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体育祭と会長争奪戦

生徒会長になって一週間。

俺、真中カナメは、職務の多さに押し潰されかけていた。


 


「……いや、誰だよ週7イベント開催案とか通したやつ」


 


「お前だよ」


 


即答したのは、東雲アイリ。

彼女は隣で資料を整理しながら、そっとため息をついた。


 


「確かに議事録には、なんでも協力するって記録が残ってたわ。多分、あの時のなんでもがここに反映されてる」


 


「発言の扱いが重すぎんだろこの学校……」


 



 


放課後、生徒会室にて。

机を囲むのは、いつもの面々――ユリ、アイリ、モモ、ミサキ、レン、そして風間ダイチ(なぜか居る)


 


「さて、議題だ!」

ダイチが身を乗り出して叫ぶ。


 


「体育祭! いよいよ来週に迫ってきたぞ! 今回のテーマは――!」


 


バン、と黒板に貼られる一枚のプリント。



【テーマ:「伝説の会長争奪戦!」】

 


「ふざけんなダイチ!!!」


 


「ふざけてない! これは伝統だ!」


 


「どこの世界にそんな伝統があるんだよ!」


 



 


風間ダイチ、説明によると――

かつてこの学園には「生徒会長は学園の象徴、ゆえに体育祭で、奪い合うべし」という伝説があったらしい(真偽不明)


 


で、その「象徴」=俺。

俺をめぐって、なぜかヒロイン陣がチームを組んで競う体育祭が決まってしまった。


 


「つまり、優勝したチームには、会長と1日デート権が授与されるわけだ!」


「それ生徒会長に対する人権なさすぎない!?」


 



 


「ということで――エントリーチームを発表します!」


 


ダイチが再び黒板にチョークを走らせる。


 


チームユリ(剣技部+帰宅部)

チームアイリ(生徒会+化学部)

チームモモ(演劇部+非公認ラブコメ研究会)

チームミサキ(図書委員会+設定重視派)

チームレン(黒瀬ファンクラブ全員)



 


「いや、なんで俺以外にファンクラブあるんだよレン……」


 


「愛されは力だ。羨ましいか?」


 


「ちょっと羨ましい……けど今は置いといて」


 



 


そして何よりの問題は――

どのチームも、俺を本気で奪いにくる気満々だということ。


 


「カナメ。私は勝つわ」


「私が勝ったら、専属副会長になってもらうから」


「デートって、リアルイベントだよね? 楽しみ〜」


「ルール上、勝者は全デートの記録管理もするから」


「俺は勝つ。そしてお前を俺色に染め上げる」


 


「……頼むから俺の意志も考慮してくれ……!」


 



 


そして当日を迎える――かと思いきや。


 


「なぁカナメ」

レンが帰り際、声をかけてきた。


 


「なんだよ、もう始まる前から負けフラグ立てるのやめてくれよ」


 


「違う。これ、あくまで学園イベントだ。でもな、恋愛は戦争だ」


 


「いや、どっちも戦ってるのやだなぁ……」


 


レンはポケットから取り出した何かを俺に渡してくる。


 


それは、一通のラブレターだった。


 


「読まなくていい。捨てても構わない……でもな、これが、俺の本気だ」


 


言い捨てて、彼は校門をくぐっていった。


 



 


翌朝。

体育祭の会場となるグラウンドには、巨大な看板が掲げられていた。



『生徒会長争奪戦、ついに開幕!』


 


俺の平穏な日々なんて、もうどこにもなかった。


 


そして放送が流れる。


 


「皆さーん! 本日の目玉種目、リアルカナメ争奪リレーは午後の部です!」


 


「……名前のインパクトが強すぎる!」


 


 


でも――

なぜだろう。胸の奥が、少しだけ高鳴っていた。


 


きっと俺は、このめちゃくちゃな日常が、

――ちょっとだけ、嫌いじゃなかったのかもしれない。


 


午後一番、体育祭の目玉種目――


『リアルカナメ争奪リレー』


がいよいよ開幕した。


 


実況はもちろん、風間ダイチ。

解説席には、なぜか白玉モモが座っていた。


 


「えー、皆さんこんにちは! 実況のダイチです! 本日最後の大一番、いよいよ始まります!」


「解説は私、白玉モモがお送りします。テンションは低め、茶化しは多めでお届けします」


 


(茶化すの宣言すな)


 



 


ルールはシンプル。

バトン代わりに、俺の似顔絵つきぬいぐるみを持ってリレーし、最終走者が俺の待つゴール地点に到達し、抱きついたチームが勝利。


 


「なんでぬいぐるみなの……」


「実物を走らせるのは倫理的にアウトだって、生徒会で決めたじゃん」


「つまり、俺に人権はあるけど、限界まで軽視されてるんだな……」


 



 


スターターのピストルが鳴る!


