1章始まりは空
1章 始まりは空
天宮(わぁ〜綺麗な星空〜)
彼女は現在進行形で現実逃避中だ、原因の1つは今彼女が置かれている状況にある
彼女は今、、、超高高度から落下中なのだ
天宮(どうしてこうなったァ”ァ”ァ”ァ”ァ”)
少し記憶を遡る
彼女は友人達と車で旅行中、前から大型トラックが突っ込んで来て避ける間もなく正面衝突、頭を強打し意識が朦朧としていく、薄れゆく意識の中誰かの声が聞こえたような気がしたが聞き取ることは出来なかった。
どれくらいの時がたったのか、彼女は目を覚ます
目を覚ました彼女の目の前に広がるのは満天の星々、その神秘的な光景に目を奪われ自然と手が伸びた、がそこで異変に気づく、伸ばした自分の手はあまりにも小さかった、自分の体を確認しようとしたが首が上手く動かない、パニックになりながらも思考を巡らせていると最後の異変に気づく
耳をつんざく風の音、風を全身で感じる、彼女はこの感覚に覚えがあった
人生で一度でいいからやってみたいと思ってやってみたスカイダイビング、風の音、感覚、あまりにも酷似していた
ということは?
天宮(そっか、私落下中か!て言ってる場合じゃなーーーい!!)
パニックになりながらも何とか思考を続ける
天宮(もうっ!ほんとにどうしてこうなったの!トラックに正面衝突したと思ったら目覚めたら落下してる真っ最中!何がなんなのよもぉっ!これもしかして異世界転生とか言うやつ?だとしてもせめて普通の始まり方が良かったなぁ!)
落下の速度は早まる一方、地面が刻一刻と迫ってくる
天宮(あ"あ"あ"やばいやばい、ほんとにやばい!何か!何かないの!異世界っぽいし何か魔法的な何か!)
兎にも角にも片っ端から試してみる、現世の時に見た漫画やアニメを思い出しつつ
天宮(言葉は上手く喋れないみたいだからとりあえず念じるだけ念じてみよう!えっと、フライ!飛翔!アンチグラビティ!)
それっぽく念じてはみるものの何も出る気配はない
天宮(何でもいいからとにかく出てぇぇぇ!!)
無我夢中で試していると、ふと手にほのかな熱のようなものを感じた、そして次の瞬間まばゆい光が手から発せられる、あまりの眩しさに目を瞑る、しばらくすると光は収まった
天宮(な、なんだったの今の…今の光私がやったの?……もしかして光っただけ?)
何も変わってない現状に絶望する、地面はもうそこまで差し迫っている
天宮(なんなのよ!何か出たと思ったら光るだけって!しかももう地面が近い!ああっ!終わった!私の第二の人生速攻終了!もういっそ夢であれ!!)
もう諦めて目を瞑る、夢であればいいのにと淡い期待を持ちながら
もう少しで地面と衝突、というところで彼女の周りで突風が吹き荒れる、その風は意思があるかのごとく彼女を優しく包み込む、不思議な浮遊感を覚え恐る恐る目を開けると地面すれすれの所で体が浮いていた
天宮(なんかよく分からないけど…た、助かったぁぁ)
一命を取り留めて胸を撫で下ろす、ホッとしているとこちらに近づく足音が聞こえてきた
???「おやおや、何が降ってきたかと思えば、赤子じゃったわい間におうてよかったよかった」
声の方を頑張って向くとそこにはおじいさんと遅れてこちらに向かってくるおばあさんがいた
おじいさん「ばあさまや、どうやら赤子じゃったようじゃ、この子は無事じゃさすがは風の精霊と呼ばれとったばあさまじゃまだまだ現役じゃのぉ」
おばあさん「そちらよりも私は風の舞姫という呼ばれ方の方が好みなのですけどねぇ」
おじいさんはおばあさんと話しながら彼女を抱きかかえる
おじいさん「ほっほっほ、この子は偉く肝が据わっておるようじゃのう、どれほどの高さから落ちてきたかわ分からぬが相当な高さから落ちてきたであろうに涙ひとつ落とさぬか、感心感心」
そう言うとおじいさんは彼女の頭を優しく撫でた
天宮はおじいさんにそう言われ先程までの短くも長くも感じた数分を思い返す、訳も分からず空中に投げ出され生きることに必死すぎて泣いてる余裕すらなかった
助かった事を再度認識すると自然と涙がポロポロとでてきた、安堵の涙であろう
おじいさん「おやおや…今になって感情が追いついてきたのかのぅほらほら、もう大丈夫じゃぞぉ」
おばあさん「怖かったわよねぇ大丈夫よぉ」
2人に優しくあやされるもなかなか涙が止まる気配がない
おばあさん「この子はほんとに偉い子ねぇ赤ちゃんはみーんな大きな声で泣くのにこの子は泣いてはいるけど全然大きな声ださないわぁ、でも赤ちゃんは泣くのが仕事みたいなものだからもっと声を出して泣いてもいいのよぉ?」
おじさん「まあまあ、ばあさまこの子のように静かな子もいるということじゃ、泣きやめるよう手助けしてやりたいが…そうじゃ良い事を思いついたわい、ばあさまや抱っこを変わっておくれ」
おじいさんは彼女をおばあさんに渡すと肩にかけてあるカバンをゴソゴソと漁る、おじいさんがカバンから取り出したものは、純白のライアーハープ、煌びやかな装飾などはなくシンプル、しかしどこか神秘的なオーラさえ感じさせるそれをおじいさんは慣れた手つきで構えそして1度弦を弾く
「ピーン」透き通った音色が響く、すると周りの音が止んだ、風の音、そよ風によってなびいていた草の音、虫の囁き、まるでライアーハープの音の邪魔をしないように、そして音の続きを聞くために耳をすませるかのように
静まり返った空間の中おじいさんは弾き始める、何の曲かなんて分からないしかしライアーハープの音色は心に響く、優しく包み込み癒す、あまりの心地よい音色に彼女は睡魔に襲われた、まだまだ聞いていたいという気持ちとは裏腹に睡魔には勝てなかった
おじいさんは演奏を終えおばあさんの腕の中を見る、可愛らしい顔で眠る赤子を見て優しく微笑む
おじいさん「ほほほっ眠ってしまったかのゆっくりお休み」
おばあさん「じいさまも腕は衰えてないようですねぇいつ聞いても惚れ惚れする演奏でした」
おじいさん「ありがとのぉばあさま、さてこの子どうするかのぉ、わしらで面倒を見るのも良いが歳も歳じゃ村の者に任せるのも一つの手かのぅ」
おじいさんがそういうとおばあさんは躊躇いながらも、自分の願いを言う
おばあさん「じいさま…私はこの子を育てたい、孫の顔どころか自分の子供にも恵まれなかった、そんな私たちへの神様からの贈り物、そう考えてしまうの…」
おじいさん「ばあさま…分かった、わしらでこの子を育てよう独り立ち出来るようになるその時まで」
