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足まで銃にしたい聖女と、あれこれ背負わされそうな勇者

作者: 茶電子素
掲載日:2026/07/18

「……ちょっと待てって。一回整理させてくれ。お前、それ本気で言ってんのか?」


勇者のカイルは、

私の輝くばかりの両腕を指差して

今にも泡を吹いて倒れそうな顔をしていた。


私は、左右の二の腕から先が

神聖な光沢を放つ無骨な金属の円筒に置き換わっている。

所謂いわゆるサイコガンだ。

魂のエネルギーを物理的な破壊力に変換してぶっ放す、

聖女の務めを果たすための最適解ファイナルアンサー


「本気も本気、超本気よ。足も、いっちゃおうかなって。だって二足歩行とか古くない?」


私は、大理石の床に転がっていた空のポーション瓶を、

両腕の銃口――

指がないから『指先』とは呼べないな。

こいつで掴もうとして失敗した。

瓶は虚しく粉々に砕け散った。

あ、これ、あとで掃除するの私じゃん。最悪。


「『いっちゃおうかな』じゃない! 聖女セレナ、自分が何言ってるか分かってんのか? 足までそれ(サイコガン)にしたら、移動はどうすんだよ! 膝から下が銃なんだぞ? 垂直跳びで移動するのか? 浮遊魔法使えるのか?」


「あんたがやんだよ」


食い気味に、

一番合理的な解決策を提示してやった。

カイルは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたと思ったら、

今度は顔中の血管が浮き出るくらい真っ赤になった。

ていうか、

こいつさっきから声がデカすぎる。耳が痛い。

聖堂の反響を考えろっての。


「俺が……背負うのか? ずっと?」


「そう。戦場でも、街中でも、お城の謁見の間でも。あんた体力だけは自慢でしょ。私の体重なんて、あんたがいつも振り回してるそのバカでかい聖剣より軽いでしょ多分。まあ、最近ちょっとお腹周りが怪しい気もするけど……。昨日食べた揚げパン、あれ何個だっけ。三つ? 四つだったかな。いや、五つか。そういう間食のせいかな。なんか最近、法衣の脇がキツいんだよね」


思考が揚げパンのカロリーに脱線しかけた私の頭を、

カイルの叫びが現実へと引き戻した。


「重さの問題じゃない! 一歩も歩けない固定砲台を、勇者と聖女が合体して運搬する姿がどれだけマヌケか想像してみろよ! 魔王だって『えっ、そんな感じで来るの?』って引くわ!」


「引かせておけばいいじゃない。隙ができるでしょ」


「隙だらけなのはこっちだ! 大体、足まで変えたら……その……」


カイルが急に口をもごもごさせ始めた。

何、急に。

Re:思春期?


「背負ったら……お、オッパイの感触とか、全部わかっちゃうんだぞ! 直で! 密着するんだから!」


……。

………。

…………は?


一瞬、思考が真っ白になった。

というか、時が止まった。

聖堂の天井に描かれた、

名もなき天使たちの壁画が妙に生々しく目に入ってくる。


(あ!あの左から二番目の天使、ちょっと鼻の形が不細工だな。誰が描いたんだろ?)


