共通シナリオ:陰陽師、二年目。恋は突然に、嫉妬、使役。早くも開幕?
「あんたが悪いんでしょ!!」
「ふざけるな!!」
父と母は今日も喧嘩している。
「妖怪…祓う…」
うごめく化物を見掛ければ退治するのは私の役目だ。
隣町にある陰陽屋の所属陰陽師になってもう二年になる。
きっかけは両親が不仲で四六時中喧嘩していて居心地がわるいから。
陰陽師をやっている間、家や学校には式神を置いている。
学校も式神に代わり行かせているから町には帰らない日もある。
「おーがんばってんな八多喜」
「…名代…さん…」
憧れの人が目の前にいる。
とても好きだけど、この人は嘉多娜姫の守り人。
そうでなくとも先輩の陰陽師。
気やすく話しかけられない相手だわ。
「じゃあな」
「…はい」
去る名代さんの背ををじっと見つめる。
「ミヨちゃん」
「…さとし」
ふたつ上の幼馴染みの悟士だ。
「今、誰かと話してた?」
「…別に…」
昔から私の考えを見透かしている気がして苦手だ。
「あ、バイトの時間だからまたね」
悟士はぱたぱた走って去った。
「にゃー」
猫がこちらを横切る。
ただ猫の姿をしているけどこれはアヤカシだと札が警告している。
「化物…祓う…」
「タンマ!!」
札を構えると、降参したのか子供の姿に変わった。
「バケネコ…」
こいつとの出会いは1年前。
自称200才の猫又のオス。
「なあ、明日の学食、特別メニューらしいぜ!」
明日は学校いこう。
式神が学んだ知識は私に入るけど、学食は栄養が入っても私が食べたことにはならない。
そもそも栄養のために食事をしているんじゃない。
食べたいものを食べ、嫌いなものは食べず太く短く生きるがモットーだ。
しかし、父も母も仕事をしていないので家計は苦しい。
そして学校は祖父母の援助。
学んでほしいわけではなく体裁が悪いから、だそうだ。
陰陽師を始めたのは食費のためだったりする。
「ミヨ~オレも学食食べにいく~」
学食代ほしさに甘えてきた。
ゲンキンなやつ。
こっそり窓から自室に入る。
ダンボールの箱が置いてあった。
部屋にはカギをかけてあるから両親は運んでいない。
なら陰陽屋が置いていったのだろう。
ガムテープをはがし、開いてみると、ただのマッチとスタンダードなものよりは太めで怪談話ではポピュラーともいえるタイプの蝋燭が入っていた。
丑の刻参りでもやれといいたいのか、しかし藁人形はない。
同封されていた手紙には蝋燭に火をつけろと書いてある。
火事にならないよう川辺に移動し、マッチを擦って火を灯した。
火が手に近づいて、思わず蝋燭を投げ落としてしまう。
燃え盛る灼熱の焔から男が姿を表した。
「だれ…」
「始めまして、オクリビだよ」
火…夏なのに更に暑くなるので近づかないでもらいたい。
「明後日頭領が報告があるから陰陽衆所に戻れってさ」
「…それ…だけ…?」
報告なら式神を遣いに出せばすむのになぜ妖式を送り込まれたのだろう。
「俺は今日から君の式になるらしい」
「…わかった…」
どちらにせよ明後日会うのだから、式神を遣いに出さなかったのかと‘ふ’におちた。
とにかく明日の学食に備えて早く寝よう。
登校中、僧侶なのか俳人かよくわからない変なやつが門の付近にいた。
「お前さんが八多喜ミヨだな」
「俺は写経を生業としてる。しがない経師だ」
「…同業?」
陰陽師が別の仕事で都心部に溶け込んでいるのは珍しくない。
「陰陽師ではないが、霊を沈めたりはする」
なんだ僧侶か。
「若い刀姫サンが目覚めたらしくてな、近い未来に派閥を巻き込んだ対戦がおきるやもしれねぇ」
傘を外した僧侶は、乱雑な髪と無精髭を生やしている。
「生臭坊主…」
「年をとればだれでも坊主になんだ
今髪を刈ったってしゃあねえだろ」
屁理屈だが間違ってはいない。
「珍しいな、若い娘が陰陽師になるなんてのは」
「…新聞配達より…マシだから…」
口下手なせいで近所のバイトの面接にすべて落ちたし。
「お前さん、入らねーのか?」
「学食の時間になったらね」
私は式を教室の方向に飛ばす。
「式神か、陰陽師ってのは便利だな」
「…僧侶はどうやって…」
「あ?霊を沈める方法?写経紙を霊にぶん投げるだけだ」
「そう…」
「おはよう」
「…おはよう」
挨拶されて返したが、あれは…伊都蔵勇志、2つ上の先輩だ。
身体が弱いとかで二回ほど留年して、ここに転校してきたらしい。
文武両道、顔も人柄も家柄もよく、学園では有名人だ。
特に女子から人気があるらしい。
それが式神が私の代わりに作ったコミュニティとかいうやつで獲た情報である。
暇を潰そうと裏庭を歩く。
姿を見られないよう結界をはって。
見覚えのある後ろ姿を見かけたので、近くにいくことにした。
私に言えた義理ではないが、やつは授業をサボり、こんなところでなにをしているんだ。
「ったくやってらんねー」
伊都蔵が煙草をふかしている。
あの完璧超人が不良!?
