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ーーーそういえば誰なんだろうか。
ハデスは少女が謎に包まれていることに思い至った。
思考を巡らせる。
少女は真上から落ちてきた。真上というと、デメテルの園である。
ーーーデメテルの園は彼女と少しとニンフ達だけだったはずだが………そういえば、
「コレーか?」
「!どうして知っているの?」
今事件の戦犯ゼウスの聞くに値しない話の中に、デメテルの愛娘がどうとか言っていたことを思い出す。デメテルの寵愛が如何に深いものであるか愚痴をこぼしていたな。
ハデスはふと自分の置かれた状況を整理する。
ゼウスが完全な悪だとして、知らぬまま加担し娘を己の領域に引き込む。と同時に落ちた穴を修復し、デメテルがすぐには助けに迎えられぬ状況を作り出してしまう。娘は涙の跡が頬にあるのが見て取れ、現在熱があるらしく顔が赤く染まっている。
ーーーまずいのでは?
いつの間にかとんでもなく誤解を生んでいることにハデスは気付いたのだった。
血は固まっていた。
「説明しなさい。今すぐに。簡潔に。分かりやすく」
「ぐええ、でしたら首から手をどけてください、ごめんなさい!」
女の細腕とは思えない力。農墾を司る女神は重い農機具も何なく扱う。しつこいようだが不死である神は死なない。それが現在苦しみとなって手痛いリスクを背負う羽目になっているのかもしれない。ゼウスの自業自得だが。
「うちの娘に手を出せないからって、腹いせ?最低だわ」
「いやいや手を出せないのは残念だけど、危害を加えるつもりは全くないの、いや本当に!」
「だったらうちの娘をどこへやったの!!」
「いやあ俺は図っただけなんで!ハデスさんがコレーちゃんを連れてしっぽりヌキヌキやってるかは分かんないです!」
「〜〜〜っ!ハデスがっ、どうして………!!」
ゼウスの首を握りつぶさんばかりの両手は、行き場を失いだらりとぶら下がった。見たこともないほど取り乱すデメテルにどう声をかけていいかわからず、言葉に詰まるゼウスは紛らわすようにがしがし頭を掻いた。
………つーかハデスまじでヤッちゃってる?
落とし穴を塞ぐことからはゼウスの想定外であった。その上、すぐにこちらに連絡をしてくると思っていたのだがハデスから連絡が来ない。彼の性格からはありえない事態に、ゼウスは自分のやらかしのでかさに珍しく冷や汗を垂らすのであった。
「ねえ、あなたのお名前はなんて言うの?」
「ハデスだ。冥界を統治してる」
「めいかい?どんな世界なの、知りたいわ!」
地上が大わらわとは知る由もなく、ハデスは次々と投げかけるコレーの質問に一つ一つ答えてやっていた。




