこぞへ向かわぬことを誓ったーーー
「ーーーハデスに、会いたいわ……」
「コレー様!?」
間も無く数日後。ぽつりと呟くコレーに、ニンフたちは揃って眉を吊り上げた。
「まさか、また直接お会いになられるおつもりではございませんわよね!?」
「せめてデメテル様に許可を頂いてからにしませんと!」
ニンフたちははじめコレーの恋路を応援していた。しかし先の抜け出し騒動ーーーうまいことデメテルには隠し通せたーーーーに肝を潰す思いをしたふたりは、どちらかというとデメテルに寄った考えに偏りつつあった。
「だって、また助けられたのに、お礼も何も言わずじまいだったのよ」
「ハデス様は心の広いお方ですわ。気に留めてなどおりませんことよ」
「迷惑ばかりかけてしまったし、謝らなくっちゃーーー」
「ハデス様はお忙しい方ですのよ。些細なことではお身体が空きませんわ」
コレーの言わんことを重ねて打ち消していくニンフたち。実際彼女らはハデスをよく知るわけではない。勝手ながら彼を見定め、コレーの側にいるに十分なひと柄であると認めてはいた。しかし、後々考えてみれば、地位や住む世界の差があまりに大きく、例え寄り添えたとてコレーが悲しむ機会が多くなる可能性大である。誠勝手ながら、彼の評価をくるりと手のひら変えしたのである。コレーには幸せになってもらいたいのだ。不安要素のある男ではいけない。
言っていることは間違ってはいないのだ。ハデスは冥界の王。すべきことの多さは言うまでもない。真面目な性格と聞くので、きっと仕事ばかりでプライベートなど疎かになるだろう。コレーをほったらかしにしてしまうのでは。冥界と地上ではそもそもが深い溝がある。住む世界が違うのだ。連れ合うにはかなり厳しい。もしかしたら嫁いだままコレーに会えなくなってしまうかもしれない。嫌である。ニンフ達は主に後者の予感を危惧し、やんわりとハデスを諦めさせようと色々言い含めるのであった。
「でも、やっぱり、すきだわ」
ーーーなんて可愛いお方なのかしらーーー
ニンフ達は言葉を止め見入った。ひとりの男をただ純粋に思う少女とはここまで眩しいものなのだろうか。コレーが一言呟いた瞬間、彼女の周囲にはふわりと花々が浮き咲き乱れる。少女漫画の背景効果のような現象が起きていた。そよ風が舞い、彼女の髪を凪ぐ。告白シーンのような見せ場の見開きページの如し。処女神としての清き麗らかさが現象として現れた瞬間である。処女神。それは永遠の乙女の意。事象を変する目立った能力ではないものの、存在そのものが象徴とされる彼女は、男女問わずに己の手にしたいと思わせる魅力があった。
「もっと、ハデスのことが知りたいわーーーきゃっ」
「あああコレー様!応援しますわ!きっとハデス様と添い遂げられますよう!」
「私達が知りうる限り、ハデス様について何でもお聞きくださいませ!」
コレー様の恋のお手伝い、是非とも私達が!
「え?え?」
コレーに抱きつきながらニンフ達は我先にと協力を申し出てきた。さっきまでの反対意見は何処へやら。急な意見の変わりようにコレーはついていけずに、しばらく戸惑っていたままだった。