見つかったらまずい…だが結界をはっているんだ見つかるわけない。
「何が『伊都蔵くぅん~優しいねぇ~』だよバーカ!」
鼻が…まずい…くしゃみがでそう。
「はっ…ばぁ…ヴェルザンディ!」
「君は!?」
「…」
伊都蔵は煙草を背に隠す。
「やあ、八多喜さん奇遇だねこんなところで一体なにを?僕?僕はね気分がすぐれなくて少し休憩して保健室にいこうとしていたんだ!!」
聞いていない必死の言い訳をされても、全部お見通しなのだが。
「もしかして…スパスパっとしたものを見てた?」
「煙草をふかしていましたね」
「あははは…そうかよ~ならオマエにはキャラ作らねーわ」
とてつもなく豹変したなあ。
「つーかお前、なんでここにいんの?サボり?」
見てわかるだろう。
「まあいいや、じゃあな」
ぽかりと呆気にとられつつ、体育館裏に移動した。
先程のくしゃみが結界を破壊したから見つかったのかとおもい、結界を張り直そうとしたが、まったく解除されていない。
まあいいか、学食の時間まで木に登って眠ろう。
学食の時間ぴったりに式神は帰還し、私は食堂でスペシャルメニューを味わえた。
向こうでバケネコが扮した学生がスペシャルメニューを食べているが互いに他人のフリをした。
明日は陰陽衆の集まりにいくのか、気が重い。
早朝、私は陰陽師の集場に向かって走っていた。
「待て…妖怪…」
アヤカシを見つけたので札を構える。
「なんて可愛らしいんでしょうか…」
人間と擦れ違った気もしたけど、無視しておこう。
私がたどり着くと、すでに名代さん、秋次さん、伊都蔵先輩、顔見知り程度の陰陽師、テンヤクリョウの甲賀医師が既に皆集まっていた。
「ああ、もう皆集まっていたのか」
頭領が気だるげに長い髪を揺らし、私たちの前に現れた。
「質問があれば聞いていいよ」
「…どうして…伊都蔵先輩が…」
ナチュラルに溶け込んでいるのだろう。
「はは、決まってるじゃないか、彼は私の甥なんだが、新たに陰陽師になるらしいから…さ」
興味なさげに、あくびを噛み殺す。
まるで平安貴族をそのまま現代に連れてきたかのようである。
「取り合えず鬼が復活するのも近い」
「頭領、話が飛躍しています」
「ああ、悪いね変わりに説明しておいてくれ名代、秋次」
すべてを丸投げして頭領は部屋に隠った。
「まず大昔、一人の陰陽師が罪を犯したことで、悪しき刀が生じ、今の世になおその怨念は残っている」
人間の感情は、喜びも悲しみも憎しみも怒りも、そんなに持続するものじゃない。
もはやその怨念は事切れたときすでに人間ではないのだろう。
「最近その悪しき刀を意のままに操る刀姫が隣町で見つかったのは聞いているな」
刀姫、その歴史は少なく、初めは古の陰陽師のいた時代、そしていま現代の二度目だけ現れた不確定要素。
「見つかったのはほんの数日前の話だが、現在は古の刀姫の生まれ変わりとされている」
「我々が二人で監視をしているが、呉々も興味本意で隣町に赴き、その姿を気取られぬ用に」
彼女はこことは違う場所にいる。
てっきり名代さんは常に側に刀姫を置いているのかと思っていた。
「あー最悪」
もはや名代さんや秋次さんの前で、猫を被らずに煙草を吸う先輩。
「おい未成年、煙草を吸うな!」
「もう二十歳越えてるんでー」
イラつきながら煙を名代さんに吹き掛ける。
名代さんと先輩は一触即発の危ない状況だ。
「二人とも、お静かに」
秋次さんの投げた筆が鋭利な刃物のように二人をすり抜けて向こうの壁に刺さった。
私は鬼や怨霊より怖い人間を目の当たりにして、そそくさと逃げた。
「名代、彼女のところに行かなくて良いのですか?」
彼女、それは刀姫のことだろう。
「俺、アイツ苦手なんだよな」
「射花さんのほうはそうではないようですよ…羨ましい」
「平屋がタイプなのか!?お前、趣味悪いな」
刀姫は呪詛された剣を意のままに代償無く操れるとにかくすごい存在らしい。
彼女ことは名代さんや秋次さんが監視している。
ヒラヤイリカ、どんな人だろう。
名代さん、口ではああいっているけどきっと彼女に好意を抱きかけている気がする。
陰陽の次期頭領と噂されているほどの名代さんが冷静でなく、頭領の右腕とされる秋次さんが好意を持つくらいだ。
だからとてもすごいんだろう。
羨ましい。何の努力もしないで、伝説の刀を扱えて、皆から注目されて。
刀姫、見てみたいけど会いたくない。
会ったら確実に嫌いになってしまうから。