2人はゆっくり帰路につく
空から降ってきた赤子、その赤子に2人はオサリア・ジェミニと名ずけた、2人は我が子のように愛情をめいいっぱい注ぎ育てた
天宮は確かなる2人からの愛情を受けつつすくすくと育っていった
3人が暮らすはナチャーロ平原、そこにはリヤン村という村がある、その村のはずれに3人の暮らす家がある
おじいさんの名前はジーグ・ジェミニ
おばあさんの名前はラム・ジェミニ
2人は昔一緒に旅をしていたそう、おじいさんは吟遊詩人、音楽を奏で自分の旅の思い出を歌にする
おばあさんは踊り子、おじいさんの演奏に合わせ舞い踊る
おじいさんからは旅の思い出や音楽関連、おばあさんからはこの世界の一般常識や料理などを教わった
オサリア9歳
おじいさん「これこれ、オサリアそんなに引っ張らなくてもハープはどこにも逃げやせんよ」
今日はオサリアの9歳の誕生日、そして待ちに待ったライアーハープの受け取り日でもある
オサリア「だってだって楽しみすぎるもの、私専用のハープ〜♪」
ルンルンの足取りでおじいさんを引っ張っていく
雑貨屋の前を通ると雑貨屋の店主のおっちゃんが話しかけてくる
おっちゃん「よぉ、オサリア、今日は一段と元気が良さそうだな、なんかいい事でもあったか」
オサリア「へへへ〜分かるぅ?今日は私の誕生日!ハープをやっと受け取れるのぉ〜」
おっちゃん「ああ、お前さん今日誕生日だったか!おめでとさん!そうさなぁちょいと待ってな」
そう言うとおっちゃんは裏手に消える、しばらくすると戻ってきて「ほれっ」と言うと何かを手渡してきた
手渡してきたそれは星の装飾があしらわれたヘアピンだった
オサリア「え!!綺麗!貰っちゃっていいの?」
おっちゃん「おうとも、おっちゃんからの誕生日プレゼントや!」
オサリア「ありがとう!おじいちゃんおじいちゃん!付けて付けて!」
おじいさんはとても微笑ましげに「はいはい」と答え彼女にヘアピンを付けてあげる
オサリア「どお?どお?」
おじいさん「うんうん、似合っておるよ」
おっちゃん「似合っとる似合っとる、一段と可愛くなったな」
彼女はニッコニコでより一層機嫌が良くなった
おっちゃんに元気よく手を振り軽快な足取りで雑貨屋をあとにする
目的地はこの村唯一の工房、村人から依頼のあったものを可能な限り要望に答えて作ってくれる、その工房を切り盛りするのはいつも穏やかな表情を浮かべてるハンクおじさんだ
ワクワクが抑えきれず工房の扉をやや勢い良く開ける、「カランカラン」と来客を知らせるベルがなる、すると店のカウンターにいたハンクおじさんがこちらに声をかけてくる
ハンク「いらっしゃい、ずいぶん機嫌が良さそうだねぇオサリアちゃん」
オサリア「そりゃそうだよ!なんたって今日は!ハープの受け取り日!楽しみすぎて昨日眠れなかったんだから」
興奮気味に返答するオサリア
ハンク「はははっちょっと落ち着きなさいな、焦らしても仕方ないからね、すぐ出そうかね」
そう言うとハンクはカウンターの下でゴソゴソ、すぐにラッピングされた箱を取り出した
ハンク「これはハンクおじさんからの誕生日プレゼントって事でね、すぐに開けちゃうだろうけど一応ラッピングしてみたよ」
オサリアは目を輝かせながら箱を受け取る
オサリア「開けていい?開けていい?」
待ちきれなくて早く開けたいという気持ちがひしひしと伝わってくる
ハンク「ああ、いいよいいよ、開けちゃいな」
オサリアはハンクおじさんが言い切る前にもう開け始めていた、中を確認する、そこには待ちに待ったライアーハープ、三日月型の本体に弦、本体に星が模様として少々彫られている、オサリアは恐る恐るハープを手に持ち弦を1本弾く「ピーン」、おじいさんのハープには劣るが十分綺麗な澄んだ音が響く、しばらくの間沈黙、目を閉じ噛み締めるように音の余韻に浸る、この沈黙をやぶったのはハンクおじさんだ
ハンク「ジーグじいさんのハープを見本に見よう見まねで弦を張って、要望のあった型に掘り出した、初めて作ったにしては上出来かな?」
おじいさん「十分じゃ、良き音色だわい、初めてでこれほどの完成度、さすがのハンクの腕じゃな色々無理言ってすまなんだ」
ハンク「いいよいいよ、楽器なんて初めて作ったがいい経験になったよ」
おじいさん「作ってもらってから言うのもなんじゃが、本当であれば昔王都で世話になった馴染みの楽器屋に制作を依頼したかったんじゃがの、この歳じゃし王都に赴くのは厳しいからのぉ」
ハンク「武器は武器屋、そう言われても仕方ない、元々家具ばかり作っていたからな、しかし最近王都の方面はいい噂をあまり聞かない、行商人の話だとユスティーツ皇国とファルシュ帝国が戦争するかもなんて噂まで出回っているらしいからな、まああくまで噂、どこまで本当か分からないが気おつけるに越したことはないだろう」
おじいさん「その2国は和平を結んでいたはずじゃが、ありえるのか?」
ハンク「さあ?分からない、でも噂が本当なら大きな戦争になる、やだやだ、戦争なんてまっぴらごめんだね」
おばあちゃんが教えてくれた、ユスティーツ皇国とファルシュ帝国はこの世界の大国だ、そしてその2国にそれぞれ加盟する小国がちらほら、ハンクおじさんの言う通りこの2つが戦争を起こせば加盟する小国も手を貸さざるおえない、大きな戦争になるのは避けられない
天宮(どの世界でも戦争は付き物か…せめて噂がデマである事を祈るしかないか)
考え事をしていると、オサリアの頭をおじいさんが撫でる
おじいさん「変に不安にさせてしまってすまんのぉ心配しなくて大丈夫じゃぞ、せっかくの誕生日じゃ楽しくすごさんとの」
そう言うとおじいさんはハンクおじさんに改めて礼を言いオサリアの手を引き店をあとにする
おじいさんが向かった先は食堂フリーデン、元気で豪快な性格のビヤンおばさんが営んでいる活気ある食堂だ、時間はお昼時いつもなら村人達で賑わっていて店外までその賑わいが聞こえてくるほどだが、何やら今日は静かだ
普段と違う様子にも関わらず何も気にせず入るおじいさんに手を引かれるままオサリアも入店すると
「パンッパンッパンッ!!」何かが破裂する音とともに村の人達が声を揃え「オサリア!!誕生日おめでとう!!」と祝いの言葉を述べる
村人達はオサリアの誕生日を祝うために集まってくれたようだ、店内も飾り付けがされており楽器を持った人達が演奏を始める
