彼氏とおうちデート・中編
霞目線の話
なんやかんやあったが無事に肉じゃが定食を作ることができた。割と形になって安心している。時計を見れば正午過ぎ。まだ馨と一緒に過ごせるけど、何をして過ごすか何にも計画を立てていない。さて、どうしようかな。馨の方に目をやるが、スマホを触っている。デート中なのに?こやつ目の前に彼女がいるって言うのに、何様のつもりだ。スマホじゃなくて私を見つめなさいよ。
「このあとなんかしたいことある?」
馨が私に聞いてきた。
「え、そうだな...」
私は馨から質問が飛んでくるなんて思わなかったから答えられずに戸惑ってしまった。
「よかったらさ、映画見ない?僕ネタフリ契約してて、HDMIも持ってきてるから、霞のテレビで映画見られるよ。お家デートだし、ゆっくりしたいなって」
え、私の彼氏有能?
「そうしよ!」
私のテンションが爆上がったせいか、馨にクソデカボイスで返事をした。馨は私の声量に圧倒されていた。
私はテレビの前のソファに腰掛け、映画の準備をする馨をぼーっと眺めていた。
「馨ってモテるんだろうな」
と私は思った。顔も性格も良くて、たまに男らしいのに、女装完璧だし、メイクもできちゃうギャップを兼ね備えてる。そんな人間がモテないはずがない。もしかしたらどこかしらの馨に告った女の子と浮気してるんじゃ...。いやいや、そんなはずはない。相手は馨だぞ。あの馨だぞ。そんなことするわけがない。
「霞!」
「ん?どうしたの?」
「何度呼びかけてもぼーっとしたまんまだから。なんかあった?」
「いや、ほんとしょうもないことを考えてただけ」
「そっか。なんかあったら僕に言ってよね」
「うん。ありがとう」
やっぱ浮気なんてするはずがない。
「霞はなんかみたいのある?」
「私ホラー映画みたい」
「え゛!」
「馨ってホラー苦手だっけ」
「すごく苦手。僕はコメディとかがみたいな」
「じゃあ、じゃんけんで勝った方がみたいやつ見れるシステムにしようよ」
「わかった。その勝負買った!」
私は知っている。馨はじゃんけんの初手絶対にグーを出す。私はパーを出せば余裕で勝てる。
「最初はグー!じゃんけんぽん!」
あのジャンケンから2時間くらい経っただろうか。馨は今、私の横でうずくまっている。じゃんけんの結果は私の勝ち。案の定、馨はグーを出した。
「つ、次は僕のみたい奴を見させてくれ...」
顎を震わせながら、涙目で私に訴えかけてきた。流石にちょっと可哀想に思えてきたので、みたいやつを見せてあげた。薫がチョイスしたのは最近流行りの「歩いて岐阜」と言う映画。日本のコメディ映画の覇権を握っている映画である。私は「歩いて岐阜」を映画館で見ることができなかったので、内心嬉しかった。
私はテレビをじっとみていると、メールのプッシュ通知が見えた。メールの送り主の名前は「茜」。まさか、浮気!?私は頭が真っ白になると同時に、はらわたが煮えくりかえる思いになった。こいつとうとうやったわね。私はスマートフォンを手に持ち、馨の目の前に突きつけた。
「茜って誰よ」
平穏なおうちデートに不穏な空気。




