才能は...
社長の熱い思いを聞いた翌日。一応動画を回した。
挨拶の順番はじゃんけんで負けた霞からになった。
「どうもみなさんこんにちは。...こんにちは...」
なぜかカメラの前で言葉に詰まる霞。緊張なのか、はたまた考えてきた挨拶を覚えてないのか。
「どうした?」
「いや、私の所属事務所どこだっけ」
え?おいおい嘘だろ。もう半年以上もこのモデルやってるんだぞ。忘れるわけなくないか?
「馨と事務所一緒なはず。馨覚えてる?」
「そりゃ覚えてるとも。僕たちの事務所は...事務所は...」
あれ?どこだっけ?
「もしかして馨も忘れた?」
「え、あ、いや、その〜、はい。忘れました」
そういえば考えたこともなかった。マネージャー(琴塚)にほとんど仕事を任せてたな。だから自分は何もしなくてよかったんだな。
「ちょっと琴塚さんに電話してみる」
「もしもし琴塚さん」
「はいはい?どうした?今撮影中やないの?」
「そんなんですけど、自己紹介の時、どこどこ所属のとかいうじゃないですか?そこで質問なんですが、僕の事務所ってどこでしたっけ?」
「え?今更?」
そりゃそうだ。半年以上所属してる事務所の名前を今更聞くなんて、そんな反応になるのも仕方がない。
「うちの事務所は、井川出版だよ。うちの会社と同じ名前だよ」
「ありがとうございます」
「それにしても自分の事務所忘れるってどうなんだ。その辺しっかりしてくれよ。そもそも」
「ありがとうございます。失礼しました」
「おい、まだ話は終わっ」
ガチャ
長くなりそうだからきった。
「挨拶の時は、どうもこんにちは井川出版所属、MENSgirlのモデル、萩です(改名済)的な感じになるかな」
「なんか長くない?私めんどくさくて覚えられない気がする」
「そこめんどくさがんなよ」
自分の事務所も思い出したとこで、もう一度動画を回すことにした。
「どうもみなさんこんにちは!井川出版所属、MENSgirlのモデル。萩と」
「こんにちは。同じく井川出版所属、アイマイミーのモデル。飛鳥です(改名済)」
今思った。活動名めっちゃいい感じじゃない?どっちも中性的な名前で、僕らにぴったりだと思うんだけど。そんなこと言ってる場合じゃないか。僕が勝手に一喜一憂している間に収録は進んでいく。
「では、萩さん。今日の動画の企画の説明をお願いします」
「はい。今回は記念すべき、初回ということでとにかくやる気を全面に出していこうという企画です。ということで、改めまして我々、MeTubeはじめました!」
「よいしょ!」
「これから頑張っていこうということで、やる気をみんなに見せつけていこうと思います」
「やる気を見せつけるって難しくないですか?」
「私もどうやって、やる気を見せつけることができるかよくわかりません」
「ちょっと待った。一旦撮影止めるね。」
僕は耐えられなくなった。これ伸びるのか?
「そういえば、やる気を全面的に出す企画って何だよ」
そもそも、やる気を視聴者に伝えるって何?
すると霞は
「私もわからない。記念すべき1本目なのに、もうネタ切れしてる。」
と顔を歪めた。
僕らMeTubeの才能ないのか?