「位置について――よーい、ドン!」


 


まず先頭を切ったのは、チームユリの剣技部エース・斎藤さん。

竹刀を背負って走る姿はまるで、剣士が市街地で迷子になったシーン。


 


続くのは、チームアイリの生徒会会計・西園寺さん。

足元の計算能力は抜群だが、走力は一般人レベル……!


 


「チームモモの演劇部は、スタート直後からミュージカル風ランを始めましたね」


「歌いながら走るな!! リズムに乗って遅れてるんだよ!!」


 


「ちなみにチームレンのファンクラブは全員おそろいのTシャツです」


「黒瀬様命って書いてある! 引くわ!」


 



 


2周目、走者交代。

ここからヒロイン陣が順に登場し始める。


 


「おっとここでチームミサキ、図書委員の筆頭・古河さんが登場。腕にバインダーをつけたまま走っているぅ!」


「設定守ってます感が強いですねぇ」


 


そして第3走者。

満を持して、ヒロインたちが本格参戦。


 


「チームユリ、ここで勇者の剣こと聖城ユリが登場だぁぁあ!!」


「振りかぶるな振りかぶるなああ!! リレー棒じゃなくて竹刀持ってるよこの人!!」


 


ユリはまっすぐにゴール地点――つまり俺――を見つめながら、爆速でグラウンドを駆け抜ける。


 


(えっ、今ちょっと光速だった気が)


 


 


チームアイリも負けていない。

第3走者として走るアイリは、冷静な戦略を取りながら、他チームの隙間を縫って前へ出る。


 


「加速ポイントはここ。バトン交換エリアを最短距離で抜けるルートは……!」


 


(お、おい、何で地面にチョークの目印が書いてあるんだ?)


 


「事前に演習済みよ。カナメとのデートは、論理的に導き出すもの……!」


 



 


チームモモの走者は――本人、白玉モモ。

なぜか実況席からテレポートしたように登場した。


 


「ここでまさかの実況本人が走るという荒業!」

「実況の仕事、投げ捨てました」


 


彼女は、バトン(俺ぬい)を片手に、スキップしながら前方の走者に話しかけている。


 


「ねぇ、勝ったらどうする? キス? お姫様抱っこ? それともラストエピソード直行?」


 


「うるせぇぇぇ!」


 



 


そして第4走者、アンカーは――


 


・チームユリ:本人

・チームアイリ:本人

・チームモモ:実況に戻ったので、演劇部部長

・チームミサキ:本人(ノート片手)

・チームレン:本人(ジャージが金色)


 


「さあ、ついに来ましたラストラン!! 各チームの代表者たちが、今――!」


 


「――走らねえ!!?」


 


グラウンドの中央、なぜか全員が小競り合いを始めた。


 


ユリ vs アイリ

「抜かせない!」

「むしろ抜く!」


 


ミサキ vs レン

「記録より記憶だろ?」

「いや私はルール守る派!」


 


「このままだと時間内に誰もゴールしない可能性がありますね」


「この種目、ラブコメとしては満点だけど、体育祭としては赤点だろ……」


 



 


そのとき、モモがマイクを握った。


 


「みんな、そろそろ決めようよー! 誰がカナメと一緒に帰るのかってこと!」


 


「え、まさか、まさか――」


 


「はい、突然の最終種目追加! 会長争奪・二人三脚バトルロイヤル!」


 


「どんどん意味わかんなくなってるぞ!!」


 



 


夕陽の差すグラウンドで、ヒロインたちは再び走り出す。

今度は、俺と組む二人三脚の相手を決めるために――


 


「覚悟して、カナメ。私と一緒に、完走するわよ」


「待ちなさい、そいつは私の役目」


「こーゆーのはノリと勢い! ストーリーが爆発しそうで楽しいじゃん!」


「……私は、物語の結末を、見届けたいだけ」


「カナメ。最終決戦だ。逃げるなよ?」


 


もう、どこまでがイベントで、どこからが本気なのか――


いや、多分――全部、本気なんだ。


 


そして俺は、覚悟を決めた。


 


日も傾きはじめ、グラウンドはオレンジ色に染まっていた。


いまここに――

カナメ争奪・二人三脚バトルロイヤルが開幕する。


 


「よーい――」

ダイチの声が鳴ると同時に、


「「「「「カナメ!!!!!」」」」」


 


