お仕事
これから撮影していくらしい。それにしてもカップルがトップモデルなんてすごいことだと思う。しかも彼氏は女装してるし、彼女は男装してるし。こんなカップル多分どこにもいない。
「学生服を着てもらいましたので、最初は教室スタジオで撮らさせていただきます。ポーズの方はファンや編集者達から募りまして、その中から私が選んだものをやってもらいたいなと思います。とは言え私は優柔不断なものですから、たくさんございますので大変かとは思いますがよろしくお願いします。」
カメラマンさんは話を丁寧にしてくれる。カメラマン優柔不断なのか。しんどいなこれは。
教室スタジオは大きなスタジオの一室である。それはもう教室そのもので、小、中、高で体験した青春感、懐かしさが漂っている。
「じゃあまずは馨さんは本を読んでる清楚系な女の子役で、霞さんはその子にちょっかいをかけるちょいチャラめの男の役でお願いします。あと2人は高校生の設定です。」
僕は清楚を演じるのか。小説の持ち方や、座り方に気を遣い少しでも女性らしく見せるのがコツである。僕は演技のスイッチを入れて、表情を作った。霞もスイッチが入ったのか、自然と男らしくなっている。ちゃんとチャラい。少しにやけるところとか、目つきとか、机の手のつき方とか、全てがチャラく感じる。こんな一面見れるなんて最高だな。トップモデルで良かった。
「ちょっと馨さん。口角上がっちゃってるよ。もうちょっと怒った感じ出さなきゃ!今読書邪魔されてるんだよ!いや、でもチャラ男の事が好きだと言う設定にすれば、若干照れてる感じも出ていいか。おけ、ナイス演技ね。」
いや霞の姿や仕草ににやけてしまっただけなのだが。完全に無自覚のやつだから普通に恥ずかしいんだけど。ただ、カメラマンの臨機応変な解釈により、演技というふうになったので、とりあえずそういうことにした。
「はいオッケー。じゃ次は壁ドンね。」
壁ドン!?僕耐えれるかな?
「じゃあ次はさっきの清楚の子が、あのチャラ男に口説かれてるシーンを撮りたい。壁ドンはがっつり肘ついちゃって結構顔近めでお願いします。霞さん。惚れさせにいって構いませんよ。」
顔近め!?惚れさせても構わない!?じゃあこっちだってやってやるよ。くらえ!僕の精一杯の上目遣い!
霞は目を合わせられなくなった。なんでそっちが惚れさせられてるんだよ。もっと頑張ってくれよ。照れ顔かわいいな。
「はい。いいのが撮れたよ!次行こうか。」
このあと撮影は順調に進んでいった。
「いやぁ今日はありがとう。撮ってて楽しかったよ。」
カメラマンはご満悦のようだ。この日カメラマンはテンションが上がりすぎて、予定していた撮影時間よりも1時間ほどオーバーした。よほど楽しかったんだろうな。
「やっぱりトップモデルなだけあって、お互い表情がすごく良かったよ。照れてる感じも自然だし、ガチで惚れさせにいく姿勢も素晴らしかった。」
いや照れてたのはガチ照れであって、演技じゃないんだが。まさか男装してるところにまで惚れるとは。
「じゃあ遅くなっちゃったけど、今日は解散します。ありがとうございました。」
「ありがとうございました。お疲れ様です。」
無事撮影は終了した。
1周年記念特別コラボ雑誌発売日当日
お店に並べられた雑誌はすごい勢いでなくなっていき、その勢いはツイッツーのトレンドに載るものだった。僕たちのファンの皆さんがこぞって買ってったそうだ。特にネットでは壁ドンの写真が大人気だった。個人的にもお気に入りだ。霞との仕事も悪くないな。承認欲求が爆上がり、ドーパミンがドバドバに出た日であった。