今までの誕生日に比べてやたら豪華な誕生日祝いに嬉しさ半分戸惑い半分な状態のオサリア、何かを察したのかおじいさんが説明をする
おじいさん「他の種族達はどうかは分からぬが、わしらの共通の常識で18歳が成人とされるのは、ばあさまから聞いておるじゃろう?この村では成人までの折り返しである9歳を盛大に祝う風習があるのじゃ」
天宮(ほー、現代でいう2分の1成人式といったところか)
オサリアは納得し、純粋に祝いを喜ぶ事にした
オサリアが誕生日席につくと厨房の方からおばあさんとビヤンおばさんがケーキを持ってやってくる、普通のケーキにしてはやけにひんやりしてそうな気がする、あれはもしや…
ビヤンおばさん「ラムばあさんに言われた通りに作ってみたけど、氷の魔石利用した料理なんて初めてだよ王都の方でチョコアイスケーキ?なんて言うらしいじゃないかい、魔石自体そこそこ高いけどせっかくのお祝いだからねぇ奮発しちゃったよ」
まさかこの世界で現世の時の好物が食べられるとは思っていなかった
ビヤンおばさん「ささ、味は保証するから食べてみな!」
そう言うとビヤンおばさんは大きめに切り分けたチョコアイスケーキをオサリアの前に置く
オサリアは「いただきます」といい1口頬張った、懐かしさを覚える味だった、至って普通のチョコアイスケーキ、だが久々に食べたその味はとても美味しく感じる
それと同時にオサリアの脳内に思い出が蘇る、現世にいた頃それこそ誕生日の時4人がアイスケーキを買ってきてくれて盛大にお祝いしてくれたあの時の楽しい記憶
こちらの世界に来てはや9年1度たりともみんなのことを忘れたことは無い、懐かしさ、寂しさ色々な感情が湧き上がり無意識のうちに涙が流れていた
ビヤンおばさん「おやおや、どうしたんだい、口に合わなかったかい?」
突如泣いているオサリアを見て慌てた様子でビヤンおばさんが問いかける
オサリア「ううん、なんでもないよ、このケーキすっごく美味しい、ありがとうビヤンおばさん、おばあちゃんもありがとう」
ビヤンおばさん「そうかい?ならいいけど…」
心配そうなビヤンおばさん、大丈夫だよと伝えるためにいつも通りの振る舞いをした、誕生日パーティは賑わいをみせどんちゃん騒ぎは夕方まで続いた
おじいさん「そろそろ我々は帰ろうかねぇ、ビヤンやありがとのぉ」
ビヤンおばさん「いいってことよ!成人の日も言ってくれよ!さらにうんとお祝いしてあげるんだから!」
おばあさん「ほほほっ、また9年後ですねぇ」
2人と会話を終えたビヤンおばさんはオサリアの方に寄っていき、オサリアの手を握る
ビヤンおばさん「なんかあったらあたしをたよんなよ、美味い飯腹いっぱい食べさせて悩みなんて吹き飛ばしてあげんだから」
ビヤンおばさんなりの励ましなのだろう、泣いた1件を心配している様子だった
オサリア「大丈夫だよ!ありがとうビヤンおばさん!ビヤンおばさんの料理好きだからまたすぐ食べに行くよ!」
言葉を交わし帰路に着く、ビヤンおばさんに大きく手を振りハープを大事に抱えながら
誕生日の翌日から早速ハープの練習を始めた、この世界の楽譜の読み方は一通りおじいさんから教わった、あとは実践あるのみ、現世で楽器弾いた経験は無いがおじいさんのレクチャーのおかげでみるみる成長していく
数ヶ月後
オサリアはいつもの場所で練習をする広大な平原を見渡せる大木の下、木陰に入りそよ風に頬を撫でられながらハープを奏でる
不意に「ガサガサッ」草むらの方から物音がする、そちらは森で時々低級のスライムなどが湧いている、スライムかな?と身構えていると草むらから出てきたのは白い毛で覆われた小さな狼だった、この辺では見かけない個体のためモンスターなのかと警戒していると狼は目の前で倒れ込む
警戒しながら恐る恐る狼に近づくとどうやら足や体を怪我していて酷く弱っているようだった、この子が危険なのかそうでは無いのかは分からないがこんなに弱っている子をほおってはおけなかった、狼を布で覆い抱え、急いで家まで連れて帰った
家の方に駆けて行くオサリア、それを大木からじっと見つめる影、その影はしばらくして森の方に姿を消した
オサリア「おばあちゃん大変!」
勢い良く家の扉を開けるオサリア、おばあさんは何事かとびっくりした表情で彼女の方を見る
おばあさん「オサリアや、そんなに慌ててどうしたんだい」
オサリアは慌てながら抱えている狼をおばあさんに見せ事情を話す
おばあさん「なるほどね、確かにだいぶ弱っているわね急いで手当をしてあげましょう」
おばあさんは適切に処置をしていく、手当をし終えるがおばあさんの顔は険しい
オサリア「どうしたのおばあちゃん?」
おばあさん「怪我の処置はできたけど、肝心の生命力が弱りすぎているみたいね、このままではこの子は長くはもたないわ、ポーションかヒールの魔法があればいいんだけど…」
オサリア「ポーション?村で売ってる人いたっけ…」
おばあさん「時々くる行商人ぐらいしか取り扱ってないのよ…ポーション自体高価な物だから村でも買う人は滅多にいないわ」
オサリア「じゃあっ買った人にポーション譲ってもらうとか…」
おばあさん「いくら村の人達が優しいとはいえ、譲って貰える可能性は低いわ、それほどポーションは高価なのよ…」
オサリア「そんな…」
おばあさん「私がヒールの魔法を使えれば良かったのだけど、ヒールの魔法は光の属性の適性がないと上手く扱えないのよ…」
オサリア「光の属性の適性…ヒールの魔法の呪文って分かる?私やってみたい、少しでも望みがあるなら」
オサリアのまっすぐな瞳を見ておばあさんは本棚から1冊の本を取り出してくる
おばあさん「これは昔王都で買った魔法書だよ、初級系統の魔法なら色々載ってる、そこにヒールの魔法の呪文が載ってるはずだよ」
オサリアは魔法書をペラペラとめくっていく、属性で分類わけされているようだがなかなか光の属性に辿り着けない最後のページの方でやっと見つけた
オサリア「あった、光の属性だけやたら少ないね」
おばあさん「光の属性はそもそも適性者自体が少なくてね、私がその本を買った時は光の属性の呪文は全然発展してなかったのよ、だから外れ適性とまで言われていたわ、でもヒールの魔法は光の属性だったから1部需要があったわね、ただあまりいい待遇とは言えないけどね…まああくまで5〜60年前の話よ、今は光の属性の魔法も発展してるわきっと」
オサリア「そうだったんだ、他にもいろいろ聞いてみたいけど今はとりあえず試してみるね」
