平和な時間 ミモザ視点
ニャーン、ンナーン。
腹を空かせているのかそれとも仲間を探しているのかその猫は鳴く。
「あら、ごめんなさい。いまはなにも持っていないの」
三つ編みにした髪を横に垂らした少女はそう言って通り過ぎる。
彼女はなぜここにいるのか今朝のことを思い出す。
「ミモザ、すまないが墓参りにはお前一人で行かせることになる。」
父が重々しく口を開きそんなことを言った。
珍しく全体の雰囲気が申し訳なさそうだった。
「そうなの、大丈夫よ。お母さんのお墓には一人でも」
寂しさを滲ませた笑顔で父に承諾して、朝食を済ませた。
母は私が幼いときに流行病で死んでしまったと父から聞いている。
そのせいだろう。私には母との思い出というものが白紙だった。それでも父が母を大切にしていることは見ていればわかった。だからこそ今年は命日に二人で母の墓には行けないことがどれだけ父にとって負担なのかが今朝の時点で伝わった。
近所の子供達が自分の親について話すとき少しだけ胸の辺りがチクッとしたのはきっと気のせいだろうと見ないふりを今も続けている。
でも、一人でいったことはないから少し怖いな。墓地はこの道をまっすぐ進んでたしか花畑のようになっている道を右に曲がるんだよね。
それから5分後には例の花畑が広がっている場所まで歩いて来れた。それでホッとしたのはいいが、ミモザは忘れていた。お墓参りに行くときは花屋で花を買ってからくるということを。
「どうしよう、お花買い忘れちゃった!ああ、でも今から戻ったらお墓には時間的に遅くなっちゃうし、そうなると心配、する、よね?でも行くのだったらお花は必要だし」
一人焦りながらちら、と花畑を見て一瞬考えた。ここから少し摘んでもバレはしないのではないかと
「いいよね?少しだけだし、誰も見てないしというか誰も怒ったりしないでしょ」
そうしてミモザは花をいくつか摘んでから再びお墓へ向かった。
その背後には一匹の猫がじっとミモザを見つめていた。