そんな場合じゃない。

感触。密着。

私の、この、今まさに絶賛成長中の(だと思いたい)胸がカイルの背中に。


「…………」


いや、待て。

今までだって、崖を登る時とか、

私が魔力切れでぶっ倒れた時とか、

何度か背負われたことはあった。


でも、その時は

『運搬物』としての意識しかなかった。

それが、こいつの口から

『感触』なんて言葉が出た途端、顔面が沸騰した。


「あんた、そんなこと考えて私を背負ってたの!? 変態! 勇者の皮を被った性欲魔人!」


「違っ、違う! たとえ話だろ! お前が無茶苦茶な改造手術カスタマイズをしようとするから、それを止めるための、その――極論だ!」


「極論にしても生々しいんだよ! 謝れ! 死んで詫びろ! 魂を弾丸にしてぶっ放してやる!」


私は思わず右腕を構えた。

カイルの眉間を正確に狙う。

ガシャリと、

精神エネルギーが収束する独特の音が響く。

でも、肝心の『腕』に力が入らない。

意識しすぎて肩が震える。


「解せぬ……」


私は絞り出すように言った。

何が解せないのか、自分でもよく分からない。

両足をサイコガンにしたいという純粋な向上心を、

こんな低俗な理由で阻止されようとしていることか。

それとも、

そんな指摘一つで動揺してしまった

自分の乙女な部分にか。


「解せぬのはこっちだ! セレナ、いいか。お前は聖女なんだ。神の奇跡を代行して、傷ついた人を癒やすのが本来の仕事だ。両腕からプラズマ弾乱射するのを『聖なる光による浄化』だって言い張ってるけど、足まで変えたらもうただの『人型兵器』だろ。それってもう奇跡じゃなくて、ただの物理じゃないか!」


「物理は裏切らないもの。精神論で戦うよりずっと確実よ」


「その確実性と引き換えに、お前は自分でお尻を拭く権利を放棄しようとしてるんだぞ。分かってんのか。くだんの揚げパンのあとのトイレ、どうしたんだよ」


「……」


痛いところを突かれた。

そう、今の私には『指』がない。

肘のスイッチを押せば、

義手モードに切り替わる特注品だが、反応が鈍い時がある。

特に、細かい作業……

そう、トイレットペーパーを適量巻き取って、

絶妙な角度で――。


「……言わせないでよ。勇者のくせにデリカシーがないんだから……もういい、足のサイコガン化は一時保留にする! でも、あくまで保留だから。カイルがもっと頼りないと証明されて、私の火力が一兆倍くらい必要になったら、その時は迷わず膝下を切り落とすからね」


「一兆倍も必要なら、もう世界滅んでるよ……」


カイルが深いため息をつくと、

その背中は少し小さく見えた。

私は、まだ熱を持ったままの頬を隠すように

無骨な金属の腕で顔を覆おうとして

「あ、冷た」と独り言を漏らした。


結局、その日の夕食もスプーンを持つのが面倒になった私は、

カイルに「あーん」をさせた。


「なんで俺がこんなことを」

と文句を言いながらも、

彼は丁寧にシチューの具材を選んで

口に運んでくれる。


「熱い。もっとフーフーして」


「お前、さっきまでの威勢はどうしたんだよ」


「今は非戦闘時。私は、か弱い聖女。ほら、早く」


もし、本当に足をサイコガンにしたら。

四六時中、

こいつの背中にくっついていることになる。

歩くたびに、私の胸がこいつの背中に当たって。

こいつの体温が、

足の金属パーツを通して伝わってきて――。


「……やっぱり、足もサイコガンにする」


「はあ!? さっき諦めたばっかりだろ!」


「うるさい。気が変わったの。カイルの背中、三脚として使い勝手が良さそうだし」


「三脚扱いかよ!」


シチューの中に沈んでいた人参を噛み締めながら

私は思う。

この世界を救うために必要なのは、

きっと強い信仰心でも、聖剣の力でもない。

「解せぬ」と思いながらも、

結局は私を背負って歩き続ける、

このバカな男の頑丈な背中なんだろうな、と。


でも、やっぱりお尻を拭いてもらうのは嫌だな。

そこだけは、どうにかしたい。

じゃあ、自動洗浄魔法も同時に開発するべきなのか?

それなら、いっそのこと魔導回路を尻に埋め込めば……。


「セレナ。今、またろくでもないこと考えてるだろ」


「……考えてない。シチューのおかわり、早く取ってきて」


私は、金属の腕をガチャガチャ鳴らしながら、

顔を背けた。

夕暮れの聖堂に、カイルの罵声と、

私の笑い声が、少しだけ不器用に響いていた。




ポイント・リアクション・感想等いただけると嬉しいです。

よろしくお願いいたします(^^)

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