そう言うとオサリアは自分の中に意識を集中する、血管のように全身に巡りほのかに温かさを感じる、その流れこそマナの流れ、そしてマナを手に集中させ練り上げるこれは魔法を使ううえでの基礎だとそれだけは出来るようにとおばあさんに教えられた、準備は整ったあとは呪文を唱えるだけ
オサリア「我は癒し手 傷つきし者に 安らぎを」
ヒールの呪文を唱える、しかし何もおこらない、集めたマナが霧散していく感覚だけが手に残る
おばあさん「出なかったみたいね…酷な事を言ってしまうけど、あなたに光の属性の適性は...」
おばあさんが暗い表情で躊躇いながらも現実を告げようとした時
オサリア「我は癒し手 傷つきし者に 安らぎを」
既にもう一度試し始めるオサリア、もうおばあさんの声は届いていない、真剣な表情で何度も試す、マナを練っては霧散練っては霧散の繰り返し何度目かの挑戦で体がふらつき倒れかける、おばあさんは慌てて彼女に寄り添う
おばあさん「オサリア…もうやめておくれ、私はあなたの体の方が心配よ…魔法は失敗しても体内のマナを消費してしまうの、今のあなたはマナの使い過ぎで体に負荷がかかってしまっている、このまま魔法を使い続ければマナ欠乏症で意識を失ってしまうわ…だからお願いよ」
おばあさんは彼女に懇願する、オサリアはめまいがおきている、おばあさんの声も届いているか定かではない、意識が混濁しているそんな中不思議な事がおこる、オサリアの目の前に純白の羽根ペンがどこからともなく現れる、「はね…ぺん?」そう呟く、おばあさんは「羽根ペン?羽根ペンがどうかしたの?」と聞き返すどうやらおばあさんには見えていないようだった
羽根ペンは動き出しスラスラと空中に文字を書き始めた
「我は癒し手 傷つきし者に 安らぎを」そう綴る先程までオサリアが唱えていた呪文だそこで終わるかと思われたが羽根ペンはさらに続ける
「我は癒し手 傷つきし者に 安らぎを 乞い願うは 貴方の平穏」
魔法書にはなかった部分だ、その文字がサラサラッと消えるといつの間にか羽根ペンも消えていた、そして意識が少しハッキリしてきた
オサリアは立ち上がり狼の方に向き直る、彼女の覚悟の決まったその目を見ておばあさんは見守ることしか出来なかった、そして最後の呪文を唱える
オサリア「我は癒し手 傷つきし者に 安らぎを 乞い願うは 貴方の平穏」
狼の体が淡く光を帯びる、すると狼の荒かった呼吸は落ち着きを取り戻し穏やかな表情で眠っている、その姿を見たオサリアは安堵と全身にのしかかるような疲労感で意識を手放した
おばあさんはすぐに彼女を支え、ベッドに寝かせ呼吸を確認し彼女の表情を見やる、やりきったそう表すかのような笑みを浮かべ眠る彼女を見ておばあさんは胸を撫で下ろす
おばあさん「ほんと、無茶をするねこの子は」
呆れたような口ぶりだが少し誇らしげのようにも聞こえる
夕暮れ時、玄関の扉が開く「帰ったぞぉ」おじいさんがどうやら村から帰ってきたようだ、そしておじいさんは床で包帯に巻かれている狼、ベッドで眠るオサリア、オサリアのベッドの横に座り少し疲れた表情を見せるおばあさんが目に写り、情報の整理が追いつかずキョトン顔、その表情が面白かったのかおばあさんはクスクスと笑う、そして事の経緯を話した
おじいさん「なるほどのぉわしが村に行っとる間にそんなことが」
おばあさん「そうですよ、大変だったんですからどっかの誰かさんに似て頑固なんですもん」
おじいさん「ほほほ…耳が痛い話じゃのぉ…」
おじいさん「ゴホン」と咳払いをする
おじいさん「そうかオサリアに光の属性の適性が…」
おばあさん「昔ほど待遇は悪くは無いとは思いますが心配なのよねぇ他にも適性があればいいのだけれど」
少し暗い顔をしおじいさんは話す
おじいさん「わしらはもうそう長くない、魔法の使い方、身の守り方しっかり教えてやらねばならぬようじゃの」
おばあさん「そうですね、生きていられる間に1人でも生きていけるぐらいしっかり叩き込んであげましょう」
おじいさん「ばあさまはスパルタじゃからのぉ厳しいのも程々にの」
しばらく会話を交わす2人、いつの間にか外は真っ暗、星々が綺麗に輝いている、会話をしていたおじいさんは突然真剣な表情になり鞄からハープを取り出す
おじいさん「どうやら招かれざる客のようじゃ」
遅れておばあさんも何かを察する
おばあさん「そのようですねぇ」
おじいさん「あの森は攻撃的なモンスターは少ない、狼を襲った奴かもしれんの、ばあさま任せたぞい」
おじいさんはハープを奏でる、曲調は静かだが熱い何かが込み上げてくるそんな曲だ
おばあさん「ええ、任せてください、まだまだ訛ってはいませんから」
そう言うおばあさんの片目は白から鮮やかな緑色に変わっていた
同時刻
暗闇の中蠢く影、影は鳴く「ギャア」それが合図なのか獲物がいる家を包囲しながらジリジリと近づくそれは鋭い爪、小柄な体、小さな翼、下級悪魔のインプだ、狙いは昼間逃した狼だけのつもりだった、忌々しい光の波動を感じ取る前は
インプ達が家に近づくと突然家から何かの楽器の音が聞こえてくる、インプにとっては不快な音なのだろう醜悪な顔をよりしかめる、そして家の扉がゆっくり開かれるインプは警戒した、しかしすぐにインプは警戒をといた中から出てきたのはシワシワの死に損ないだからだ嘲笑の笑みまで浮かべる、だがインプは後悔することになるだろうその老婆を甘く見た事を
おばあさん「下級悪魔のインプだったかい、しかもそこそこの数連れてきたみたいだねぇ家を囲むように13体、大方あの狼が目的だろう?」
何もかも見透かされて少し不機嫌そうな表情を見せるインプ、しかしすぐに余裕の表情に戻る
おばあさん「老体だからと舐めてると痛い目みるよ、まあ舐めてなくても危険なお前たちを生きて帰すつもりは無いけどねぇ」
インプの中にも短気なやつはいるようで、1体が怒り心頭といった表情でおばあさんに襲いかかる、襲いかかったインプはおばあさんに自慢の爪を突き立てた、そう錯覚をした、目の前にいたはずのおばあさんは既におらず爪は空を切る、残像だった
おばあさん「ほほほっどこを攻撃しておる、私はここだよ」
いつの間にかインプの背後をとる、インプは追撃しようと振り返ると何かに攻撃され吹き飛ぶ、おばあさんは腕を突き出した姿勢だが明らかに届かない距離だ何が起きたか分からないと困惑の表情を浮かべる「ギャア!!」1体のインプが叫ぶ、10体のインプがおばあさんに一斉に襲いかかる、インプの本能に警鐘がなるこの老婆はやばい