伊津蔵先輩がうろうろしている。
「やばいライター切れた誰か、火持ってない?」
私は送り火を喚び出した。
「お、丁度いいところに火があった」
「なにしてんの?冥界に送るよ?」
集会も終わって、私は家に帰ることにした。
妖もおらず何事もなく帰れと思いきや、雪女のような男と眼帯の男がいつの間にか目の前にいた。
「僕は男雪、こいつは一目」
「物騒な物はしまってくれ
お前に危害を加えようとはしていない」
そう言って、一目が短刀を私に投げた。
それは後ろにいる男に宛てられたものであった。
頭領が投げられたものを素手で掴んでいる。
「無駄、こんなものでは死なないよ」
確実に刃を掴んでいるのに手から、血も流れない。
「ちっ噂に違わぬ化け物だな」
男雪が舌打ちをする。
「君らは何がしたいのかな?」
煙管を吹かした典薬寮の医者、来島甲雅は、面倒そうに間に入る。
「我々は陰陽師との協力を考えている」
「我々っても君らポッと出の二人組みじゃない」
来島の言うことに、頭領は笑っている。
彼等は雪男とヒトツメコゾウ、たしかに雑魚そうな妖怪だ。
「大体なんで協力なんか…」
「我々は目的があるわけではないが、貴様等に消されたくはない」
「はあ~だから、協力する代わりに見逃せっての?」
来島が意外とベラベラ話してくれるので、私や頭領は黙ってそれを見ている。
「いいよ」
頭領は二名の妖を仲間にした。
「いいの?」
「ただし、条件がある」
頭領は、2名に仲間になるなら私の式神になれと、言った。
一目は素直に応じる。
「僕は遠慮しておく、そいつ暗そうだから、別の子にしてくれない?」
「構わないが…」
男雪は別の陰陽師を探しにいった。
失礼なやつである。
「まあいいや、君も帰りな」
「…はい」
私は素直に帰宅することにした。
一目は自分の意思で使役したわけじゃないし正直どうでもいい。
どうせ頭領との条約で封印できないのだから、野放しにしておく。
「主」
ついさっき契約しただけで、もうそんな呼び方をされるとは、不意を突かれたわ。
「…なに…?」
「何か望みはあるか」
誰であっても話すのが面倒だ。
「………ない」
「では、なにをすればいい」
しばらくこんな会話が続いた。
わざとトロく話して、会話を終わらせようとしているのに、諦めずにいつまでも話しかけてくる。
妖のクセに、根性があるものだと、感心した。
というか私なんのために妖怪と契約したんだっけ。
まあどうでもいいか。
いつも通り命令があったら行動するってことで。
今日は早く家に帰ろうと思う。
家の中から妖の気配がする。
どうして、こんなに、強いのが――――!?
両親はどうしたのだろう。
「アナタトムスメサエイナケレバ」
母が、父に包丁を向けている。
妖怪の気にあてられてしまったようだ。
浄化のために札をあたりに張る。
もちろん両親に見られないように、遠くからだ。
「ジャマスルナ」
現れた妖はただの肉の固まりのようにドロリとしてグロテスクな生き物。
私はこんなに醜い化け物をはじめてみた。
「…今まで二人が不仲だったのは、おまえのせいなの?」
「ソウダ」
つまり、こいつは今まで家にいたのに、私は少しも気がつかなかったということに…。
鈍感な自分に腹がたつ。
「祓うから」
式札をとりだして、家を破壊しないように結界を強める。
こいつを外に出せればいいのだが、そんな暇はなかった。
「瑪喪離異禍唖奴死濡前似出李多陰滅」
「ぐああああああああああ」
ふう、あっさり倒した。
翌日、両親は普通になった。
普通に三人で食卓をかこめて、母が笑顔で、父も仕事にいくようになった。
もうこれ、早くもハッピーエンドじゃない?
と、安心したのだが―――――
「とうとう夢幻の紫が復活したようだ」
誰だよ――――そいつ――――?
“ムロシノユカリ”は何千年前に陰陽師とゴタゴタがあって封印されたという怨念。
そいつが最近になって目を覚ましそうになっているらしい。
「あーやだなーせっかく足抜けできると思ってたのに」
「……まるで危ない組織みたいな言い方、やめてくれないかな?」
げっ。頭領。相変わらず若作りだなあ。
「ふー」
「はー」
「すー」
普通の煙草、ハマキ、キセル。頭領と先輩と医者がそろって喫煙をはじめた。最悪なスメルだ。
「……じゃあ……私は……パトロールに……いってきます……」
「はやくいけ」
町の探索に来たはいいが――
■伴う式札を選ぼう。
【バケネコ】
【おくりび】
【一目】