えおー◆生き汚い、それが人間
狼。
・・・・・なのかは分からない。
早紀よりも身体が大きく、二メートルはあるだろう大きな身体は、今は前脚に顎を乗せて、ゆったりと寛いだ姿勢で丸くなり、揺れるしっぽ。
知性を感じさせる目はじっとこちらを見ている。
面倒くさそうに。
もう二時間程、そうして人と獣は見つめ合っていた。
バクバクと心臓がうるさい。
汗が尋常じゃなくでてくる。
呆然と混乱した頭が、先程までの女生徒の言葉を蘇らせる。
『貴女が私に殺される事になるって神様が仰ったの!!』
クラスで孤立した、頭が可笑しく妄想癖があると評判の女生徒の言葉に、
早紀は教室に誰も居ない事もあり鼻で笑って背をむけ、教室の扉に向かった。
ガツンと女生徒に椅子で殴られ、気が付けばここに居たのだ。
気絶してしまいたいと思った。
あんな大きな狼に似た獣、見た事がない。
食い殺されたくなど、ない!
けれど動けば注意を引いてしまうのではないかと動くに動けない。
「お前のような小娘、食うなど我の腹がどうにかなるわ」
え?と思った。
「今・・・・しゃ」
「べったぞ。我が」
早紀はこの時初めて、人生で気絶というものをした
「これだから人間は柔なのだ。」
気絶した少女の制服の襟をくわえ、狼の姿だが魔王と呼ばれる彼は
目が覚めたら口の牙を見せて驚かしてやろうと、
意地の悪い事を考えながら彼の寝床である洞窟に少女を連れて帰った。