おばあさん「多勢に無勢、情けないねぇまあ集団でかかって来ようと私には勝てないよ、強力な味方もいるからねぇ」
一斉にくるインプをちぎっては投げちぎっては投げ、インプが捉えたと思っても残像、手痛いカウンターがとんでくる
激しい戦闘が繰り広げられるさなか、戦闘に加わっていないインプ3体が家の裏手に近づく扉は無いが壁を1枚破壊するぐらいの力はある、勝ち誇ったようなしたり顔でインプ達は一斉に家の壁に腕を振り下ろす「ガキンッ!!」インプ達は一瞬何が起きたか理解出来なかった、振り下ろした腕が容易く壁を破壊するはずだった、だが腕が壁に当たる前に見えない何かに弾かれる、困惑していると後ろから声がする
おばあさん「風の障壁だよ、私を倒さずして私の大切な者に触れられるわけがないだろう?」
先程まで10体のインプと戦っていたはずのおばあさんが背後に立っていた、インプはおばあさんの方に振り返ることすら許されなかった、おばあさんが手を横に振るとインプ達の首が宙を舞う、インプが倒れゆく様を冷ややかな目で見送るとまた家の正面に一瞬にして戻る
おばあさん「またせたねお前さん達、後ろの奴らはもう始末させてもらったよぉ、遊びは終わり死んでもらうよ」
おばあさんはまた腕を振る、すると1体また1体と切り刻まれてゆくインプ達に為す術は無い、最後の1体は逃走を試みるおばあさんはその背中を見て「はぁ…」とため息をつき最後の一振、インプは全滅した
おばあさんは家に入る前に指を一振する、するとおばあさんの手元に小さな宝石のような物が13個集まる、それを袋に仕舞い家の中へと入っていく
おばあさん「じいさま終わりましたよぉ」
おじいさん「ばあさまお疲れ様じゃ、少し無理をしたようじゃの顔色が少々悪いぞ」
おばあさん「ほほほっ現役のようにはいきませんか、確かに疲れたようですの、そう言うじいさまもお疲れのご様子ですねぇ演奏ご苦労さまでした」
おじいさん「わしももう歳じゃの強化演奏程度で疲れるようになってしまうとはのぉ」
おばあさん「もう寝ましょうか」
おじいさん「そうするかの」
ひと騒動あった一夜を明けた
翌日オサリアは体にのしかかる重みを感じ目を覚ます、目を開けると目の前には狼がジッとオサリアを見つめており目が合うと顔を舐め始めた
オサリア「わっぷ、ちょっ舐めすぎ舐めすぎ」
オサリアの声を聞きおばあさんとおじいさんがベッドの方にやってくる
おばあさん「オサリア起きたかい、具合はどうだい?」
おじいさん「随分と懐かれておるようじゃのぉ助けてくれた恩人を理解しておる賢い子じゃ」
オサリア「ははは…体調はそこまで悪くはないよ、少し頭が痛いくらいかな」
おばあさん「無理もないね、初めて魔法を使うのに限界ギリギリまでマナを消費したんですもの、その程度で済んでるだけましなほうよ」
おじいさん「とりあえずご飯を食べよう、そのベタベタの顔しっかり洗うのじゃぞ」
オサリアは苦笑いをしつつおじいさんに言われた通り顔を洗う、そして食卓へ3人で食事をとる
オサリア「そういえばこの子何食べるんだろう、やっぱりお肉かな」
オサリアは狼の方を見やる、狼は「何?」と言いたげな表情で少し首を傾げる
おばあさん「そうねぇとりあえずお肉あげてみる?」
おばあさんは食料庫から肉を取り出し狼に与える、狼は「スンスン」と肉の匂いを嗅ぎ1口食べる、美味しかったのかペロリと平らげてしまった
オサリア「お肉で良さそうだね、この子どうしようね」
おじいさん「この辺りじゃ見かけない子だからねぇどこからか森に迷い込んだのか、故郷があればそこに帰してやりたいがのぉ」
会話をしていると何かを察したのか狼はオサリアの足元にいきピッタリくっついた
おばあさん「おやおや、この子はオサリアから離れたくないみたいだよ」
オサリアは狼を見つめ撫でる、気持ちよさそうに撫でられる狼、決心して2人に向き直る
オサリア「ねえ2人とも、私がちゃんとお世話をするから家においてもいい?」
おじいさん「オサリアがそうしたいならそうしなさい」
おばあさん「ちゃんと面倒みるのよ」
オサリア「2人ともありがとう」
狼は「ワウン」と答える感謝を伝えるかのようにオサリアの周りをぐるぐる回る、こうして家族が増えた
朝食を終えゆっくりしているとおばあさんが話しかけてきた
おばあさん「オサリア、ちょっといいかい」
オサリア「どうしたの?おばあちゃん」
おばあさん「おじいさんと話あったんだけどね、オサリアにはこれから魔法の使い方、1人でも生きていける方法を教えようと思うの」
オサリア「教えてもらえるのは嬉しいけど、急にどうしたの?」
おばあさん「私らももう歳だし教えれるうちに教えたいと思ってね」
オサリア「縁起でもないこと言わないでよぉまだまだ元気じゃん2人とも」
おばあさん「だとしてもだよ、ずっと一緒にいられる訳じゃないからねぇ…」
おばあさんの悲しくも真剣な表情にオサリアも何かグッとくるものがあった
オサリア「わかった…私頑張るよ」
おばあさん「そうかそうか、じゃあ明日からビシバシ鍛えるから覚悟しなよぉ」
オサリア「えええええええ!」
おじいさんは苦笑いをしつつ「がんばるんじゃぞ」とボソリと呟いた
それからおばあさんによる猛特訓が始まった、魔法についての基礎、魔法の使い方、属性、無詠唱etc…魔法関連のあらゆる知識を学んだ確かにスパルタだったが、なんだかんだ優しさがあり何とかやっていけてる
おじいさんからは簡単な狩りの仕方にモンスターの観察、討伐のしかたを教わった、狩りには狼の「アラン」も同行した、オサリアが名ずけた
一緒に狩りをするうちに連携を取れるようになっていく
とある日、村の近辺の森でゴブリンが出たと情報がきた、村には少ないが警備をする者もいるので大丈夫だがおじいさんはこれを機にとゴブリン退治をしようとオサリアに提案する
おじいさん「腕試しと思ってやってみるのじゃ、何危なくなったらわしらで助けに入るぞ」
オサリア「分かった…怖いけどやってみる」
おじいさん「さて、じゃあおさらいじゃ、ゴブリンの特徴を言うてみぃ」
オサリア「えっと、ゴブリンは緑色で小さな体、一応武器も持ってはいるけど木製が多い、そこまで賢くない」
おじいさん「うんうん、しっかり覚えているようじゃのアランと一緒に連携して討伐をしてみるのじゃ」
