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親愛なるきみに

作者: 月乃 綾

 私には、よく泣く親友がいる。

 本当に、何をしても泣く。

 物語を読んで泣き、迷子になって泣き、ケンカして泣き、仲直りして泣く。

 いつでも泣いている。

 この前なんて、私の冗談を真に受けてショックで泣いていた。

 親友のことは当然好きだけど、冗談が通じないところはちょっとだけ……そう、本当にちょっとだけ、好きじゃない。


 対して私はほとんど泣かない。

 前に泣いたのはいつだっただろうか。

 ……そうだ、大学受験の時だった。

 いや、あの時のことははっきり覚えているから、わざわざ思い出そうとなんてしなくても分かってる。そう、ただ、泣いたなんて事実は消し去ってしまいたいとか思ってるだけだ。

 何せ、理由が理由だ。

 プレッシャーに負けた。それだけ。

 ね、消し去ってしまいたいと思うでしょう。

 ……え、泣くくらい普通?

 いやいや、私にとっては珍しいんだよ。

 まあとにかく、こういったことを誰かに伝えるのは、私にとっては恥ずかしいことに当たるわけだ。



 ◇ ◆ ◇



 何で突然こんなことを言い出したかって?

 そりゃきみが私の隣で泣いてるからだよ。今も。

 それはいつものこと。

 だけど、涙の理由がいつもと違った。

 ついでに様子も。いつもよりも三割り増しくらいで挙動不審。


 ……あ、こら、叩くなこのやろう。挙動不審なのは本当なんだから仕方ない、って痛い痛い。


 まったく、子どもか。

 これで同い年とかあり得ないし。

 外見もロリ入ってるし……ってだから叩くなよ。結構痛いんだからね?

 あーもう、話が進まない。ああ、はいはい、悪いのは私だから。それでいいから。分かってるよ。


 で、泣いてた理由。

 これが言いたいわけよ。

 何で泣いてたかって、私のせいらしいんだよね。

 まあぶっちゃけ知るかって感じなんだけどさ。

 私が来月から留学することにしたら、離れるのが寂しいんだとか。

 子どもかよ、って思っちゃったよ。


 ん、私は寂しくないのかって?

 まあねぇ……寂しくない、なんていったら嘘になるかな。

 けど、長期留学とか言ってもせいぜい二年。私はほら、優秀だからさ、一年半くらいで終わるよきっと。

 しかも今時、外国とかかなり近い。

 地球の裏側だって、飛行機で一日もあれば十分。ネットがあればリアルタイムで会話もできる。

 ほら、寂しがるとこじゃないでしょう。


 まあ、そんな単純なことじゃないってのも分かるよ。実際に会えないっていうのはそりゃ、結構ツライ。

 けれど、私にだって夢はある。

 そのための留学なんだから。

 親友の門出くらい、応援して欲しいかな。


 だから止めない、って、うん。ありがたいしあなたにしては珍しいけど、泣かれたら困るだけだから。

 あーもう、こっちが悪者みたいじゃない。

 え?

 悲しませてるのが私だから悪者?

 ……こらこら。

 同じ大学選んだ意味が~とか、そんなことで選んだのか。

 それこそ死にかけになるまで努力してたのは知ってるけど、理由が理由だけにちょっと脱力だね。

 嬉しいけどさ。


 だから、泣くなって。

 あなたに泣かれたら、私の決心が揺らぐんだから。

 無愛想?

 そりゃそうしないと、こっちまで泣きたくなるんだもの。仕方ないでしょう。

 こんな時くらいは泣け?

 馬鹿ね。

 今泣いたら、本当にお別れするときはどうするのさ。

 きっと、泣きすぎて、大変なことになっちゃうよ。

 それでもいいよって、こら。

 よくないよ。

 涙なんてものはね、特別なときにちょっと流すくらいでちょうどいいんだよ。

 普段から見せるもんじゃないの。


 ん?

 まあ、あなたはそれでいいんじゃないのかな。

 これは私の考え方でしかない。

 で、そんなだからかな。何考えてるか分からない、ってよく言われるんだ。

 いや気にしてないから。私がなんとも思ってないのになんであなたが怒るの。

 は? 分かりやすい? 私が?