全ヒロインが一斉に俺のもとへ殺到してきた。


 


「ぎゃあああああああ!!!?」


 



 


※競技の流れ


ヒロインがカナメを確保(腕を掴む)

カナメとヒロインで即・二人三脚結成

校庭の周回トラックを一周、ゴールに先にたどり着いたペアが「勝者」



 


問題は――

カナメが1人しかいないのに、5人全員が本気で取りに来るという点である。


 



 


最初に俺の腕をつかんだのはユリだった。


「確保、完了。逃がさないから」


 


「物騒な台詞を言いながらニコリとするのやめろ……!」


 


そのまま強引に俺の足にロープを巻き、走り出そうとする。


が――


「待ちなさい、それは不正よ!」


横からアイリが飛び込んでくる。


 


「こっちにはロープの正式申請書があるんだから!」


「ルールに則っても押しの強さで負けてるよ!?」


 



 


「ふふふ、こういうときはカナメ分身よ!」


 


どこからか現れたモモが、等身大のカナメダミーを3体ほど抱えて走り出す。


「うわああああ混乱戦になったああああ!!」


「さて、どれが本物でどれが偽物でしょう~!?」


「全部違うに決まってんだろ!!」


 



 


ミサキは、マイペースに俺の前で立ち止まり、ノートを見ながら告げる。


 


「この展開、予定にはなかった。でも、ならば――即興で書き換えればいい」


 


彼女はノートにさらさらと一文を加える。


『ミサキとカナメは自然に手を取り合い、二人三脚の準備を始めた』 


「ちょっと待って! 物理世界に干渉し始めたよこの人!!」


「物語の中にいれば可能なことは多いわ。君ももうわかってるはず」


「わかりたくねぇ!!!」


 



 


一方で、レンは校舎の屋上からグラウンドを見下ろし、颯爽とマイクを握る。


「聞け! 黒瀬レン軍団よ! 作戦Bを発動せよ!」


 


すると、ファンクラブの面々が一斉に人間チェーンを組み、俺の周囲に壁を作り始めた。


 


「いやいやいや! それガチで戦術やん!」


「これが――恋という名のいくさだ!」


 



 


そんな混乱の中、突然、アナウンスが入る。


 


「えー、本部より緊急通達。本競技、あまりにも混沌としすぎたため――全員でカナメとゴールする形に変更します」


 


「なんだその処理ッ!!?」


 


「二人三脚じゃない、七人三脚になります」


「競技名、変えろよ!? もはや騒乱歩行祭だよ!?」


 



 


そして、俺を中心に、左右からヒロインたちが足を縛りつけていく。


右足にユリ、左足にアイリ。さらにそこへミサキが腕を回し、モモが肩に乗り、レンが後ろから支えるという――もはや何人脚かも不明な構造。


 


「よし、みんな準備は……」

「できるかーッ!!」


 



 


そのまま、7人の謎フォーメーションで走り始めた。


「せーの!」

「いち、に! いち、に!」


 


グラウンドを、バラバラのタイミングで進む謎の行列。

応援席からは歓声と笑い声が沸き起こる。


 


「なんだこの競技!? いや、何だこの物語!?」


 


……でも。


 


そんなめちゃくちゃな展開の中、

ふと、ヒロインたちの表情を見ると――


 


みんな、楽しそうだった。


誰かと競って、誰かと笑って、

めちゃくちゃなことをして、それでもちゃんと本気で。


 


俺の周りには、

こんなに本気でふざけてくれる仲間たちがいるんだな――って、少しだけ感謝した。


 



 


そして、7人脚の混沌チームは、ついにゴールへ。


 


「最後の一歩!!」

「せーの、いちっ!!」


 


――バシャァン!!!


 


そのまま全員、転倒。

砂埃を上げながら、全員まとめてゴールラインをなぎ倒した。


 


「うわあああああ!!!」

「「「痛い痛い痛いぃぃぃ!!」」」


 



 


その日、体育祭は大成功のうちに幕を下ろした。


俺は全身砂まみれだったけど、

不思議と、笑顔が止まらなかった。


 


「カナメ、またこういうの……やってもいい?」


ユリがぽつりと、照れくさそうに聞く。


 


「……まあ、たまにはいいかもな」


 


ヒロイン全員が、ちょっとだけ照れた顔になった。


 


「じゃあ、次は文化祭で告白合戦とかどう?」


「やめろ、また俺が巻き込まれる!」


 


――こうして、またひとつ日常が過ぎていく。


 


俺たちは今日も、世界とは無関係に、ラブコメを繰り返す。


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