3人と一匹でゴブリンが出たという森に向かう
おじいさん「わしらはここで待機しておるこの森は行きなれておるじゃろうが油断するでないぞ」
オサリア「分かりました、いってきます!」
アラン「ワウン!」
オサリア達は森の中に入っていく、おばあさんは心配そうにオサリア達の背中を見る
おばあさん「私心配だわ…」
おじいさん「大丈夫じゃ、あの子は筋がいいし物覚えもいい、なんも心配いらんよ、ばあさまのスパルタ教育も耐えとるようじゃしのぉ」
おばあさん「じいさま?一言余計ですよ?」
おじいさん「ほほほっこわやこわや」
一方オサリア達はまずは索敵から始める、アランに匂いを辿ってもらい居場所を突き止める
アラン「バウ」
小さな鳴き声でオサリアに合図する
オサリア「見つけたのね、行こう」
アランについて行くとゴブリンがいた、5匹程で動物を狩り食事をしている最中のようだ
オサリア「私が奇襲で魔弾を当てる、そしたらこっちに向くと思うからそのままフラッシュを食らわせて目くらましするからアランは光を合図にゴブリンへ攻撃で」
アランはこくりと頷き気配を殺し回り込んでいく、オサリアはまず1匹に狙いを定めるそして心の中で詠唱
オサリア(我が敵を撃ち抜け)
瞬時にオサリアの周りに6個程魔法の弾が出来上がるそして発動
オサリア「魔弾!」
掛け声と共に弾は飛んでいき正確に1匹に全弾命中した、突然の事に慌てるゴブリン、しかしオサリアをすぐに発見し各々武器を構えこちらに近寄ろうとする、それを見てオサリアはさらに詠唱する
オサリア(我が道を照らし 導きたまえ)「フラッシュ!」
ものすごい光量で世界が白飛びするのではという勢い、フラッシュは本来ただの光るだけの魔法だがマナの込める量次第では光量をあげることが出来る、そんな眩しい光をもろにくらったゴブリン達は目を抑える、そしてすかさずアランが飛び出し鋭い牙でゴブリンどもの喉元を掻っ切っていく、オサリアは最初に魔弾を当てたゴブリンを確認しにいくまだ息があるようでナイフでトドメを刺す
オサリア「ふぅふぅ、これで全部かな」
さすがに緊張したため息を落ち着かせる、深呼吸しているとアランが寄ってきてオサリアの倒したゴブリンをジッと見つめる
オサリア「アランどうしたの?」
そう聞くとアランは器用に爪を1本だけ出しゴブリンの胸あたりを切りつけた
オサリア「ア、アラン?どうしちゃったの」
突然の行動に動揺を隠せないオサリア、アランはお構い無しにそのまま死体を器用に突っついていると中から小さな宝石の様なものを取り出した
オサリア「これは…魔石だっけ個体の強さにおおじて魔石の大きさって変わるんだったっけ下級のモンスターは基本魔石を持ち合わせないって話だけど…ある程度の強さがあったのかなこのゴブリン、とはいえ魔石ちっちゃすぎるし使い道はないかな」
オサリアがそう言うとアランはオサリアの手にあった魔石を「パクッ」と食べてしまった
オサリア「アラン!?ダメだよそんなの食べちゃ!ぺっして!」
慌てて吐き出させそうとするが、すぐに飲み込んでしまった
オサリア「アランなんで食べちゃったの…」
オサリアはアランに言うが等の本人はキョトンとした顔をしている、そしてアランは他のゴブリンの方にも近づき同様に魔石を取り出しては「パクッ」と食べていく
オサリア「アーラーンー、ダメだってぇ、あまりにも自然に食べるから止めることすら忘れちゃってたよ」
最後の1個を食べ終えた瞬間アランの体がほのかに光る
オサリア「え、なになに?なんかアラン体光ってない?」
しばらくすると光は収まる、特に変化はないように見える
オサリア「大丈夫?なんか体に異変とかない?」
アランはまたまたキョトンとした顔をする、ただなんだか調子が良さそうにも見える、元気が有り余っているそんな感じだ
オサリア「とりあえず2人のとこ戻ろう、体に異常がないかおばあさんに見てもらおう」
オサリア達は足早にその場を去り、2人の元へ行く
森から出てくるオサリア達を見て2人は安堵する
おばあさん「ああ言ってた割にはやっぱり心配だったんじゃないですか」
おじいさん「ば、馬鹿言え、なんも心配なんてしとらんかったぞ」
謎に意地を張るおじいさんを見てクスリと笑うおばあさん
オサリアはブンブンと手を振り2人の元に駆け寄る
オサリア「おばあちゃーんおじいちゃーん討伐できたよ〜」
おばあさん「おかえりぃ無事で良かったわ」
おじいさん「どうじゃ戦ってみた感想は」
オサリア「アランのおかげで何とかなったよ〜、そうそう聞いて!ゴブリンから小さい魔石出てきたんだけどアランたら食べちゃったんだよ」
おじいさん「魔石を食べたじゃと?…それは本当か?」
オサリア「ほんとだよ、なんの躊躇いもなくパクパク5個も食べちゃった」
少し考えた後おじいさんは話し始める
おじいさん「魔石を取り込む習性があるのは、魔獣だけじゃ、インプに追われていたようじゃがそれが原因かもしれんのぉ」
続けておじいさんが説明をする
おじいさん「魔獣は普通のモンスターとは異なる強大な力を持つ獣じゃ、魔石を取り込み成長する、本来人に従うことなどない獣なのじゃが、ごく稀に人に味方をした魔獣もいたそうな、ただ歴史上では国を滅ぼしたとされる魔獣もおる…」
オサリア「魔獣…でもアランは凄くいい子だよ、私の言う事ちゃんと聞いてくれるし人懐っこいし悪い子じゃないよ」
必死に弁明するオサリアを見ておじいさんは微笑み言った
おじいさん「大丈夫じゃよ、魔獣はそもそも資料が少なくて解明されてないことの方が多い、全部が全部悪という訳でもなかろう、それにアランがいい子なのはわしらも十分知っとる、心配はしとらんしこれからも相棒として家族として可愛がってあげるのじゃぞ」
オサリア「もちろん!これからもよろしくねアラン」
それに返事をするようにアランは元気良く「バウッ!」と答えた
おばあさん「そういえば、魔石と言えばインプも魔石を落としてたんでしたわ、確か袋に…」
おばあさんは鞄を漁ると中から袋を取り出し、開けると小ぶりだが先程のゴブリンのよりは大きめな魔石があった
オサリア「わぁ、さっきのゴブリンより大きいね、アラン食べるかな」
おばあさん「本来魔石は他にも使い道はあるのよ」
オサリア「そうなの?何に使えるの?」
おばあさん「魔石の大きさにもよるけど、このサイズなら初級魔法を魔石の中に保存しておくことが出来るわね」
