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妖の 猫と鼠の こい患い  作者: やう
珠緒と紗綾
1/25

 冬から春にかけて続いた「猫」と「鼠」の抗争は、「猫」が勝利を収めて一旦収束した。


 珠緒(たまお)は、「猫」の一族の娘である。


 今日は「猫の大将」の奥方に秋の(ころも)のお遣いを頼まれて、『彩衣亭(いろいてい)』で女郎花(おみなえし)色と、(はぎ)色の衣を見繕う使命を帯びていた。

『彩衣亭』は、大将の家から歩いて四半刻ほどの場所にあるが、真っ直ぐ向かうと「鼠」の土地を通過する事になるため、遠回りして歩かねばならない。

 抗争は終わったと言えども、未だ敵対心は拭えずにいる。多様な種族が居るこの妖しの世界で、とりわけ猫と鼠の相性は悪く、猫は鼠を下等種族と罵り、鼠は鼠で猫のことは、揶揄を含めて威張り散らした殿上人と嘲っている。

 幾度も抗争を繰り返し、根深い争いは本当の意味での終わりが見えない。今は言うなれば一時休戦中の状態だ。


 そんな中、今日も珠緒はのんびりと、『彩衣亭』へと向かう。

 互いに嫌いあっている間柄(あいだがら)だが、『戦えぬ者には一切の手を出さず』というのが両者の間での取り決めであったし、これが破られたことはない。理屈で言えば、珠緒が鼠の陣地を通過しても害されることは無いが、やはりそちらに向かうには、勇気が足りないのだ。

『彩衣亭』はそんな、いがみ合う猫と鼠のどちらにも属さない、『鳥』の領地の中にある、「鳩」の地域だ。


「あら、珠緒ちゃん。こんにちは。今日はどうしたのかしら?」

「秋の衣を見に来ました。紗綾(さや)さんのお勧めを教えてください」


 紗綾は『彩衣亭』の店主で、艶やかで美しく、光の加減で多様に輝く髪を持ち、服屋の主らしく洒落た着物を身に纏う女性だ。今日は野葡萄(のぶどう)のような色の着物に、臙脂色(えんじいろ)の唐衣を合わせて着ている。珠緒はこの紗綾に憧れており、会う度に胸を弾ませつつも、緊張していた。


「そうねぇ。この移ろい菊の色味は新しく仕入れたものよ。あとは、この萩の衣も深い色合いで美しいと思うわ。今日も美弥(みや)さんのためのお買い物かしら?」

「はい......」


 紗綾は麗しい微笑みを称えながら、珠緒に衣を紹介する。


 美弥というのは、「猫」の一族の大将、喜屋戸 成行( きやと なりゆき)の奥方で、珠緒に衣のお遣いを依頼した女性だ。


(じゃあ、萩の衣は紗綾さんのお勧めのこれにするとして)


 美弥に頼まれていた女郎花色の衣も選ばねばならない。珠緒は辺りを見るが、豊かな色合いの衣がたくさん掛けてあり、大人の衣装はどれがいいのかわからない。


「女郎花の色ってありますか?」

「ええ。これはどうかしら?」


 紗綾は落ち着いた色味の、しかし目を惹くような黄色の衣を取り出す。

 自分で選ぶより、やはり美弥に頼んで正解だった。


「ありがとうございます。じゃあ、さっき出してもらった萩と女郎花と、それと移ろい菊の衣もお願いします」

「はあい。珠緒ちゃんはしっかりしていて偉いわね。今包むわ、少し待っていてね」


 紗綾はそう言うと、衣を紙に包み、そしてそれを珠緒が持ってきていた風呂敷に包んで渡してくれた。

 珠緒は代金を払うと、礼を言って店を出た。

(しっかりしているって、紗綾さんに言われちゃった)


 もっと大人っぽくなりたい。紗綾のような、素敵な人になりたい。

 13歳の珠緒は、軽い足取りで「猫」の縄張りへと戻るために歩を進めた。


普段は人と何も変わりません。

たまに猫になったり鳩になったりできますが、サイズ感は本物よりもだいぶ大きいです。

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