 ……あ、今ちょっと照れた、って本当にバレてんのね……。

 敵わないわ、ホント。


 まあ、あなたが私のことを理解しているっていうのは分かったよ。

 たぶんだけど、私より私のことを知ってるよね。

 いや、本気。

 私はあなたのこと、よく泣くってことくらいしか分からないんだけど……って叩くな。

 もう一つあったわ、子どもっぽい。

 ……うん、私が悪かったからそんな目で見るのは止めてくれない?


 まったく。

 性格も外見も成績も運動神経も、何もかも反対だよね、私たち。

 なんで親友になれたのか不思議だよ。

 あ、こら泣くな。

 仲良くなりたくなかったわけじゃないんだから。

 むしろうれしいんだよ?

 あなたと仲良くなれたことは、あの高校に行ってよかったと思える数少ない出来事の一つなんだから。

 私友だち少ないしね。


 え、多い?

 ……ああ、あいつらのことか。

 あれは友だちって言わないよ。

 強いて言うなら……取り巻き? ちょっと違うか。

 所詮、私の外見とか成績とかに近づいてきただけの人たちでしょう。

 実際、大学行ったらもう縁は切れてるからね。

 大学行ったら行ったでそういうやつはいるんだけどさ……。

 鬱陶しいったらありゃしない。


 いや羨ましいって、なんで?

 あんな薄いつながりを……。

 あなたの知り合いが少ないのは、あなたがいつも私にくっついているからでしょうが。

 恥ずかしいって……あの時、私に声をかけてきたのはあなただったじゃない。

 ……ピンと来た、ねえ。

 じゃあ今の大学に、ピンとくる人はいないの?

 ……いないんだ。


 まあいいんだけどさー。

 そんなんで、私が留学した後はどうするのさ?

 本当に一人になっちゃうよ?

 ああこら泣くな、ってこれ何回言えばいいのよ。

 ちょっと話をするだけでこれだもんねぇ……。

 もう少し、上辺だけの付き合いってのに慣れたほうがいいよ。

 人間関係なんて、所詮はそんなものなんだから。

 私とあなたの関係をふつうだとか思っちゃだめだよ。

 普通の関係ってのは、利害の一致で成り立つのよ。

 付き合う価値がないと思ったら人は離れてくんだからね。


 ……バカ。

 私があなたから離れるわけがないでしょうが。

 知らないかもしれないけど、私を助けてくれたのはあなたなんだから。

 ……は? 聞いてない?

 そりゃ言ってないもの。

 本人の前で言うとかどんな羞恥プレイよ。

 とにかく、私はあなたに恩がある。

 それだけ知っておけばいいの。


 ……そう。

 ただ、隣に誰かがいてくれるだけ、救われる人だっているんだから。

 私にとっては、それがあなただったってだけのこと。

 それ以上は知らなくていい。


 私のことはもういいわ。

 それより、私はあなたのことが心配だよ。

 私は向こうでもいつも通りやっていくだけだけど、あなたは私がいなくても大丈夫かな。

 だから泣いてる?

 こら、別れを惜しんでるんじゃなかったのか。

 まったく、仕方ないなあ。

 少しは信頼できる相手もいるから、そいつに頼んどくよ。

 そいつのことは信用してもいいと思うよ。

 ちょっと変わったやつだから、仲良くなれるかはあなた次第だけどね。

 ああ、そんなに怖がらなくてもいいから。

 変わってるけど、悪いやつではないからね。


 まだ一か月あるからさ。

 それまでは私もそばにいられるし、問題ないって。

 その間はできるだけ手助けするからさ。


 ……あーもう、そんな目するな。

 なんだよ、もう。

 別れの日までは泣かないつもりだったのに。

 あなたがそんな顔したら、こっちまで寂しくなってくるじゃない。

 だぁ、泣きながら笑うな、顔をこっち寄せるな、泣き顔押し付けるな。

 ……バカ。

 私まで泣かせるな。


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