オサリア「魔法の保存?どうやるの?」
おばあさん「魔石に触れて、まずは呪文を唱える、すると魔法は発動しないのだけれど、魔石の中に保存されるの、保存された魔法を発動させたい場合は少量のマナを魔石に流せば数秒後に発動するわ、即座に発動させたい場合は多めにマナを流すといいわよ」
おばあさんはそう説明するとオサリアに1つ魔石を渡した
おばあさん「実際にやってみた方が早いわ、試しにフラッシュを保存してみましょう」
オサリア「分かった!」
オサリアは言われた通り魔石を握りフラッシュを発動する、すると発動した感覚はあれど光は出てこなかった、握っていた魔石を見ると中で白い光がうっすらと見える
オサリア「これでいいの?」
おばあさん「そうそう、入っている属性事に中の光の色が変わるの、光の属性は見たこと無かったけど白い光なのね」
オサリア「それで発動するにはっと…」
握った魔石にマナを少し込める、そしてしばらくすると魔石が光を放った、自分が光量を調節したフラッシュが発動した
オサリア「凄い!ちゃんとフラッシュ出てきた!魔石って面白いね」
おばあさん「そうそう、トラップとかにも使えるから使い方次第よ、魔法と一緒」
魔法は奥が深いなぁと感心するオサリア、そんなオサリアに魔石くれと目で訴えかけるアラン
オサリア「分かった分かった、少しあげるよ」
その言葉にアランは嬉しそうに尻尾を振る、オサリアから魔石を2つもらい飲み込む、するとまたアランの体が少し光る、またしばらくして光が収まると少し体が大きくなってるような気がした
オサリア「本当に成長するんだね…不思議だ」
おじいさん「不思議じゃのぉ、さてそろそろ帰るとしよう」
そう言ってみんなで帰路につく
数年後 オサリア17歳
オサリア達は逞しく成長した、オサリアは光属性だけでなく、光属性程の適正の高さはないが水属性の適正もあった、初級魔法であれば問題なく扱えるだろう、ライアーハープの腕も上達していた
アランはこの数年で明らかな成長を遂げていた、主にサイズ的な意味で、数年前まで中型犬ぐらいのサイズだったが今は小さめの熊ぐらいのサイズまで成長している、オサリアを背中に乗せれるぐらいにまで大きくなった
今日もいつものように狩りをする、昔はナイフで肉を捌いたりする事を躊躇っていたが今では慣れたもので狩った動物に手を合わせてから、手際よく処理をしていくそして処理が終わったら布にくるみ鞄に入れアランの背中にまたがり足早に帰る
少し焦り気味なのには理由がある数週間前から2人の調子があまり良くない、病気という訳ではなさそうだが歩くのもしんどそうでベッドで横になってる時間の方が増えている、日に日に弱っていく2人を見るのは辛いがオサリアは一生懸命介抱している、そんなはずないまだ2人は生きれるそう自分に言い聞かせて
オサリアが狩りに行っている、その帰りを待つ2人ベッドに横になりながら会話をする
おじいさん「なあ、ばあさまや、まだ生きとるかぁ」
おばあさん「ええ、ええ、生きてますとも」
おじいさん「……わしら…そろそろやもしれんの…」
おばあさん「……ええ…そうかもしれませんね…」
おじいさん「何となくじゃが…分かるような気がするんじゃ…今日が最後じゃと…」
おばあさん「私もそんな気がします…」
おじいさん「だいぶ長く生きられたのぉ」
おばあさん「ええ、そうですね色々危険な旅もしてきましたがよくここまで生きれましたね」
おじいさん「そうじゃな、もう悔いは…残ってはおるか…」
おばあさん「そうですねぇオサリアの成人を祝ってあげれない事が唯一の心残りですね…」
おじいさん「早いものじゃのぉ、17年というものは」
おばあさん「ええ、そうですねぇ今でもオサリアと出会った時の事を鮮明に覚えていますよ」
おじいさん「あの夜突然強いマナの波動を感じたかと思えば窓の外が明るく光って、そこに急いで駆けつければ空からなにか降ってきておるというな、ばあさまが咄嗟に魔法を使ったお陰で助かったがまさか赤子などと夢にも思わなかったわい」
おばあさん「私もびっくりでしたよ、ですが私は運命を感じました…ただの妄想そう言われても仕方ありませんが子に恵まれなかった私達への天からの贈り物そう思ったのです」
おじいさん「そういう考えもありじゃとわしは思うぞ、なぜ空からあの子が降ってきたか結局謎のままじゃが、それでもいい可愛いわしらの子供じゃ」
おばあさん「そうですねぇ、ほんとに育てがいのある子供でしたよ、今では立派に育ちましたがねぇ」
しばらくの沈黙、すると外から音がする、アランの駆ける音だどうやらオサリア達が帰ってきたようだ、勢いよく扉が開かれる
オサリア「2人ともただいま!今日もアランのお陰で狩り大成功だったよ!すぐ料理作るね!」
おじいさん「おかえり、オサリア楽しみにしてるよ」
オサリアは料理に取り掛かる、今回の狩りで得た肉で肉団子を作る、野菜が沢山入ったトマトスープを作りその中に肉団子を入れる、村で買っておいたパンを添えて完成
オサリア「今日のご飯は肉団子入りトマトスープとパンだよ〜召し上がれ!」
2人は少し辛そうに体を起こす
おじいさん「こりゃ美味そうじゃの」
おばあさん「早速頂きましょうか」
オサリアは2人が食べるのをドキドキしながら待つ
おじいさん「うん、こりゃ美味いな料理の腕あげたのぉ」
おばあさん「そうですねぇとても美味しい、料理を教えたかいがありますよ」
オサリアは2人の感想を聞き胸を撫で下ろす
オサリア「良かったぁ、いつまでたっても人にご飯出すの緊張しちゃうな」
おばあさん「大丈夫よ、美味しいからもっと自信もちなさい」
オサリア「ありがとうおばあちゃん」
みんなで談笑しながら食事をした
食事や片付けが終わりゆっくりしているとおじいさんに呼ばれる
おじいさん「オサリアや、ちょいとおいで」
オサリア「はいはい、どうしたのおじいちゃん」
オサリアを呼んだおじいさんの表情は暗い、オサリアは少し嫌な予感を覚えつつおじいさんの次の言葉を待つ
おじいさん「オサリア…真剣に聞いておくれ、これは冗談でもなんでもない、紛れもない事実、オサリアには酷なことを言う事になるが…多分わしらは今日で最後なんじゃ、自分の事じゃ何となく分かってしまうのじゃ…」
オサリアの時が凍る、頭の中でぐるぐると考える
オサリア(最後?最後って何?お別れ?死んじゃうの?やだやだやだ、やだ!)
色んな感情が湧き上がりオサリアの瞳から一筋の涙がこぼれおちる、か細い声でオサリアは
オサリア「やだよ…今日で最後だなんて…まだまだ2人と一緒にいたいよ…私来年で成人だよ?晴れ姿2人に祝ってほしかったのに……」
おばあさん「オサリア…私達にとってもオサリアを残して先に逝ってしまうこと、成人を祝えないことは心残りなの…でも寿命はどうしようもないの…」
オサリアは受け入れ難い事実にどうしたら良いか分からず軽いパニックになり口走る
オサリア「今日が最後って分かってるなら…もっと豪華な食事だって用意したのに…こんな質素なご飯で終わりだなんて…」
おじいさん「いいんじゃよ、わしらにとってオサリアの手料理はどんな物でも最高の最後の晩餐じゃ」
オサリアの涙は刻一刻と増えていく、2人はオサリアにおいでと手招きをし、そして2人で抱きしめた、アランも心配だったのかそっと3人に寄り添う、オサリアは我慢しきれずにわんわん泣いた
ひとしきり泣いて落ち着いたところで、おじいさんが口を開く
おじいさん「オサリアや、最後に2つほど頼みを聞いてくれるか」
オサリアは無言でこくりと頷く
おじいさん「今夜あの思い出の平原の大木でオサリアの演奏を聞かせてほしいのじゃ、このハープを使って」
そう言うとおじいさんは自分の鞄から自分のハープを取り出す
おじいさん「このハープは少し特別でな、このハープに認められると演奏者に合わせて形を変えるんじゃ、試しに1弦マナを込めて弾いてみるのじゃ」
オサリアに自分のハープを渡す、オサリアは言われた通りに1弦弾くするとハープが光りみるみる形が変わっていく、派手な装飾は相変わらずないがオサリアが貰ったハープそのハープと同じ三日月型に変わる
おじいさん「うんうん、やはり素質があったんじゃな」
おじいさんは嬉しそうにいい、もう1つの頼みも言う
おじいさん「もう1つの頼みはのぉそのハープと共に旅をして欲しいのじゃ、わしらが見てきた世界を今度はオサリア自身がその目で見てきてほしい、様々な出会いがあるじゃろう、様々な景色が見れるじゃろう、全て見ることが出来たらわしらの墓の前でオサリアの冒険譚を聞かせておくれ」
オサリアはか細い声で「分かった…」と呟く、おじいさんはそんなオサリアの頭を優しく撫でる
おじいさん「わしからの頼みはこれだけじゃ、ばあさまはよかったかの?」
おばあさん「私ですか?そうですねぇ…元気に生きてくれれば私は満足ですよ」
そう言っておばあさんもオサリアの頭を撫でる
おじいさん「だ、そうじゃ、アランやオサリアを頼んだよ」
アランは「バウッ!」と大きな返事をした
そして時は流れる、あっという間に夜、2人をアランに乗せてゆっくり平原に向かう2人と出会ったあの平原に
2人を大木の根元に座らせるアランはそれに寄り添う、ハープを持ち演奏しようとした時おじいさんに手招きされる、2人はオサリアを抱きしめ言う
おばあさん「私達の所に来てくれて本当にありがとう、オサリアがいた日常は本当に幸せだったわ」
おじいさん「子供に恵まれなかったわしらじゃったが本当の娘のようにオサリアを愛しておるぞ」
オサリアは涙を堪える
オサリア「2人と出会えて本当に良かった、私も2人を家族のように愛しています」
しばらく強く抱きしめ合う、そして名残惜しそうに離れ少し離れる、そしてライアーハープを構える、おじいさんから受け継いだ純白のライアーハープ、1弦弾く「ピーン」透き通った音色が響く、すると周りの音がやんだあの時のように、静まり返った空間の中オサリアは演奏を始める、あの時出会った時にオサリアのためにおじいさんが弾いてくれた曲「静寂な夜に穏やかな眠りを」
弾いている間オサリアの中では色んな思い出が駆け巡る、2人との出会い、よく大木で遊んだ思い出、誕生日のお祝いや魔法や狩り、ハープの練習どれもこれも楽しい思い出ばかり、オサリアの目頭は熱くなる、必死に涙を堪える、演奏しきるその一心で
おじいさん「本当に幸せな人生じゃったありがとうばあさま、ありがとうオサリア、アラン」
おばあさん「私もとても幸せでしたありがとうじいさま、ありがとうオサリア、アラン」
2人は寄り添い手を繋ぎゆっくりと目を瞑るオサリアの演奏に見送られながら
オサリアは演奏を終え2人の元へ行く、2人は目を瞑り笑っていたまるで寝ているかのようだった、オサリアは2人の脈を測る、寝ているだけであってほしいと淡い期待を込めて、しかし2人の脈はなかった、オサリア涙が溢れてきた、我慢してきた涙が全て出ていく、またわんわん泣いた、アランはオサリアに寄り添っていた
オサリアは泣き疲れそのまま眠ってしまった、静かなとても静かな時が流れる
翌日
オサリアは村の人達に2人の訃報を知らせる、村の人達が集まってくれて、オサリアの希望であの大木に2人の墓を立てる、村の人達全員が墓に来て手を合わせていった、その日は色々疲れて早めに寝てしまった
次の日
オサリアは荷物をまとめていた、おじいさんの願い通り旅に出るために、思い出が詰まったこの家にも帰ってくるのは何年後になるだろうか、最後に荷物の確認をし外に出る、家に向き直り「いってきます」と告げる、振り返り村に向かおうとすると背後から「行ってらっしゃい」そう聞こえたような気がした、オサリアは微笑み振り返る事無く歩み始める
村の人達に挨拶していく、最後に訪れたのはフリーデン、相変わらず元気の良いビヤンおばさんが出迎える
ビヤンおばさん「いらっしゃい!あれ、オサリアじゃないか!今日はどうしたんだい?」
オサリア「私今日から旅をしようと思ってて、今村の人達に挨拶して回ってたんだ、で最後にビヤンおばさんに挨拶をって思ってね」
ビヤンおばさん「そう…だったのか、それは寂しくなるね…そうだ、ちょっと待ってな」
そう言うとビヤンおばさんは厨房の方に引っ込んで行き数分後戻ってきた手にはなにか小さな包みを持っている
ビヤンおばさん「ほらこれ持ってき昼にでも食べな、サンドイッチだよ」
オサリア「ありがとう、いくら?お金は払うよ」
ビヤンおばさん「いいのいいの、おばさんからの餞別だよ、旅に行っちまうのは寂しいけど、応援してるよ!ただ辛くなったりどうしようも無くなったらうちに帰っておいで!ここはあんたの故郷だよ!」
そう言うとビヤンおばさんはオサリアを抱きしめる
オサリア「ありがとうビヤンおばさん…」
ビヤンおばさん「さあ!頑張って行っといで!」
ビヤンおばさんに背中を押される
オサリア「うん!行ってきます!」
こうしてオサリアは歩き出したこれから彼女はどんな物語を紡いで行くのでしょうか、どんな人に出会いどんな景色を見ることになるでしょうか、それは誰にも分からない、オサリアの旅はここからだ